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なくした時のために

 少年野球のチームが、小学校の運動場で練習(れんしゅう)していた。


 週に二回、こうして運動場を借(か)りているのだ。


 練習が終わると、監督(かんとく)は一人残って確認する。


 思わずため息(いき)をついた。


 今日もボールが減(へ)っている。


 ホームランなどで学校の外まで飛んだボール、その全部を回収するのは難(むずか)しい。見つけきれずに回収をあきらめる、そんなことも少なくないのだ。


「また買い足(た)しておかないと」


 監督は頭が痛(いた)かった。限(かぎ)られた予算の中、ボール代(だい)も安(やす)くはない。


 しかし、子どもたちに対して、「バットを強くふるな」とか「ホームランを打つな」とか言いたくなかった。子どもの野球は、のびのびと。


 そこで監督は思いつく。


 そうだ、ボールに「この小学校の住所」と「この少年野球のチーム名」を書いておこう。


 そんな風にしておけば、誰(だれ)かがボールを見つけた時に、ひょっとしたら届(とど)けてくれるかも・・・・・・。


 その日の内に、すべてのボールに対して、作業(さぎょう)を済(す)ませた。


 そして二週間後。


 なくしたボールの一つが、返ってきたのである。


 そのボールを握(にぎ)りしめて、監督は感謝(かんしゃ)した。


「誰だか知らないが、親切(しんせつ)な人だ」


 このボール、夜の間に学校の外から、運動場の中に放(ほう)り込(こ)まれていたらしい。


 しかも、ボールの表面には、「未使用の切手(きって)」が貼(は)ってあったのだ。


 たぶん、次になくした時のための保険(ほけん)。


「誰だか知らないが、本当に親切な人だ」


次回は「春季キャンプ」でのお話です。

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