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第3話 恋を撃つ少女

同じ学校の生徒だ。


別の班の男子と女子が二人ずつ。昼間にも見かけた顔だった。名前までは知らない。修学旅行の夜にこっそり抜け出すには、少しだけ勇気のある組み合わせだった。


「ほんとに三回鳴らすの?」


女子の一人が言った。


「鳴らせば叶うんだろ」


男子が笑いながら答える。声は軽い。けれど、その軽さの下に、ほんの少しだけ本気が混じっている。


悠は、階段を上がるのをやめた。


今行けば、確実に気まずい。邪魔をするつもりも、覗くつもりもなかった。


戻ろう。


そう思った瞬間、鐘が鳴った。


一度。夜の海に、細い音が伸びる。


二度。笑い声が少し小さくなる。


三度。


音が消えたあと、展望台は妙に静かになった。


誰かが何かを言うのを待っているような沈黙だった。名前は声に出していない。しおりに書いてあった通り、心の中で呼んだのだろう。


それなのに、悠には、その場にいる全員が少しだけ無防備になったように見えた。


くだらない。そう思えばいい。


でも、思えなかった。


その時だった。


展望台の海側に、少女の姿が目に入った。


いつからいたのか分からない。


制服に似ていたが、学校の制服とは違った。白に近い淡い灰色の短いジャケット。黒のスカート。胸元に赤いタイ。黒いボブの左前髪には、細い三つ編みが一本だけ編み込まれている。黒縁の眼鏡が、月明かりを受けて銀色に光って見えた。


彼女は、海側の手すりの前に立っていた。


手には、小型の機関銃のようなものを持っている。


黒い外装。短い銃身。両手で支えるための形。形だけなら、明らかに物騒だった。


呆気に取られていると、少女が銃を構え、発砲した。


叫ぶ間もない一瞬の出来事だった。


しかし、そこから放たれたのは銃声ではなかった。


赤い光だった。


タタタ、と短く、軽い音が連続する。赤い光が、鐘のそばにいた四人を包むように散った。


四人は誰も倒れなかった。痛がりもしなかった。悲鳴も上げなかった。


ただ、隣にいた誰かを見る時間が、ほんの少しだけ長くなった。


武器に見える。でも、悠の知っている武器とは、何かが違う。


そう分かるのに、安心できるわけではなかった。


少女は続けて短く撃った。狙撃のように一人一人を撃ち抜くのではない。鐘の周りの空気ごと、ためらいを削るみたいに、赤い光をばら撒いている。


撃たれた女子が、隣の男子を見た。


ほんの少しだけ長く。


男子も、その視線に気づいて、笑いかけようとして失敗した。さっきまで軽かった声が、急に行き場をなくす。


もう一組の男女も同じだった。肩が近づいたわけではない。何かを言ったわけでもない。ただ、さっきまで全員に同じだけ向いていた意識が、ほんの少し、特定の誰かへ傾いた。


悠には、そう見えた。


少女は撃ち終えると、四人の様子を確かめるように、銃口を下げた。


そして、歩き出した。


海側の手すりから、鐘のそばへ。そこにいる四人のすぐ横を、何でもないように通り過ぎる。


肩が触れそうな距離だった。


それなのに、誰も振り向かない。誰も道を空けない。気づいていない。


気づいていない、というより、そこに人が通ったという出来事そのものが、最初から存在していないみたいだった。


悠は息を止めた。


少女は四人の横を抜け、展望台の入口側へ歩いてくる。


こちらへ。


悠は動けなかった。

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