#579 「なんというか公序良俗という概念が壊れるよな」
早速18時に間に合わない!
まぁ努力目標だし多少はね?( ‘ᾥ’ )
リゾート星系であるシエラ星系はゲートウェイ星系からはハイパーレーンで四つほど離れた場所に存在する星系である。帝国の直轄星系ではなく、またゲートウェイ防衛艦隊の庇護も及ばないため、普通に宙賊も出てくる星系だ。とはいえ治安は比較的良い星系ではある。何せリゾート惑星にするのに適した海洋型の惑星が複数存在するため、グラッカン帝国内だけではなく他国からもセレブの観光客が訪れるような星系なので、基本的に金を持っている星系なのだ。
金を持っている分、星系軍の予算も豊富だし、予算が豊富ということは装備も人員も充実している。更に各リゾート惑星そのものにも通常の開拓惑星では考えられないレベルで強固な防衛網が敷かれてもいる。
それでもこの星系には宙賊が跋扈している。
「何故かって言うとこの星系は実入りが良いんだよ、奴らにとっては」
「実入りが良い?」
俺の説明を聞いたルシアが首を傾げる。こうして素直に話を聞いているだけなら可愛らしいものなんだがな、この皇女様も。
「まず、この星系でバカンスをするような人間ってのは金持ちが多い。金持ちってのは本人は勿論のこと、家族や親族、友人なんかにも金持ちが多い。宙賊にとってははそういう人間を捕まえて身代金を要求するってのがビジネスの一つになる」
「身代金ビジネスですか……そんなに簡単なものですか? エネルは使えませんよね?」
「良い所に気がつくな。その通り、こうした違法取引の類にエネルは使えない。簡単に追跡されて足がつくからな。だから、宙賊のとの取引には主にレアメタルのインゴットが利用される。どこでも簡単に換金ができるし、現物だから足がつきにくい。シエラ星系の周辺にはレアメタルを産出する星系が複数あるから、被害者側が取引用のインゴットを用意するのも、まんまとインゴットをせしめた宙賊が身代金を換金するのも簡単だ。じゃあレアメタルインゴットの取引を規制するか? という話になるとそれがまたそう簡単にいかない。世の中綺麗事だけじゃ回らないからな。動産としての価値があるレアメタルインゴットっていうのは宙賊だけが使うものじゃないから、これを規制するとなかなかに大変なことになる」
スペース・ドウェルグ社のようなそこそこの規模の企業ですら詫びの品にこっそりレアメタルインゴットを忍ばせてきたりするからな。ああいうちょっと後ろ暗いことにも使える動産というのは社会の潤滑油としてどうしても必要なのである。
「レアメタルインゴットを使っての取引ができなくなったら連中は他の方法を考え出すだろうな。結局イタチごっこになるわけだ。まぁ宙賊の取引に関する話は一旦横に置いて、シエラ星系に宙賊出没するもう一つの理由は星系内で流通している物資が概ね高額であるという点だな。何せ金持ちの多い星系だから、金持ちでないと手が出ないような嗜好品の類がどんどん入ってくる。また、リゾート惑星が生み出す海産物などの嗜好品も高値で星系外に輸出されている。星間行商人の輸送船を襲って積荷を奪って売り捌けば大儲けできるってことだ」
売り捌くルートを押さえるのもさっきのレアメタルインゴットと同じで難しい。出処のわからないものでも品質が確認できて他所よりも安ければ買う商人はいくらでもいるし、買う方もまた同様に品質に問題さえなければ出処がどこだろうと気にしない連中がいくらでもいる。
「つまり、シエラ星系みたいなリゾート星系ってのは宙賊にとって総じてハイリスクだがハイリターンな狩り場なわけだな」
「だからセキュリティが行き届いているにも関わらず宙賊が跋扈していると」
「そういうこと。だからこそ俺達傭兵にとっても割の良い狩り場でもあるんだが」
シエラ星系の行政府や星系軍も無能ではないので、観光客に被害が出ないように対策を練っているし、特にリゾート惑星そのものや交易コロニーの守りはとんでもなく強固にしている。
それでも民間船は襲われる時は襲われてしまうので、民間企業側も更に対策を打つ。結果、交易コロニーからリゾート惑星に向かう旅客船の護衛として傭兵が雇われたりするし、交易コロニーやリゾート惑星の防衛戦力として雇用されたりもする。特に雇われたりせずに獲物を探してうろうろするような傭兵もいる。
「なるほど。うーん、なかなか興味深いですね。これでも勉強はしている方なんですけど、やはり市井のこういう話となると、私が受けるようなカリキュラムでは触れられることはないので」
「そりゃ良かった。まぁ知らない知識に触れられるのは楽しいよな」
「そうですね。他に面白い話はありませんか?」
「また何か思いついたら話すよ。思いついたらな」
このままだと根掘り葉掘り言いたくないことまで聞き出されてしまいそうなので、そう言って俺は撤退することにした。
☆★☆
ダレインワルド伯爵領近郊、ニーパック星系のゲートウェイを通ってから数日。俺達が乗るブラックロータスは目的地であるシエラ星系に到達していた。
「ご主人様、私のためにお時間を作って頂きありがとうございます」
「メイのためなら時間くらいいくらでも作るさ。いつも世話になってるのはこっちの方だしな」
そう言いながら、どこか退廃的な雰囲気の漂うシエラプライムコロニーのネオン街をいつも通りビシっとメイド服がキマっているメイと一緒に歩く。こうしてメイド服姿のメイと並んで歩くと普段ならなんというか『浮く』んだが、この場所では寧ろ目立たな過ぎて埋没するな。
え? どんないかがわしい場所を歩いているのかって? やめろよな、アンドロイド街をいかがわしい場所って呼ぶの。まぁ正真正銘純度100%のいかがわしさなんだが。
ここ、シエラプライムコロニーのアンドロイド街にはメイのようなメイドロイドなんて数十メートルおきに――誇大表現ではなく本当に――各種施設を案内していたり、客引きをしていたり、警護をしていたりするし、何ならメイド服どころかバニー服とか切れ込みのえげつないチャイナドレスっぽいのとか、もうそれ隠れてねぇだろみたいなマイクロビキニのような何かを身に着けているアンドロイド――概ね女性型のガイノイド――とか、終いには「乳首も何も無いし機械だから卑猥ではない。イイネ?」とでも宣うつもりなのかどう見ても全裸な機体がショーウィンドウの中でポールダンスを踊ってたりするからな。
いかがわしさ100%どころか120%くらいである。風紀? そこに無ければ無いですね。
そんな空間に美人メイドを一人連れた傭兵が歩いていても全く目立たないというわけだ。
「なんというか公序良俗という概念が壊れるよな」
「ご主人様、この区画はシエラプライムコロニーで尤も安全で治安の良い区画です」
「物は言いようだなぁ……」
実際問題、この区画で犯罪が発生することはない。犯罪行為を起こそうにもここは機械知性のシマである。人類の犯罪者が事を起こす余地はどこにも存在しない。最初から『そのつもり』で入ってきた人は事を起こす前に安全かつ穏便にどこかに連れて行かれてしまうので。
あと、ここにいるのは何も美少女や美女アンドロイドばかりではない。美少年や美丈夫アンドロイドもたくさんいる。そのユーザーのお姉様やお兄様もたくさんいる。何ならクギみたいに獣耳が生えていたり、尻尾が生えていたりする機体もいるし、そもそも人類――頭が一つ、手足がそれぞれ二本の種族を指す――以外の種族や、そういった種族向けの機体もたくさんいる。毎日が種族と性癖の博覧会みたいな区画である。実に業が深い。
今回、この区画――というかメイの製造元であるオリエント・インダストリーを訪ねたのはメイの定期メンテナンスのためだけでなく、機能拡張というか昇格というか、新たなメイド――いや、メイド隊? の雇用のためであったりする。
「着きました」
「そうだな、着いたな」
いつもより少しだけ弾んでいるメイの声を聞きながら、聳え立つ構造体を見上げる。そう、ここはオリエント・インダストリーのシエラプライム支社。機械知性の牙城の一つである。




