#583 「兄さん達あちこちに影響残し過ぎと違うか?」
翌朝にはシエラⅢの宿泊予定の施設の準備が整ったという連絡があり、その報せを受けた俺達は早速シエラプライムコロニーを発つことにした。
昨晩の夕食? よく考えたら明日――つまり今日からリゾート惑星にバカンスで美味しいオーガニック食材とそれを使った料理はたらふく食べることになるんだから、敢えてここは最高級のジャンクフードを食べてはどうか? という話になって、ならテツジン・フィフスの料理でも良くない? などと話が迷走した結果、ミミ秘蔵のゲテモn……輸入食品や帝国航宙軍の払い下げレーションを食べることになったよ。
まぁ楽しくはあったからあれはあれでヨシだったかな。ルシアと近衛兵連中とセレナが顔を青くしたり虚無顔になったりしてて。クリスは前に一緒に生活してた時に若干耐性がついてたからそこまで激烈な反応はしてなかったけど、やっぱりゲテモノは苦手みたいだな。美味しいのに。
ちなみにゲテモノが出てきた時点でタマモはクギの中から一切出てこなかった。クギ曰く、輸入食料品を食べる時にちょっと頭の中でうるさかったらしい。
「りぞーと、楽しみです」
そんなクギはとてもご機嫌である。彼女は俺やミミから話に聞いていた素敵なリゾート、というやつに興味津々なのだ。今までに他愛のない雑談の中で何度も話題に出したことがあるからな。俺やミミがそんなに絶賛する観光地というものがどういうものなのか楽しみで仕方がないようだ。
「いつもならそろそろトラブルが舞い込んできそうなものだけど、全然来ないわね」
「姐さんやめぇや……言ったら来るで」
「そうですよ。これから楽しいバカンスなんですから。どんなところなんだろう? 私も楽しみだなー」
あっちではエルマが整備士姉妹に文句を言われていた。そうだぞ、トラブルがないからって露骨に不安というか物足りない顔をするのはやめようぜ。実は俺もこんなにトラブルが起こらないのは何かしらの『溜め』に入っているんじゃないかとちょっとビビってるんだからな。
「前はシエラⅢに向かう時に叔父の手の者に襲撃されたんですよね……何倍もの戦力差をものともせずヒロ様がクリシュナで返り討ちにしましたけど。むしろ叔父の手の者を航宙戦に引きずり出して全滅させるのを目的とした行動だったんですけど」
「ヒロらしいやり方ですね……そういえばあの時は私も厄介事に巻き込まれましたっけ」
「ああ、離反艦隊の件ですか。その叔父とやらは人心を操り、従属させる術に長けていたそうですね。裏で力を貸していた者達も含めて最終的にはキャプテン・ヒロが片付けることになったようですが」
「皇女殿下も事情を……サプレッションシップまで持ち出してくるとなると、流石に伯爵家の次男でどうにかなるものかとは当時も疑問に思っていましたが、そうですか。イクサーマル伯爵家が関わっていましたか」
あっちはあっちでなんか聞かなかったことにした方が良さそうな話をしてるし。いや、バルタザールもイクサーマル伯爵家の連中も全員処されてるから大丈夫なのか? それでも帝国航宙軍のスキャンダルだからなぁ……やっぱ聞かなかったことにしとこう。
ショーコ先生は今日も自分のラボに引きこもっていて、ネーヴェも一緒にラボで健康診断を受けているらしい。ネーヴェの身体もほぼ正常、というか常人より寧ろ丈夫なくらいにまでなったらしいけど、身体の成長とかに関しては殆ど変わってないからなぁ。リゾート惑星で体調を崩したりしないように念の為チェックするとか昨日言ってたんだよな。
そんな感じで各々自由に過ごす中、メイが補佐しながらニーナが運行するブラックロータスは目的地であるシエラⅢへと向かうのであった。
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シエラⅢはその惑星表面の八割以上が海面となっている海洋惑星である。一割ちょいくらい陸地があるので、正確には海洋惑星ではなく準海洋惑星と分類されるらしいが、まぁそこは些事なのでおいておこう。
惑星の軌道上には防衛用の衛星兵器が多数配備されており、余程の規模の襲撃でない限り宙賊の襲撃を受け付けない。無論、その防衛能力を飽和させるだけの物量が叩きつけられればその限りではないが、この星系の星系軍は強力だし、たまに帝国航宙軍の巡回もあったりするので、セキュリティ的には帝都並み、とまでいかなくともかなりのものであると言えよう。
「なんか防衛用の衛星増えてねぇ?」
「私達が滞在してた時に突破されたから増強したんじゃない?」
「ありそうですね……」
「兄さん達あちこちに影響残し過ぎと違うか?」
軌道上でセキュリテイチェックを受けてからまずは第一目的地である赤道直下にある総合港湾施設に降下する。そこにブラックロータスとアントリオンを停泊させてから最終目的地である俺達が貸し切る島へと向かうのだ。
全員でクリシュナとモリガンに分乗し、総合港湾施設から目的の島へと向かう。とは言ってもそこまで遠い島ではない。クリシュナやモリガンならひとっ飛び位の距離である。100キロメートルは離れてないんじゃないかな。
「思ったより蒸さないな。赤道直下だから湿度が高いんじゃないかと心配してたんだが」
タラップを伝ってクリシュナから降り立ち、宇宙を見上げながら呟く。うーん、空が高い。やっぱり惑星上ってのは開放感があるな。航宙コロニーも天井が高いところは開放感があるが、やっぱり本物の空には敵わない。
「そういうものなんですか?」
「俺の住んでた星はそうだったな。テラフォーミング技術でそういうところも住みやすいように調整してるのかな? それとも気候調整でもしてるのかね」
ミミにそう応えながら辺りを見回していると、ロッジの方から何かが飛んできた。バレーボールほどの大きさの金属製の物体だ。うん、アレには見覚えがあるぞ。
「ようこそおいでくださいました、貴方達を歓迎致します。私はシエラⅢの管理AI、ミロです。当惑星に滞在する皆様のお世話をさせていただきます。どうぞ、よしなに」
宙に浮かぶメカニカルボディがピカピカと光りながら歓迎の口上を述べる。相変わらず女性の声にも男性の声にも聞こえる不思議な声だな。
「久しぶりだな、ミロ」
「はい、キャプテン・ヒロ。お久しぶりです。再びお客様として貴方を迎えることができて嬉しく思います。前回の滞在ではご迷惑をおかけしてしまいましたから」
「ご迷惑って言っても俺達がトラブルを連れてきたようなものだったけどな。今回もよろしく頼むぞ、ミロ」
俺がそう言うと、ミロはカメラアイをピカピカと光らせた。
「はい、お任せ下さい。ご同行されている御婦人の数が随分と増えていらっしゃるようで……メイドロイドを販売した私としては誇らしい限りです」
「そういやある意味お前の押し売りが全ての元凶だったな??? いや結果的に滅茶苦茶助かってるからファインプレーなんだけどな?」
考えてみればクリスが俺のことを諦めないように焚き付けたのはメイだったわけだし、ティーナやウィスカの件も……いや、メイに責任転嫁するのは違うな。多少の誘導があったとしても、最終的に判断を重ねてきたのは俺だったわけだし。
それはそれとしてまるで笑うかのようにピカピカするミロをむんずと両手で掴んでどうにかしてやろうかと思ったが、意味がないのでやめておいた。これは別に本体じゃないしな。無数にある端末の一つだろう。
「まぁいい、今も俺は幸せだしな。今回の滞在はトラブルなしで行きたいし、前回と違ってその予定は欠片もないからくれぐれもよろしく頼むぞ」
「勿論です。私どもに全てお任せ下さい。全力をもって一生忘れられないラグジュアリーな体験をご提供致します」
こうして俺達は新婚旅行を兼ねたバカンスに突入した。
まさか厳重に警備されたリゾート惑星の孤島でトラブルに巻き込まれることは無いやろ! ガハハ勝ったな!




