謝罪と感謝と欲望
事件後の夕方。
戦闘の疲れを取るため、風呂に入ろうとすると、突然神薙から着信がきた。
「もしもし」
「あ、もしもし。桐生君今大丈夫?」
「ああ。……お前こそ大丈夫か?」
「うん……大丈夫」
意外と大丈夫そうだな。もう少しダウンしてるかと思ったが。
「それで、どうしたんだ?」
「今回の一件で本当に色々な人を巻き込んでしまったから……同盟相手のA組には改めて謝罪と感謝を伝えようと思って」
「そういうことか。別にお前が気にすることじゃないけどな……」
「ううん!私のせいだよ。……今回は本当に、ありがとうございました。それから、すいませんでした」
「あ、ああ。まあ、そんなに気にするなよ?」
「また桐生君に借りができちゃったね」
「別に借りとは思ってないぞ?」
「今後何かしらで役に立てたら良いな。……そうだ、桐生君って何か食べたいものとか、欲しいものとかある?」
「えーと…………」
食べたいもの、欲しいもの、か。
うーん。えーと…………。
「あ、あれ?何もない感じ!?」
「ああ、特には」
「遠慮せずに言ってほしいなー」
「いや、遠慮というか……その」
「物欲ないんだね…………困ったなぁ。塚本君たちにもおんなじ反応されちゃったし……。桐生君が何か言ってくれないかなーと思って連絡したんだけど」
「そうなのか。……すまない」
塚本はともかく、黒鉄はパッとこれ食べたい!!
とか、これ欲しい!!って言ってそうなもんだが……。意外だったな。
「報酬としてもらったマネーで十分ってことじゃないか?」
「そうなのかなぁ……うーん。なんかモヤモヤする。無理矢理なにかをプレゼントするにしても、何をあげたら良いか分からないし……」
「じゃあ俺から一つ良いか?」
「え?なになに!?」
「……俺達を裏切るような事は、絶対にしないでほしい」
「…………そんなの、お詫びにもならないよ」
「こんなことくらいしか思いつかない。だからこれでいいよ」
「…………本当に優しいね」
「そうでもないさ」
一瞬、自身が過去に体験した光景が脳裏をよぎった。
「そうでもあるよー?」
「…………」
「桐生君?おーい」
優しい、か。
本当は、優しいなんて言葉をかけられるような人間ではない。そんな言葉とはかけ離れている。
愚かな存在なのだ。
自身の過去を誰かに話す気はない。
だが、それもいつまで隠しておけるのだろう。
もしかしたらそんな時が来るかもしれない。
その時、誰かが俺を受け止めてくれるのだろうか……。
それとも______。
「おーい!大丈夫?」
「あ、ああ。悪い。ぼーっとしてた」
「ごめん!疲れてるよね……。じゃあまた学校でね!」
「……ああ」
通話終了。
「はぁ……」
嘘でもなにか言うべきだったか……?
いや、それはなんか失礼だよな。
すまない神薙。俺は物欲やら食欲は全くない。
ただあるのは、己の願いのみだ。




