取引
朝8時過ぎ、今日は休み。だが、俺は私服を着て学校に向かった。
運動部の生徒達を横目に俺は職員室へ足を運ぶ。
ドアをノックし、自身の学年と組、それから名前を言い、羽澤先生に用事があると伝えた。
「あらぁ、おはよう。休日にどうしたの?」
「少しお話がありまして」
そう言うと、先生はちょっと待っててと言い、職員室から鍵を持って出てきた。
そして、以前も行った対談室に入る。
「あ、コーヒー飲みます〜?今日は残念ながらケーキはないんですけど……」
「あ、いえ、お構いなく」
前と同じくコーヒーを入れると、先生も座った。
「それで、ご要件は何かしら〜?」
「実は一人、調べたい生徒がいまして」
用件を伝えると、先生は少し笑みを浮かべてこちらを見つめた。
「なんで私のところに来たんですか〜?」
「生徒の情報を閲覧出来るのは先生だけです」
「そうね〜。でも、真っ向からそんな情報、教えるとでも思います〜?」
「当然そんなことは分かっています。でも、学校のルールに、先生から他人のプライバシーの情報を譲渡してはいけない、なんて項目はありませんでしたよ?」
屁理屈でしかないが、この学校ではルールに載っていない事が通ってしまう。人を殺めてはいけないなんて常識的な事を破り、殺してしまっても、ここではお咎めなし。本当に異常なところだ。
とはいっても今回の場合は相手の出方にもよる。
この先生なら何かしら条件を言ってくる可能性が高いだろう。
「ふふふ!あははは!!そうきたのね〜」
お腹を押さえて爆笑し、足をバタバタとさせた。
「はぁ~。面白かったわぁ。でも、ただ教えるわけにもいかないし〜……」
「端から簡単に教えてもらえるとは思ってません。……今俺の持ってるマネー全額なんてどうです?」
そこまで多いわけじゃないが、俺が出せる価値のあるものはこれくらいしかない。
「そうだなぁ…………あっ!ち、な、み、に、誰の情報を見たいのかしら〜?」
「神楽島です。F組の」
そう答えると、再び彼女は笑みを浮かべてこちらを見つめた。
「ふふふ。神楽島君を知りたいのね〜。じゃあ一つ条件がありま〜す」
やはり条件付きか。ここまでは想定内だ。しかし、一体何を要求されるんだろう。
「何ですか?」
「ふふ!詳細は言えませんが、近々学校で行事があります。あなたはそれに参加して、勝ってほしいんです〜」
その行事とやらは挙手制の何かみたいだな。
代表戦のような目立つ系は勘弁してほしいが……この際仕方ない。決行は明日に迫っている。
「行事、ですか?」
「ええ。嫌ならただ教えないだけですからね〜」
「いえ、それで教えてくれるのなら、参加しますよ」
「あらー!先生とっても嬉しい〜」
先生はニコニコしながらこちらにダブルピースしてきた。
「……そんなに嬉しいんですか?」
「もちろんよ〜!なにせほぼ勝確な子を出せるうえに、勝ったらボーナスよ!ボーナス!!」
「なるほど。よく分かりました」
俺達が争っていくなかで、先生たちにも多少の影響があるってことか。まあ確かに、金はいくらあっても困らない。
「あまり期待しないでくださいね」
「期待はしませんけど、勝たざるを得ないと言っておきます。とにかく頑張ってくださいね~!ふふふ!!」
彼女はご機嫌な様子で自身のスマホを取り出した。
「ちょっと待っててくださいね〜」
「はい」
数分後、彼女はこちらに画面を見せた。
「ん?QRコード?」
「ええ、連絡先交換しましょうか〜」
まさか先生と連絡先を交換するとはな。
まあ書類だと色々まずいか。
そして俺は、先生のスマホ画面に表示されたQRコードを読み取り、連絡先を登録した。
「えっと…………」
先生からチャットでブサイクな猫のスタンプが送られた。
「よろしくお願いしますね~」
「は、はい……」
それから間もなくして、神楽島のプライバシーが載ったスクショが送られてきた。
「これで取引成立ですね~。あとは拡散なりなんなり好きなようにしていいですよ〜」
さらっと酷い事を言ってるな。
「ありがとうございます」
「その情報でなにするんですか〜?」
「さあ、なんでしょうね」
「ふふふ!楽しみにしてます〜」
こうして俺は、羽澤先生との取引により、神楽島の情報を入手した。
自分でコソコソするのは得意だと言っておきながら、これは大胆すぎるな。まあ、結果オーライだったわけだが。
先生の言っていた行事が気になるが、今は置いておこう。




