手料理
「さて、そろそろ作りますね〜」
彼女の部屋に招待され、いつしか夕飯時を迎えた。
「あ、俺も手伝うよ」
彼女の後を追うようにキッチンに向かった。
適当な食生活を送っている俺にも一応、家事の心得は存在する。小田さんに一通り教えてもらったからだ。
「いや、良いですよ。お客さんなんですから座っててください」
そう言うと、彼女が俺の両肩を掴んで回れ右をし、そのまま背中を優しく押され、リビングの方へと引き返えされた。
「……いや、やっぱり俺も、」
もう一度向かおうとすると、彼女はこちらに笑みを向けた。妙に圧を感じるような…………。
「わ、分かった。じゃあ……お願いします」
「少々お待ちを~」
イヴはエプロンをつけポニーテールに結び、準備を始めた。
申し訳なさを感じながらも、俺はイヴを横目に
スマホで再度、部活動の紹介映像を閲覧した。
「ほっ!よっ!ほいっ!」
彼女の小さな掛け声と共に肉をペチペチとこねる音が聞こえてきた。
チラリと見ると、なんとも可愛らしい光景が。
それからすぐに、ジューっという音と共に
いい匂いがしてきた。
めちゃくちゃ腹減ったな。
「出来ましたー」
「おぉ!」
二つの大きなハンバーグに、人参とブロッコリー。それからポテトがお店のように盛り付けられている。その横には茶碗に盛られたご飯まで。
「何から何までありがとう」
「何言ってるんですか、材料費は桐生君が払ってくれたっていうのに……。元々そんなつもりはなかったんですから」
「気にするな。手土産代わりってことで」
「じゃあ、食べましょうか」
「「いただきます」」
ナイフとフォークを使い、大きなハンバーグを切り分けていく。
すると、凄い量の肉汁が溢れ出した。
そしてそれを一口。
「……美味い」
「本当ですか!?」
「ああ、めちゃくちゃ美味しいよ」
かなり久々の手料理。というか、まともな飯だ。
やっぱり手料理って違うな。
俺もたまにはやってみるか。
まずは機材から取り揃えないといけないが。
「良かったぁ」
彼女は物凄く嬉しそうだ。
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「ご馳走様でした」
「お粗末様でした〜」
ほぼ同時に食べ終えたので、皿を洗おうと立ち上がる。
「いえ、私が、」
「これぐらいやらせてくれ」
立ち上がろうとした彼女よりも早く、皿を持ってキッチンに向かった。
「じゃあ……お願いします」
「ああ」
「この一週間、すごく長かったですね……」
「確かにそうだな。初っ端から一人退学してるし、先が思いやられるな」
「どんなペースで落とされていくんでしょう……」
楽しい飯時から一変、学校の話ともなると
暗くなってしまう。仕方のないことだが。
現に人が死ぬのを目撃しているから余計に重い。
それに加え、塚本のような事情を抱えた生徒の集まりだと知って重さが増す。
逃げ出そうにも、そう簡単にはいかない。
選択肢は三つ。
自殺するか、誰かに殺られるか、はたまた学校に蹴落とされるか。
「あ、ごめんなさい!こんな暗くするつもりは、」
「いや、仕方ないさ。とにかく協力して頑張るしかない」
「そうですね。もう少し団結力なんかあると良いんですけど……私が言うのもなんですが」
「現状、みんな自分の事で手一杯だろうから難しいだろうな。まあでも、クラス交流会を提案した笹木も塚本みたいに皆を引っ張ろうとしてるし、良い方向には向くんじゃないか?」
「そうなると良いんですけどね」
時刻は二十時。
あまり長居するのも悪いし、そろそろお暇しよう。
「そろそろ帰るよ」
「もう行っちゃうんですか?」
「いや、まあ……その、あんまり長居するのもな。お互いやることもあるだろうし」
「まあ、そうですね」
「今日は本当にありがとう。凄い楽しかった」
「こちらこそ、ありがとうございます!」
「ご馳走様。それじゃ、」
「あの、」
彼女が何か言いたそうに俺の左袖を掴んで呼び止めた。
「ん?」
振り返ると、彼女はまっすぐこちらを見つめていた。こうまじまじと見られると恥ずかしい。
「______また、ご飯食べに来てください」
「あ、ああ……またな」
彼女の笑顔に眩しさを覚えながら部屋をあとにし、廊下を歩く。
小田さん。
ここに来て一つ分かったことがある。
誰かと食べるご飯は……めちゃくちゃ美味しいみたいだ。




