尾行と空間把握
放課後になった。
「……ん」
塚本はこちらをチラッと見て小さく頷いた。
俺も小さく頷き返す。
塚本とは昼休みの時間を使ってチャットで何を調べるのか聞いた。
彼はとりあえず学校でさり気なく聞き込みをして
情報を入手するつもりとのこと。
そして俺は神楽島を重点に置き、分担して調べることになった。
すごく心配されたが、俺はコソコソするのは得意だ。危険を察知する能力は高い。心当たりがあるはずだ。と伝えると、納得してくれた。
早速教室を抜け出し、F組の教室近くにさり気なく
スマホをいじるふりをして待ち伏せる。
神楽島が中にいるのは確認した。
俺一人がポツンといるわけではないので、
絶対に目立つことはない。しかし、待ち伏せってのは退屈だな。
「神楽島さん。今日はどちらに?」
数分後、
取り巻きの男子生徒が教室のドアを開け、
出てきた。神楽島が次に出てくると、
他にも五人ほど取り巻きがいる。
というか、日村と神薙を狙っていた奴がいるな。
どうやらF組の生徒だったようだ。
雑談していた他の生徒は神楽島達を確認すると、一瞬、黙り込んだ。
噂話でも流れたのか、それとも代表戦の一件で
恐れられているのか。
どちらにしろ、良くは思われていない。
「そうだなぁ……今日はとりあえず帰って作戦会議だ。俺の部屋に来い」
「うっす!」
奴らの些細な会話も聞けるよう、一定距離を保ちながら尾行を始めた。
タワマンの方に向かっているので特に目立つことなく、歩みを進める。
「神楽島さん。作戦会議ってのは例の?」
「ああ。もう少し加速させないといけないからな。必ず引きずり出してやるための策をな」
なんのことかは分からないが、"誰かと戦いたい"という願望でもあるのか。
さて、俺も気になるし、
例の作戦会議とやらに参加させてもらおう。
「ちょっとコンビニ寄っていいッスか?」
「ああ。行くか」
道の途中にあるコンビニに寄り、買い物を始めた。俺も何気なく入り、水とカップラーメンを購入。
「あざっす!!」
「あざっすー!」
「気にするな。金ならある。さ、行くぞ」
神楽島が取り巻き達の分をまとめて奢っていた。
しかし、その金はどこから来たんだろうな。
想像はつくが、それ以上考えるのをやめた。
奴らは俺達と同じく一棟のタワマンだ。
これなら入りやすい。
他の棟だと色々と手続きが必要だからな。
別棟のエントランスの台座にスマホをかざしても通れないようになっているらしい。
奴らがエレベーターに入ったところを狙って
電光掲示板に表示された階層を確認する。
七階と表示されていた。
俺も七階を選び、一度降りる。
足音を立てず、目立つような動きも見せず、
奴らの足音を聞きながら特定していく。
見つけた。部屋番号は0712号室。
よし、特定は出来た。
後は自分の部屋からお邪魔しよう。
俺はすぐに自室へ戻った。
そしてバルコニーに出て一度深呼吸し、目を閉じる。
「…………!!」
俺の能力は「風力操作」。
自身から半径五メートル以内の風を操ることができる能力。攻守共にあまり長けておらず、決定打に欠ける。
と記載されているが、俺は他にも芸当がある。
それは、半径約十メートル以内の"空間把握"だ。
元々、気配の察知は得意な方だったが、
風の能力を使っていると、より気配に敏感になる。
騒がしい場所じゃなければ、離れた人の話し声なんかも盗聴できてしまう。
体験入部の帰りに襲われた時にもこれを用いていた。結果犠牲が出てしまったが……。
この芸当は、静かな場所であれば
常に発動している。
そしてこれを用いて奴らの部屋をめがけて
探知を開始した。分厚いドアガラス越しにも話し声ぐらいなら聞こえる。
幸いそこまで離れた階層ではない。
ここからお邪魔させてもらおう。
「…………」
目を瞑ったまま神楽島達のいる部屋に意識を集中させる。
「まずは、神薙と仲の良いクラスメイトをブチ殺す。俺達がC組を襲ってるのは知ってるだろうし、あの女もそのまま知らんぷりなんてしないはずだ」
神薙はC組の生徒だったのか。
「へっ!そしたら感情に任せて錯乱ってわけか」
「まあそういうことだ。あのクラスは神薙に頼り切ってるフシがある。さっさと潰しちまえばクラスとして機能しなくなるだろう?」
「神楽島さん!サイコー!!」
「それで、その後は?」
「まあ慌てるな。もちろん次の標的はあの"D組"だ。特にあいつは潰しがいがある」
「全体的に俺達を警戒してるようだが、どうやって情報収集するつもりだ?」
「んなもん決まってるだろう?……金だよ!」
「……ふぅ」
盗聴をやめ、目を開ける。
奴らが狙ってるのはC組とD組か。
俺達A組に関する話は一切なかったな。
C組は神薙、D組はあの真田がいるところだ。
真田政宗。
一年D組の男子生徒。眉間にしわを寄せた強面系のイケメン。この前おこなった体力テストで
満点を取った唯一の男。文武両道という言葉が一番似合うと言われている。
間違いなく学年最強候補だ。
結果、神楽島が狙っていないと分かった。
しかし……俺達が狙われる理由はなんだ……?。
憶測の域を出ないが、接点がない相手ではない気がする。
あの日以前に他のクラスメイトが狙われた
例は一つだけ。日村がF組の生徒に囲まれて、電撃を使っていたあの日だ。
電撃を使っていたからと言って彼が犯人というわけじゃない。そもそも狙うメリットがないからだ。……多分。
「…………」
目を閉じて頭の中で整理する。
ああ。そうか。そういうことか。
一つ仮説が浮かんだ。




