魔法士ランダルフ1
カロンの勉強相手を務めた日の翌日。
私と父さんはマーカスさんから手紙を受け取り、隣村のガルナガンテさんに届けた。
その際、マーカスさんから預かった言付けを伝えた。
その場で開封して一読してほしい、と。
ガルナガンテさんはその場で手紙を読み、こう言った。
了解したとマーカスに伝えてくれ、と。
それを聞いて私は立礼し、言葉で感謝を伝えた。
配達が終わり第七ホラス村に戻った私と父さんは、報告のためマーカスさんの家を訪れていた。
「・・・というわけで、ガルナガンテ村長から、了解したとマーカスに伝えてくれ、との伝言を頂きました」
「ふむ、そうか」
マーカスさんは報告を聞いて、まず配達の報酬を渡してきた。
そして仕事に一区切りをつけたところで、私と父さんをそれぞれ見た。
「ガルナガンテには手紙で頼んだことが二つある。一つは、エルナが魔法士様にお会いできるよう便宜を計ってもらうこと。もう一つは、領都からの輸送隊が今日から六日後に隣村に到着する予定だが、その前日からガルナガンテの屋敷にエルナとドナンを泊めてもらうこと、だ」
宿泊の手配!?仕事でもないのに!?至れり尽くせりじゃないですか!?
私は流石に驚いて何度か瞬きした。
「エルナ。ここから先は仕事ではなく君自身の問題だ。とはいえ、魔法士様にお話できたら、その報告だけは頼むよ」
「は、はい。もちろんです」
マーカスさんは父さんに向き直り、続けた。
「ドナン。エルナの希望を叶えるためだったが、勝手に決めてすまないね。もうエルナから聞いているかもしれないが、六日後にエルナが魔法士様と会えるよう手配した。エルナに付いていってあげてくれ」
私と父さんは椅子から立ち上がり、胸に右手を当てて頭を下げる。
「村長さん、ありがとうございます。ここまでして頂けるなんて思ってもみなかったです」
「村長、エルナのために動いてくれて、ありがとうございます」
マーカスさんは頷きながら声を掛ける。
「ああ、向こうに行ったらガルナガンテにも礼を言ってやってくれ」
「「はい」」
家に帰った私と父さんは、夕食を取りながら家族と話をした。
私は父さんには、もしかしたら魔法士様に会えるかもしれない、くらいの話はしていたが、今日のことを受けて、家族みんなにちゃんと経緯を話した。
ガルナガンテさんに魔法の話を聞いた半年前のこと。
魔法士の初級魔法を見てみたいこと。
マーカスさんが既知の魔法士様に会えるよう動いてくれたこと。
そして六日後にガルナガンテさんが、私と魔法士様を引き合わせて下さること。
「・・・それで五日後、私と父さんで隣村に行ってくるの。たぶん向こうに二日間泊まることになるよ」
「それじゃ、私とリンはお留守番ね」
「えー、おねぇちゃん、居ないのやだー。むー」
そう、母さんとリンはお留守番だ。私も寂しい。
私は隣に座っているリンの頭を撫でる。
「リン、五日後だからまだ居るよ。帰ったらいっぱい遊ぼうね」
「うんー」
リンは尖らせていた口を元に戻して、ふにゃっと頬を緩ませた。可愛い。
夕食を終えた私は、昂る気持ちを抑えることなくリンと一緒にはしゃいでいたが、寝床で横になるとお使いの疲れからか、すぐに意識を手放すのだった。
それからあっという間に五日が過ぎた。
出発の日だ。
昼の鐘が鳴り、私と父さんは家を出る。
「いってらっしゃい。ドナン、エルナ」
「おねぇちゃんー。父さんもー。いってらっしゃーい」
「ああ、いってくるよ」
「いってきます。母さん、リン」
リンは出発当日にはちゃんと見送ってくれる。いい子だ。
今日は仕事ではないが、仕事で外に出るときもそう。出発当日に駄々を捏ねる姿は見たことがない。
家族に見送られ、私と父さんは南門へ向かう。
門の内側の日陰に居た門番のミッテンさんに挨拶する。
「よお、ミッテン」
「ミッテンさん、今日も暑いですねー」
「あー、ドナンさん、エルナ。・・・夏の南門は地獄だよ。で、どこ行くんすか」
ミッテンさんは汗だくで、本当に大変そうだ。
「隣村に行くんだけど、二日くらいそっちで泊まってくるの。だから今日は戻らないよ」
「へー。そういやもうすぐ輸送部隊が通過するらしいから、宿は早目に確保した方がいいっすよ」
「あ、うん。ありがとう、ミッテンさん」
本当はガルナガンテさんの屋敷に泊まらせてもらえるんだけど、それをわざわざ言う必要はないだろう。
私と父さんはミッテンさんに手を振って村を出発した。
夏の陽が照りつける道中を歩き、ようやく隣村につくと、私たちはもう汗でびっしょりだった。
さぁ、まずはガルナガンテさんにご挨拶だ。お礼も言わなければ。
ガルナガンテさんの屋敷を訪ね、待機室で汗を拭き、身なりを整える。
身体から吹き出る汗が落ち着いた頃、使用人さんが呼びに来た。
たぶん、ちゃんとタイミングとか計っているんだろうなぁ。
部屋に通されると、奥にいるガルナガンテさんともう一人、部屋の横で深緑のローブを着た四十歳前後にみえる中年のおじさんが椅子に座っていた。初めて見る人だ。
おっと、挨拶しなきゃ。
今日は私がメインだ。私は先に歩き、父さんが後ろに付く。
私と父さんは、部屋の中央まで進みガルナガンテさんに向かう。
そして右手を胸に当ててお辞儀をした。
「よく来た。エルナ、ドナン」
「ガルナガンテ村長、こんにちは」
「うむ、二人とも面をあげてくれ」
あれ?いつもはここで、楽にしてくれ、って言ってくれるんだけど。
私はお辞儀の姿勢から身体を起こした。そして、視線だけでちらりと隣の父さんを見る。
大丈夫。父さんも身体を起こしただけで手は胸に当てたままだ。それで正しい。
心の中で、ほっと胸を撫でおろす。
よし、お礼を言おう。
「ガルナガンテ村長、この度は私に便宜を計って頂いただけでなく、宿泊の用意もして下さってありがとうございます」
「気にしなくてよい。道中何事もなかったか?」
「はい。暑かったですが、特に問題ありませんでした」
「そうか」
ガルナガンテさんは満足そうに頷いた。
中年のおじさんは変わらず部屋の横にいるが、そちらに不躾に顔は向けられない。
どなたなんだろう、気になる。
聞いてもいいんだろうか・・・。
「ふふ、エルナはそちらの御仁が気になるようだな」
「あ、その・・・大変失礼を・・・」
あーん。ガルナガンテさんてば、私の営業顔を崩さないでよー!
「よかろう、私から紹介しよう」
そう言ってからガルナガンテさんは中年のおじさんを見て、顎をくいっと上げる。
中年のおじさんは椅子から立ち上がると、穏やかな笑みを浮かべながらガルナガンテさんの隣に並んだ。
「彼は、『翠青の風』ランダルフ殿。四等冒険者で・・・魔法士だ」




