話し合いと代表戦
しかし、こんなにも早く誰かが退学してしまうなんて誰が考えただろうか。
いや、俺と黒鉄は例外をこの目で見たが。
「さて、各自話し合いで代表者を一人決めてくれ!時間は十分だ。始め!」
各クラスバラけ、野球で使われるベンチに固まる。
俺は少し離れた位置から俯瞰していた。
「大変なことになりましたね……」
俺と同じく俯瞰していたイヴが横に来た。
「ああ」
「なあ、誰が出るんだこれ」
「俺は強くないからパスで〜」
「俺もー」
「私もちょっと……ねぇ?」
「どうすんのこれ?」
「負けたら退学ってヤバくね?」
誰もやろうとはしない。当然だ。負ければ退学。
別に代表者が、というわけではない。誰かだ。
そんな重たい責任は誰しも取りたくない。
「僕が出ようか?」
そんななか、
俺やイヴからさらに離れた位置で見ていた日村が名乗り出た。
奴が喋った途端、クラスの雰囲気もどことなく悪くなっている。まあ当然か。
「勝てば金。負ければ退学。面白いしね」
コイツはたしかに強い。だが、信頼はゼロだ。
退学の権利は別に代表者にあるわけでもない。
何を考えている?
「いや、日村君。名乗り出てくれたところ申し訳ない。…………僕が出るよ」
日村の申し出を断り、塚本が名乗り出た。
しかも、どこか雰囲気が違うように感じる。
クラスメイトは驚いた。彼は確かにリーダー的存在だ。しかし、闘争心はまるで見えない。
そんな男が名乗り出た。それも、いつもと違う様子で。
その意外な行動に黒鉄も驚いている。
「いいよ。君なら。じゃあ頑張ってね〜」
日村は納得し、あくびをして目を閉じた。
「塚本……大丈夫なのか?」
「うん。任せて!退学者は絶対に出さないから!」
塚本は自身に満ちている。彼の能力は知らないが、大丈夫なのだろうか。
「そういえば能力って何なんだ?」
誰も聞いていなかったのか、黒鉄の問いに対して他のクラスメイトも耳を傾ける。
「そういえば言ってなかったね。
僕の能力は"混乱体幹"(アンバランサー)」
。触れた生物の平衡感覚を狂わせ、吐き気を催す能力。一度触れてしまえば使用者を倒すか、使用者の集中力切れ、もしくは自身で感覚を取り戻さない限り続く。
というわけで塚本に決まった。
「……悪い。ちょっとトイレに行ってくる」
「あ、はい」
イヴに自身の行方を伝え、それから田宮先生に許可を得てからトイレに行った。
「はいそこまで!」
トイレから戻ると丁度十分経った。
作戦会議が終わり、いよいよ代表戦が始まる。
「おかえりなさい。遅かったですね」
「ああ、悪い。一応間に合ったようだな」
「……ドキドキしますね」
「ホントドキドキだねぇー!」
イヴと真島のテンション差がスゴい……。
「じゃあ行ってくるね!」
深呼吸をした塚本は落ち着き、フィールドにゆっくり向かっていく。
クラスメイト達はうるさいくらいの声援を送る。
「ほう、A組は塚本か。さてB組は……」
審判役をつとめる田宮先生はフィールドの真ん中に立ち、両クラスを見て呟いた。
「あ……」
「君が代表者ですか……」
相手の代表者は、先程塚本に悪態をついた藍沢という生徒だ。
「悪いけど、僕が勝つ」
「ふふふ。楽しみだ」
日村と黒鉄がおこなった決闘のように、
大きなモニターがテンカウントを開始。
「始めっ!!」
「…………」
「…………」
始まってすぐ戦闘になるわけではなく、
お互いに見合って距離を取り、警戒している。
負ければ誰かの退学が決まってしまう。その重みを感じて中々手を出せないのだろうか。
「はっ!」
沈黙を破り、先に動いたのは塚本だ。見合っていくなかで藍沢の隙を見つけたのだろう。
拳を握り、藍沢の顔に迫っている。
「おっと!」
余裕そうな感じで塚本との距離を取り、接近されるのを拒んでいる。思ったよりも動けるようだ。
「ふぅ……意外と早いね」
一旦足を止めた塚本。
「どうも。…………さて、君の動きは大体理解した。
ここからは僕から行かせてもらうよ」
眼鏡を中指でクイッと上げ、笑みを浮かべる。
そして深呼吸した。
「ふぅ…………グゥ、ガアァァァァ!!!!」
いきなり人間とは思えない獣の様な声を上げた。
見る見るうちに姿を変え、細身からアメフト選手と変わらない体格になっている。
「おい!なんだよあれ!」
「でっかくなった!?」
「筋肉ダルマじゃんっ!!ウケる〜」
「なっ!?」
「ふふふ!……驚かせてしまったかな?でも安心してくれ。抵抗しなければ楽に病院へ行けるだろう」
「負けるつもりはないよ。まだ僕も異能力を見せていないからね」
「ふふふ!さあ、行くぞ!」




