甘いマスクの裏側
クラスメイト達はそれぞれ食事と会話を楽しんでいた。男子に囲まれていたイヴは、真島が間に入り、なんとか会話しているようだ。
「ちょっとトイレ行ってくるね」
様子の違う塚本に、つい俺は目で追った。
「桐生君?」
「……悪い。ちょっとトイレ行ってくる」
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レクリエーションルームを抜け、彼の後を追うことにした。
「ん?」
トイレには行かず、彼はエレベーターに乗っていた。俺も別のエレベーターを使い、一階に降りる。
「はぁ」
先に着いていた彼は、
エレベーターホールのソファに座って頭を抱えていた。
明らかに様子が変だったが、一体どうしたのだろう。
「大丈夫か?」
話しかけづらい雰囲気を漂わせていたが、彼に声をかけた。
「あ……桐生君か」
無理しているような笑顔で呼びかけに応じた。
「えと、大丈夫だよ?」
「そうは見えないぞ」
「変に見えてたかな……」
「ああ。だいぶな」
ケーキを見た塚本の顔。
あれは、ただケーキが嫌いという目や表情ではない。なにか別の理由があるはずだ。
「実は僕、誕生日が嫌いなんだ」
「そうか……それでケーキをあんな顔で見てたんだな」
「心配かけたみたいだね。ごめん」
「いや、謝ることじゃないさ。誰にだって嫌なものはある」
「そうだね……」
「……言いたくなかったら良いんだが、何で誕生日が嫌いなんだ?」
彼は深呼吸をし、目を閉じた。
「……僕が六才の誕生日を迎えた日。
ある時、セールスマンが家に来た。何の気無しに出て行った母は突然、腹部を刺され、そのまま死亡。
戻りが遅いから様子を見に行くと、そこには血だらけで動かない母と、刺して手が震えたセールスマン。
奴は僕のことまで手をかける事はせず、そのまま逃走。母子家庭だったからその後は親戚の家でお世話になってたんだ。……ざっくり話したけど、とにかく僕は誕生日が大嫌いなんだよね」
「そうか……思い出させて悪いな」
想定よりも重い話に気分が沈む。
「ううん。大丈夫。そのうち皆に話すつもりだったから」
「そうか。……ぶり返して申し訳ないが、その犯人はどうしたんだ?」
事の顛末が気になり、悪いと思いながらも聞いた。
「それなら……僕が殺したよ」
彼は目を見開いて答えた。
まるで別人のようだ。
六才で……殺人、か。
「そうか……」
「じゃあ、そろそろ戻ろうか」
「ああ」
その犯人が死んでいるのなら、彼は一体何を願うのだろう。母の蘇生……とかか?
心の中で憶測を立てるが、これ以上聞くのをやめ、二人でレクリエーションルームに戻った。
「あっ!塚本君ー!どこ行ってたのー?」
「ごめんごめん。トイレだよ」
「さ、こっちで食べよう!」
「あ、うん」
同時に戻った俺は、塚本がクラスメイトに引っ張られていくのを見送る。
そして塚本は、ケーキが切り分けられた皿を受け取っていた。表情はやはり曇っている。
ケーキが嫌いな理由を知ってしまったが、中々助けに入れるような雰囲気ではない。
向こうもわざとケーキを用意したわけじゃないしな。
そんなことを考えている俺は塚本と目が合う。
ニコッと小さく笑みを浮かべ、大丈夫だと
こちらに言っているようだった。
それから再び久保田と過ごし、約二時間ほどして解散。
あまり多くの交友関係は築けなかったが、久保田とはかなり会話ができた。
それに久保田とは連絡先も交換した。
俺的には上出来だと思う。
しかもクラス全体のグループチャットにも参加した。自分から何かを発信することはないだろう。
そして部屋に戻り、入学から現在までをざっくり振り返る。
イカれた学校の姿を知り、クラス内での抗争。
部屋のガラスに現れた不思議な校長。
それから死者を出した交流会。
授業開始初日から退学者を出し、
そして今日、
クラスメイトの狂気を知った。
一見普通の男の子にみえる塚本に、あんな暗い過去があるとはな。
それに、ルールの穴を突いて生徒を殺し、金を奪ったあの厳つい男子生徒。
この学校は色々と変だな。
気になる疑問はわりとあるし、先生にでも聞いてみるか。




