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#580 「色々思うところはあるけど深くは突っ込まんぞ」

「いらっしゃいませ! オリエント・インダストリー直営の工房へようこそ! 本当にお久しぶりですね! また会えるとは思っていませんでした!」

「ああ、うん。久しぶりだな。雰囲気変わったんじゃないか?」


 底抜けに明るい笑顔が眩しい受付嬢アンドロイドが俺とメイを出迎えてくれた。なんか見た目が違う気がするが、パーソナリティは多分同じだな。


「おわかりになります? 受付嬢は企業の顔ですから! 定期的に最新のモデルになったり、流行に乗った見た目になったりしてるんですよ!」

「ああ、なるほど……服を着替える感覚で身体を換えられるというのはいかにもというかなんというか……機械知性の強みだな」


 彼女達はやろうと思えば即時で戦闘用のボディに意識とデータを移してベテランの戦闘員になることも可能なんだろうな。彼女達のメンタルが耐えられるかどうかは別として。いや、機械知性だとそういったメンタル部分ですら補正し、制御し、適応することも可能なのか? よくこんな連中に喧嘩を売ったな、昔の帝国貴族は。


「それで、話は通ってるんだよな?」

「はい! メイさんから情報の共有はされております! 商談室にご案内致しますね! 彼女について行ってください!」


 受付嬢アンドロイドがそう言い、いつの間にか側に控えていた別のアンドロイドが俺に笑顔を向けてから先導を始める。しかし受付嬢といい、この案内役といい文句なしの美人さんばかりだな。隙あらば売り込もうという魂胆が見える見える。まぁうちのメイが一番美人だがな!

 そんな事を考えながら案内されたのは受付嬢アンドロイドの言っていた商談室であった。オフィスの片隅にパーティションで作られたような安っぽいやつじゃなく、個室でしっかりと調度品も整えられているタイプの格式が高そうなやつ。

 それでも壁面にかなり叡智な感じの美女アンドロイドのホロカタログが表示されているのは流石はオリエント・インダストリーといったところだろうか。なんだその衣装は。色々隠れてないぞ。


「ようこそ、いらっしゃいませ。商談担当のナンバーA、0121です。識別ナンバーは覚えにくいでしょうから、商談担当の人とお呼びください。どうぞ、こちらの席に」


 商談室で俺とメイを待ち受けていたのは商談担当さんだった。ナンバーAの0121? 識別ナンバーなんてものを聞くのは初めてだな。

 商談担当さんの外見はなんというか目以外は真っ白だ。肌も、髪の毛も、身につけている服までもが真っ白。服装そのものはパンツスタイルの品の良いビジネススーツのようなものなのだが、真っ白でなんだかすごくスタイリッシュである。体型もスラッとしたモデル体型でばっちり決まってるな。

 こころなしか、メイが緊張しているような気がする。いや、本当になんとなくなんだが。勧められるまま商談室のソファに腰を下ろした俺の斜め後ろに立ったまま微動だにしないんだよな。


「もしかしてなんだけど、偉い人だったりする?」

「いえいえ、私はただの商談担当ですよ。歳だけは食っている年増ですけど」


 そう言ってにっこりと笑みを浮かべる商談担当さんだが、それってさぁ……アルファベット順で考えると、Aナンバーってかなり若い数字なんじゃないか? しかも0121ってことは121番目ってことだろう? もしやグラッカン帝国内で発生した機械知性の中でもごく初期に発生した個体なんじゃないのか?


「色々思うところはあるけど深くは突っ込まんぞ……とにかく商談をまとめよう」

「うふふ、残念。ではお望み通り、商談をまとめましょう。今回はヒロ様にお仕えしているメイさんの昇格と、メイドの追加雇用ということでしたね」

「うん、そういう感じらしいんだが……単に新しくメイドロイドを追加購入するのとは違うんだよな?」


 実はここのところを俺はよく理解できていない。今後、母艦をより大型のものに買い替えることを考えると、メイはそちらの管理に集中することになってしまう――かもしれない。少なくとも、今よりも忙しくなるのは確実だ。かといって俺のお世話や他のクルーのお世話をできなくなるというのはメイのアンデンティティに関わる問題である。

 彼女は優秀なので今まではブラックロータスの管理をしながらも俺達の世話を焼いていてくれたわけだが、今後乗り換え予定のフリングホルニ級はデカい。とにかくデカい。全長だけでもブラックロータスの倍以上あるので、メイが艦内の管理のために待機するブリッジと居住スペースとの距離がかなりある。いくらメイが優秀でも、物理的な距離だけは如何ともしがたい。歩いて移動するのがしんどいレベルの距離があるからな。

 それでもメイならば持ち前の俊足を活かした高速移動でどうにか出来ないこともない。ただし、自動車よりも速い速度で結構鍛えた俺が持ち上げるのが難しいほどのボディが船内を疾走することになる。衝突などが起きた日には控えめに言っても交通事故である。下手したらメイにぶつかられた方が壁のシミになりかねない。

 俺もそんな恐ろしい目には遭いたくないので、メイドロイドを増やそうというのが事の発端だ。


「そうですね。基本的に機械知性というのは一人の人間に一人しか仕えてはならない、ということになっていますから、もし新しくメイドロイドを雇用するとなると、ヒロ様以外のクルーの方を主として新規に雇っていただく形になります。この場合は命令系統が別々になってしまいますね」

「ああ、つまりミミやエルマにとってのメイを雇う形になるのか……あくまでも主が最優先と」


 それはそれで良いような気がするんだが、場合によってはメイとその新しいメイドとの間で意見が対立する可能性があるわけだな。メイが先任とはいえ、一応同格の存在ってことになるし。


「そこで今回ご提案させていただいたのがメイさんの昇格ですね。メイさんをメイド長として、部下のメイドロイドを雇用して頂く形となります。新しいメイドロイドはメイド長であるメイさんの指揮下に入ることになり、一つの船の中で複数の機械知性が意見を対立させるような事態は避けられるというわけです」

「その方法だと一人の人間に一人しか仕えてはならないっていう規定に引っかからないのか?」


 いずれにせよ俺が複数のメイドロイドを雇用することになるのだから、規定に引っかかりそうなものだが。


「はい、直接仕えるわけではないのでセーフです」

「ほんとにぃ……? なんか欺瞞の香りがするんだが」

「うふふ、大丈夫ですよ。法解釈上も問題ないということになっていますから」


 ということになっているって、それはもう殆ど自白みたいなものでは? まぁウチとしては助かるから良いんだが。


「あ、ただこういった場合の仕様としてメイさんを雇用した時のようにユーザー様による外見などのカスタマイズはできません。機能面で細かい仕様の指定などもできません。無論、ご希望に沿った機能を有するメイドを手配致しますので、そこはご安心ください」

「ああ……なんというか本当に人材を派遣してもらうような形になるんだな。問題があった場合には勿論対応はしてもらえるんだよな?」

「勿論です。ただ、そのようなことは万が一にも無いとは思いますが」


 商談担当さんは人材……人材? には自信があるようだ。


「ならその方向で話を進めよう。俺の希望としては最低限自衛ができる程度の戦闘能力を有すること。可能であれば宙賊相手の白兵戦を余裕でこなせる程度の戦闘能力が欲しい。降り立ったコロニーでクルーの護衛もさせたいしな。基本的な家事技能も欲しいのと、将来を見据えるとベビーシッターも任せられると良いかもな。人数は三人くらいが良いか? メイからはどうだ?」

「新しい母艦のオペレーションも代行できる個体がその中に一人は欲しいかと。不測の事態で私がオペレーションを行えない、というような状況も無いとは言えませんので」

「なるほど、第二席は確かに居た方が良いか。俺としてはこんなところかな? どんな人を雇用するかはメイに一任するよ。メイド長だしな」

「ありがとうございます、ご主人様」

「メイさんはご主人様から確として信頼を置かれているのですね。大変結構なことだと思います。メイさんを送り出した当社としても鼻が高いですね」


 商談担当さん、もうなんか色々と隠す気無いな? 完全に上から目線というか親目線みたいな発言じゃないか。まぁそこはスルーしとこう。


「あとはメイさんの昇格に付随した強化処置と、雇用するメイド達の待遇についてですね。筐体については現状維持で問題ありませんが、外部演算ユニットとメンテナンスポッドの増設が必要になります。メイド達に関しては雇用、という形になるので一月毎、半年毎、もしくは一年毎の利用料金をお支払い頂く形になります。一年毎の雇用という形にして下さるのであればメンテナンスポッドのレンタル料金はサービスとなりますよ」

「ああ、購入じゃなくてサブスクになるのね……まぁ、これからデカい出費があることを考えると好都合か?」


 額面を見てみると、メイの購入代金と比べるとだいぶ安い。仮に三人雇用したとしても、メイの購入代金と同額になるのには五年くらいかかりそうだな。いや、いくらなんでも安すぎないか?


「メイさん用の外部演算ユニットは10万エネルほどになりますので、そこまでではないと思いますよ。メイド達を統括するのにどうしても必要な施設でもありますから。というか、一般的な感覚で言うと超高額ですからね、この金額は。ヒロ様が稼げているだけですから」


 サブスク料金はメイドロイド一人あたり一ヶ月1500エネル。一年契約にすると少しお安くなって16000エネル。もし三人雇ったら48000エネル。メイ用の初期投資が10万エネルと考えると五年で34万エネル。実際には細々と他にもかかりそうだが……確かに俺ならなんとでもなる金額だが、月に3000から4000エネルも稼いでいれば高級取りと言われる普通の人には全く手が出ない金額ではあるか。


「金額面は納得した。後はメイに委細任せる。どんな人員がメイの部下に相応しいか、どんな人材が必要なのかはメイが一番よくわかるだろうしな」

「はい、全て私にお任せください、ご主人様。ご満足頂けるよう全力を尽くします」


 俺に全権を委任されたメイが拳を握ってふんすと鼻息を荒くする。なんかメイの中で基準が色々と爆上がりしていそうだが、メイなら万事恙無く事を進めてくれるだろうし、機械知性ならそんなメイの厳しい要求にもしっかり応えてくれるだろう。

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― 新着の感想 ―
商談担当さんの真っ白な見た目とlotナンバーについて少々無理矢理な考察 A-0121→エー・レイイチニイイチ→エー・レイニイ→エレニー ギリシャ語由来の女性名「エレニ」は「光」「輝く人」「松明(た…
ミロに統括されてた汎用メイドロイド達みたいな感じになるのか。
更新乙! メイドロイドが三人……この手の新キャラって後半 出番がほとんどなくなるんだよな。 某メイド隊のお側御用隊三人娘とか。(笑) そう言う事が無い事を祈りつつ、新キャラ参戦 楽しみですね。
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