根気
「……起きるか」
普段とは違い、早めに起床。……眠い。
それからそそくさと準備を始め、いつでも出れる状態に
しておいた。
「ふぅ」
こんなに早く済ませたのは初めてだな。
あとは時間が来るまで待つのみ。
少しして、神薙からチャットが来た。
さて、出るか。
別に一緒に登校するわけじゃない。
あくまでも彼女の近くに位置取るだけ。
変な気配があれば、それを突き止める。
彼女がエントランスから出ていく姿を少し遠目に確認し、俺もさり気なく歩みを進める。
今現在辺りにそういう変な人はいない。
彼女にはできるだけ変に意識せず、そのままでいてほしいと言ってある。
「さすがに違うか……」
目に映る人を一々確認していくが、それらしい人物はいない。
タワマン付近は静かめな場所なので、空間把握を使用できる。が、これといった反応はなく、通りの方に出た。
相変わらず朝っぱらから車と人通りが凄い。
ここに来てしまうと、空間把握は使えない。
それからそのまま校門前に到着。
怪しい感じはとりあえずなかったな。
たかだか一回で見つかるとは考えていない。
根気よく探るのみだ。
「……え?」
下駄箱に着くと、彼女の驚く声が聞こえた。
「……どうした?」
様子を見に行くと、彼女の靴箱の中から大量の
白の紙切れが溢れ出していた。その一枚一枚には赤い
文字で「死ね」と書かれている。
「……陰湿だな」
「仕方ないよ。他クラスの子たちからしたら、私の存在は間違いなく邪魔だろうし、追い詰めるチャンスだと思ってこんなことしてるんだろうね。
私がその立場だったらそうしてると思うし」
こんなことには屈さないと、彼女は相手側に立って心情を解説。
それから悪意のある紙切れを片していく。
俺も手伝おう。
これは完全に他クラスだな。さすがに盗撮犯は学校まで来れない。たとえ透明になる能力であろうと、発動した状態で入れば、即座に探知されるようになっている。
「あ、ありがとう。私が処分するから貰っておくね」
「あ、ああ」
自分がやられているわけじゃないが、なんだか心苦しくなってきた。……これが俺だったら、どうなってるんだろう。
「わざわざありがとね」
「あ、ああ……」
壊れる前になんとか救わないとな。
ああは言っていたが、彼女も人間。確実に心を砕きに
来られている。
こんなのが続けば、いずれは壊れてしまうだろう。
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「なあ、神薙って来たのか?」
「来てるみたいだぜ」
「なんか、可哀想だよな」
「まあでも他クラスだし、どうでもよくね?」
「それもそうか」
同盟を結んでいることは知らないので、こういった会話もA組内で聞こえてくる。
「神薙さん……大丈夫ですかね」
浮かない表情をしたイヴが、彼女を心配している。
「……どうだろうな」
「私だったらショックで来れないなぁ……」
真島は自身に置き換えて体を震わせた。
「私も多分……来れないですね」
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放課後。
神薙からチャットが来た。
先に帰りの挨拶を済ませていたらしく、彼女は素早く学校を飛び出したようだ。
なんとなくの現在地を教えてもらい、
神薙のところに向かう。
近くなってきたところで、彼女には再度歩きだしてもらった。
しばらく歩くも、今のところ特になにもない。
(神薙。そのまま帰らずに、俺とどこか行こう)
(え?)
(これも作戦だ)
(うん。それは良いけど……)
(なんだ?)
(桐生君が心配だよ)
(そうか?)
(ありもしない噂を立てられたり、私みたいに嫌がらせを受けるかもしれないよ……?)
(あんまり気にしないから大丈夫だ。心配してくれてありがとう)
(うん。えっと、じゃあとりあえず集合しよっか)
(ああ)
マスクとサングラスをつけた彼女と合流し、繁華街を歩く。
「この街も凄いよね。東京にいるみたい」
「……だな」
東京には行ったことないので良くわからないが、こんな感じなのか。
「桐生君はどこ出身なの?」
「えーと……」
出身か……答えづらい。
俺に故郷なんてものはないからだ。
ここで適当な都道府県を答えても、その場所に詳しくないので、何も話ができない。
さて、どうする?
「……あ、なんかごめん」
彼女は何かを察し、謝っていた。
「いや、こっちこそ悪い。昔のことは記憶が曖昧だったりしてさ、あんまり覚えてなくて」
「そうなんだ。私も昔のことはあんまりいい思い出がないんだよね……」
「そうか」
「暗い話になっちゃったね。切り替えていこ」
「ああ。そうだな」
未だに会話が苦手な俺。
話術をどうにかできないものだろうか。
「桐生君って、好きな子とかいる?」
「いや、特には」
「そっかー。こんな学校だけど、結構カップルいるんだよね」
「そうなのか……知らなかったな」
「桐生君とこはそういう感じないの?」
「……思い当たらないな」
強いて言うなら塚本がモテてるくらいで、付き合ってる感じはしないな。そんな場合じゃないってのもあるが。
そんなやり取りをしつつ色々な場所を巡っていき、日が落ちる頃に帰宅。
「わざわざ部屋の前までありがとね」
「ああ。また明日」
「うん」
少しだけ表情が明るくなっていた気がする。
今日だけで十分に彼女と過ごした。
明日も同じことを続けよう。根気よく。




