お前ら、それでもプロ野球選手か!
「お前ら、それでもプロ野球選手か!」
打撃コーチは思わず叫んだ。
「そう言われても、本当に難しいんですって」
選手たちが情けないことを言ってくる。
今は試合中ではなかった。
野球の練習中でもない。
テレビのバラエティ番組に出演中だ。「プロ野球選手はすごいぞ」というのを、お茶の間にアピールする番組。
しかし、ここまでのところ、選手たちのふがいなさばかりが目立っている。
誰一人として、番組が用意した課題をクリアできていなかった。惜しいところまでもいっていない。
あまりの醜態に、打撃コーチは考える。
これでは、プロ野球選手にあこがれていた全国のちびっ子たちは今頃、テレビの前でサッカーボールを蹴り始めているかもしれない。
野球界のためにも、今すぐ汚名を返上しなければ。
「よし、次は俺が挑戦するぞ! 手本を見せてやる!」
コーチが宣言すると、スタジオ内が盛り上がった。
予定にはないが、この挑戦は認められる。
コーチはさっそく、選手の一人に目隠しをしてもらった。
「こちらが、当てていただくバットです」
番組司会者の声がして、一本のバットを手渡される。
それを何回か素振りしてみた。これ以外の行動は、ルール違反になる。
「いいぞ。だいたい覚えた」
コーチがバットを返すと、ごそごそする音が数秒間した。
「では、当ててください」
番組司会者の言葉を聞いてから、コーチは目隠しを取る。
スタジオ内に用意されたバットは、全部で十二本。この十二本、他球団の主力選手たちが実際に使っているものだ。
で、さっきのバットは、この中の一本。
正解することができれば、そのバットは視聴者プレゼントになる。
この番組の新企画、『利きバット』だ。
こんなもの、プロ野球選手なら、正解して当然だろう。
だというのに、うちの選手たちはまったく・・・・・・はぁ。
さて、これらのバット、長さや太さの近いものばかりを集めているが、それなりに違いはある。
さっきの素振りの感触を思い出しながら、コーチは一本のバットを手に取った。
最初の一本には、「これは絶対に違うだろうな」と思うものを選んだ。
選手たちの失敗を見ていて気づいたのだが、最初から正解に近そうなところを攻めると、感覚が混乱するようだ。
自分は同じ轍は踏まない。遠いところから確実に潰していく。
とりあえず、軽く素振りをしてみた。
ん・・・・・・?
首を傾げながら、もう一回バットを振ってみる。
あれ?
コーチは焦り出した。
まずい。この『利きバット』、想像していた以上に難しい。
まだ一本目だというのに、このバットが正解のような気がしてきた。しかし、違うような気も・・・・・・。
ど、どうしよう。
さっき選手たちに上から目線で言ったばかりだ。「お前ら、それでもプロ野球選手か!」とか、「手本を見せてやる!」とか。
まさかのピンチ到来である。
あんなことを言うんじゃなかった、そう思っても後の祭りだ。
こうなったら、作戦を変更するしかない。
コーチは番組司会者の方を見ると、ぶりっ子ポーズをしながら、
「ヒントが欲しいな♪」
次の瞬間、選手たちから一斉にツッコミが入る。
「あんた、それでもプロ野球のコーチか!」
しかし、この展開こそ、コーチの期待通り。
ここで不正解になっても、「笑いをとりにいったから」と言いわけできる、そんな空気をつくってしまおうという作戦だ。
とりあえず、あと二、三回くらいボケておくか。
それで、この窮地を切り抜ける!
この時、日本各地のお茶の間では、元野球ファンのちびっ子たちの一部が、テレビに向かってサッカーボールを蹴り込んでいた。
次回は「少年野球」のお話です。




