#594 「思ってても言うのはやめようぜ……」
宙賊の掃討は速やかに終了した。何せ俺が大型艦三隻を速攻で撃沈してしまったので、宙賊どもは戦意を喪失。そのまま逃亡――しようとしてアントリオンのグラビティ・ジャマーに捕まって逃亡が不発。当然宙賊どもは大混乱に陥る。そうなったら後はただの作業だ。ふらふらと逃げ回る宙賊を一隻ずつ……いや、モリガンがまとめて数隻ずつ駆逐していった。
俺が光輪兵器を使えば一瞬で終わる話ではあったが、あれはある意味初見殺しの切り札だからな。こういう目撃者――採掘ステーションの連中――が多い場所ではあまり使いたくはない。尤も、あれは事前に情報があったところでどうにかできるものでもないと思うが。クリシュナならギリ避けられるか? ショートジャンプできるから。
「で、ステーション内の掃討は?」
『はい、ご主人様イコが率いる戦闘ボット部隊が既に掃討を完了し、撤収作業中です』
「ならよし。ホールズ侯爵領にとっとと向かいたいんだが、こりゃ少し時間がかかりそうだな」
あの後すぐに残りの大型艦二隻にを撃破したのだが、一隻目の撃破を見て敵わないと思ったのか、一部の宙賊がドロップポッドに乗って採掘精錬コロニーへの降下を強行したのだ。多くのドロップポッドが採掘精錬コロニーの防衛設備に撃墜されたが、それでもコロニーへの降下に成功したドロップポッドもいくつか、というかまぁまぁあった。採掘精錬コロニーにも保安要員は居たが、戦力不足は否めない、ということでうちの戦闘ボット部隊がドロップポッドで降下し、宙賊どもの掃討を手伝っていたのだ。
イコが一緒に行ってるのは俺も後から知ったけどな! イコは三人の中では一番戦闘適性が高いらしい。特に危なげもなく掃討を完了したらしいので、戻ってきたら一応褒めてやろうと思う。
『こちらクラース星系軍だ。戦闘行為を即時停止……どういう状況だ?』
「騎兵隊がやってくるのはいつだって遅いよなぁ……」
既に戦闘が終了し、俺達が戦利品をサルベージしている段になってやっと星系軍が駆けつけてきた。大量のデブリというかスクラップとなった宙賊艦と、それをサルベージしている俺達を見て困惑しているな。
「こちら傭兵ギルド所属のキャプテン・ヒロ。アニ星系のゲートウェイを通ってプランツ星系に向かっている途中でクラース採掘精錬コロニー三号からの救難信号を受信、急行して宙賊どもを片付けたところだ。今は見ての通り撃破した宙賊どもの船から諸々をサルベージ中。まだ宙賊どもは拾ってないから、良ければ奴らをしょっぴいて行ってくれ」
俺がクリシュナからオープン回線でそう言うと、クラース星系軍――巡洋艦一隻、駆逐艦三隻、コルベット十隻のまともな戦力――の一番でかい船、巡洋艦から通信要請が入ったので、素直に応答する。
「はいよ、事情聴取か?」
『そうなる。こちらはクラース星系軍少佐、エーミール・アイヒホルンだ』
メインスクリーンの向こうに整えられた口髭が似合っているナイスミドルの軍人の顔が映る。うん、底意地の悪そうな顔はしてないな。実直そう、とまでは言わないけど。
「これはどうも、少佐殿。こちらはキャプテン・ヒロ。傭兵ギルドのプラチナランカーだが……その他に貴族身分についてもあれこれある。が、多分報せるとお互いに面倒事になるだろうから、傭兵ギルドのプラチナランカーという立場だけで話した方が面倒が少ないと思う、どうだ?」
『プラチナランカー、キャプテン・ヒロ……アッ』
俺の名に思い当たることがあったのか、メインスクリーンの向こうのナイスミドルが顔色を悪くする。何ならダラダラと汗もかき始めた。冷や汗だな。
「俺はただの傭兵のキャプテン・ヒロ。それ以上でもそれ以下でもない。オーケー?」
『オーケー、そういうことにしよう。感謝する。いや、今回の件について報告は上げなければならないのだが。うむ……』
アイヒホルン少佐が難しい顔をして押し黙る。どう報告を上げたものかと思案しているのだろう。
今回の件、このまま素直に報告するとなるとアイヒホルン少佐としては少々困ったことになる。彼に瑕疵は一切無い。俺達が駆けつけていなくとも、彼らの戦力だけでも十分に宙賊どもは撃退できたことだろう。だが、今回は先に傭兵に片付けられてしまった。
まぁ、これはまだ良い。規定の報酬と賞金を払えば良いだけで、星系軍には何のリスクも無く問題が解決できた。万々歳である。しかしその傭兵が他の貴族家に縁があるどころか、次期女伯爵や隣の領の侯爵家の娘や、帝室の姫などを連れている、などという話になってくるとちょっとどころではなく話が変わる。しかも、その傭兵自身も名誉爵位とはいえ子爵位の貴族とくれば。
貴族というのはメンツ商売である。自領の治安を他領の貴族に守られたなどというのは醜聞でしかなく、そんな事態を引き起こしたアイヒホルン少佐は十中八九お叱りを受けることになるだろう。もしかしたら出世にも響くことになるかもしれない。彼には何の瑕疵も無い話なのに。
「俺としても傭兵ギルド所属のプラチナランカーとしてはスルーするわけにも行かなくてな。申し訳ないとは思うが」
『それは仕方がないかと。立場があるのはお互い様、ですので。ええ』
本心では『余計なことをしてくれやがって!』と思っているかも知れないが、少佐はそれを表に出すことは一切無かった。大人の対応である。
「採掘精錬コロニーに降下襲撃した宙賊もうちの戦闘ボットに始末させてある。安全は確認済みだが、一応報告はしておく。あと、俺達はザッとサルベージしたらサッサと去って後のことはスカベンジャーに任せるから、そういう方向で。撃破ログは今から送る。賞金やなんかは規定通りに傭兵ギルドに振り込んでおいてくれるとお互いに面倒がないと思うが、どうだろう」
『そのように処理しよう』
俺達はスクリーン越しに目を合わせて互いに頷いた。共犯成立である。いや、別に犯罪じゃないけど。ちょっと報告書に記載する情報が少ないだけだ。不慮の事故によって。
『それでは我々は宙賊どもの捕縛と、コロニーの救援作業を行いますので。失礼』
「アイ、アイ。俺らもサルベージをとっとと済ませてさっさといなくなるんで」
傭兵業をするにも面倒なしがらみが増えたものだな。だからといってやめるつもりはないけど。これからなんというかこう、良い塩梅を探っていくとしよう。
☆★☆
久々の宙賊退治でサルベージ品が大量である。モリガンも増えたので、戦利品の回収速度はかなり上がった。
「意外と面白かったですね、サルベージ」
「お宝を探す感じがクセになりそうだよね」
そう言いながらブラックロータスの休憩スペースで互いにニコニコしているセレナとネーヴェである。一緒に戦ってなんとなく距離が縮まった感じがあるな。いや、元から二人は割と仲が良かったけど。実は二人とも結構歳が近いし、戦艦乗りの軍人上がりだからな。ネーヴェを軍人と言って良いかどうかは意見が分かれそうだが。戦艦という『ある程度大きな軍人達の乗る船』あるあるネタでたまに盛り上がっている。
「ティーナとウィスカは久々に大忙しだな」
「今回は結構な量の宙賊艦から装備を引っ剥がしましたからね。小型艦の鹵獲はしなかったですけど」
「これからホールズ侯爵領に行くのにニコイチ、サンコイチの宙賊艦持っていくのもな……時間も掛かりそうだったし」
少し残念そうなミミに肩を竦めて答える。
今後、母艦の乗り換えなどを考えれば少しでもエネルを稼いでおきたくもあったのだが、それよりもホールズ侯爵閣下――義父となったラウレンツ氏を待たせ過ぎる方が怖いからな。何か俺に押し付けたい仕事があるっぽかったし。金に関しては仕事をしたあとにお義父さんからたかるとしよう。正当な対価として。
「ご主人! 宙賊どもをお掃除してきたよ! あと、ちゃんと身体も洗ってきたよ!」
「よしよし、よくやった。今度は報告に来る前に身体を綺麗にしてこような」
「うん!」
金属製の尻尾をフリフリするイコの頭を撫でてやる。戦闘ボットと一緒に採掘精錬コロニーに殴り込んだイコだったが、帰ってきたら全身血塗れだった。どうやら近接戦闘能力に長けているらしく、殴る、蹴る、金属製の尻尾で薙ぎ払うなどの格闘攻撃で宙賊を殲滅してきたらしい。自分でそうやって戦いながらも戦闘ボット達の指揮もしていたらしいから、本当に白兵戦については高い能力を持っているのだろうと思う。損失らしい損失もなしで帰ってきたしな。でも血塗れのままはやめて欲しい。防疫もしなきゃならんし。
ドロップポッドの運用に関しては少し考えた方が良さそうだな。今はハンガーから直接飛んでってるし。もし母艦を乗り換えたら、ドロップポッドの射出口をしっかり実装してもらおうと思う。
ちなみに、宙賊艦から剥ぎ取った装備のスクラップ品を仕分けしたり、レストアを始めようとしていたところに血塗れのイコが現れてハンガーを緊急除染することになったティーナとウィスカがちょっとキレていた。最大出力では戦闘艦の装甲をも溶断するプラズマカッターと、同じく最大出力で戦闘艦の装甲をも粉砕するインパクトハンマーを手にした二人に怒られたイコはガチで怯えていた。宇宙エンジニアに逆らってはいけない。
「なんか……トラブルの頻度が上がってきてない?」
「エルマ、思ってても言うのはやめようぜ……」
まるでウォーミングアップでもするかのようにホールズ侯爵領への到着が近づくに従ってトラブルが増えてきているような気はする。気のせいだと思いたいなぁ!




