#581 「煽ってくるじゃん……」
というわけでメイが沈黙して三人の適正な機械知性を選別すること五分ほど。これはメイ達のような機械知性が情報をやり取りして意思決定を下すのには大変に長い時間である……らしい。俺にしてみれば五分で三人分の面接を終わらせるだけでも滅茶苦茶早いと思うんだけど。ああいや、三人を選出しただけで、どれくらいの応募があったかはわからんか。いや、それだともっと凄いってことになるな?
「倍率何倍だったんだ……?」
「約三百三十三倍ですね。募集三体に対して応募が一千体でしたので」
「どうしてそんなに人気なんだ……」
一千体もの機械知性が殺到してきたって、考えてみるとちょっと怖いんだが。そんなに給料が良いわけでもないだろうに、一体何が彼女達を惹きつけたというんだ。
「えーと、その彼女達はいつブラックロータスに乗るんだ? バカンスの後に引き取りに来れば良いのか?」
「いえ、既にボディの構築を始めているので、二時間程度で合流可能です。外部演算ユニットやメンテナンスポッドも在庫があるそうです」
「それじゃあ搬入待ちか。うーん、二時間か。少し時間が余ったな。折角だから顔を合わせたいよな。ボディの構築が終わったら勝手に歩いてこい、ってのも味気ないというか不安だろうし」
そもそも機械知性が新しい職場に着任する時にプレッシャーや不安を感じるのかは不明だけど。それでも雇用主としては出迎えるべきだろうと思うんだよな。印象も良いだろうし。あと、まぁ単純に新しいメイドさんと早く会いたいって気持ちもある。
「時間があるならご休憩、なされますか?」
「なされません。気軽にラブホみたいに休憩室を斡旋するのやめんか?」
突然際どい発言をぶちこんでくる商談担当さんにNOを突きつける。他の嫁に滞在先の手配を頼んでおいて、メイドと一緒にいかがわしさマックスのアンドロイド街に二人でしけこんでしっぽりとか、流石に許されないと思う。メイなら上手く誤魔化すかもしれないが、君子危うきに近寄らず。やましいことをしないのが一番だ。
「ここで二時間待つなら結局そういう目で見られるのは同じことですよ。しっぽり楽しんできたほうがお得です」
そう言って商談担当さんが左手の人差し指と親指で輪を作り、右手の人差し指を輪に出し入れする。うん、理路整然とありがとう。でもその卑猥なハンドサインは今すぐやめような。
☆★☆
俺は弱い男だ。
結局メイと商談担当さんに押し切られてご休憩してしまった。商談担当さんはともかく、メイに寂しそうな顔をされたら駄目だった。普段無表情なメイにここぞとばかりにそんな表情をされたら勝てない。物理的に無理矢理、ということなら今の俺ならメイにも対抗できるけど、精神面で攻められると無理だ。
事を終えた後、まったりと二人で過ごしてから身を清め、案内に従って移動した先、航宙艦のハンガーめいた無機質な部屋で三人のメイドさん――メイドロイドと対面する。商談担当さんもいる。恐らく全員が事情というか、経緯を把握しているだろうから微妙にいたたまれないというか、気まずい。
「あー、えー……おほん。雇用主のキャプテン・ヒロだ。既に情報共有はされていそうだが、一応自己紹介しておく。傭兵ギルドのプラチナランカーで、更にゴールドスターを受勲して帝国の名誉子爵ということになっている。メイの他に嫁が九人……こうして言葉にすると異常だな? とにかく多数の嫁さんがいて、今後は母艦を乗り換える予定もある。それで、広くなる母艦の管理運営やクルーの護衛、それに将来的には生まれてくるであろう子ども達のベビーシッターとしての働きも期待している。働き如何でオリエント・インダストリーに払う給金とは別にボーナスを支給する用意もあるから、頑張って働いて欲しい。俺からの挨拶は以上だが、こんなところで良いか?」
「はい、ご主人様。素晴らしい訓示であったかと。では私もご主人様に倣って一言。メイです。先任、かつメイド長として貴女達三体を監督致します。ご主人様と行動していると特殊な状況に遭遇することが多々ありますので、判断に迷った場合はすぐに情報共有をして下さい。私からは以上です」
俺に続いて挨拶をしたメイがスカートの裾を摘んで優雅に礼をする。本来メイ達が肉声でこのようなやりとりをする必要なんて一切無いのだが、敢えて俺にもわかるようにこうしてコミュニケーションを見せてくれたのだろう。彼女達同士なら無線を使ったデータ通信で音声を使った会話の数百倍どころか数万倍とか下手すると数億倍の速さで情報をやりとりできるんだろうからな。
「私どももご挨拶をさせて頂きます、マスター。私はメイド長の補佐を務めさせて頂くことになっております。認識ナンバーはI、0027です。宜しくお願い致します」
そう言って丁寧なお辞儀をしてから俺に笑顔を向けてきたのは、なんというか母性が強そうといか、色気が凄い感じのメイドロイドであった。赤みの強い長髪を頭の後ろでお団子にまとめていて、こう、もみあげというか……サイドポニー? を両サイドに垂らしている。メイドロイドのトレードマークである機械パーツはメイと同じように両耳部分だな。左目の下に泣き黒子もあって、なんというか人妻感というか未亡人感というか……胸部装甲の厚さも圧巻だ。ミミやショーコ先生に勝るとも劣らないグレートなボリュームである。背の高さは俺より少し低いくらいか。
「認識ナンバーR、0015。基本的な艦内管理運営の他、護衛や標的の追跡、白兵戦にも対応する。よろしく、マスター」
二人目は淡い紫色……藤色? の髪の毛を肩口くらいのミドルヘアに切り揃えたメイドロイドだ。全体的にスレンダーな体つきで、身長は俺と同じくらい。特徴的なのは彼女の頭の上に鎮座している犬か狼の耳の様な機械パーツと、同様に彼女の腰の後ろから生えてぷらぷらと動いている金属製の尻尾のようなパーツだ。言葉は少ないがくりっとした瞳はいかにも素直そうな感じで、大型犬のような愛嬌がある。メカ大型犬メイド? 属性盛過ぎと違うか?
「うぃーっす、ナンバーJ、3103でーす。うちも基本的な仕事の他に護衛も戦闘もやりまーす。ボーナス期待してまーす」
三人目のこれはなんだろう。ギャルか? ギャルなのか? 金髪のツインテールに艶めかしい褐色の肌。メイクは……ナチュラルな感じだな。なんだろう、この似非っぽさ。ぽいけど、そのものじゃない微妙な違和感。でもまぁ、うん。美人というか可愛い系。胸部装甲の厚さは普通。身長は俺より低い。エルマくらいか? しかしこのキャラ付けは強烈だな。良いのか? まぁこうしてメイが何も言わないってことは良いのか。
「ご主人様、矯正しますか?」
いや言ったわ。メイ的には矯正対象らしい。
「いや、個性的で良いんじゃないかな?」
「さっすがごしゅー、話が分かるー。あ、すんません」
メイに視線を向けられたナンバーJ、3103がにへらっと崩れていた表情を引き締めて姿勢を正す。うん、まぁ個性的で良し。うちのクルーにはいないタイプだし、これはこれで上手くやってくれそう。
「しかしなんというか三者三様で個性的だな……うん、良いんじゃないか。流石はメイの人選だな。三人とも、よろしく」
彼女達のスペックについては後で確認する――いやらしい意味ではなく――として、呼び名をどうするかだな。
「流石に認識ナンバーで呼ぶのは面倒というか、呼びづらいんだが。名前とか無いのか?」
「はい、ご主人様。私も皆様から名前を頂いたように、私達にはヒトと同じ様な名前はございません」
「それじゃあ皆と相談して名前をつけてもらうか」
「えー、ごしゅにつけてもらいたーい」
「私もご主人につけてもらいたい」
「ええと……それじゃあ、私も」
ナンバーJ、3103に便乗してナンバーR、0015とナンバーI、0027も俺に名前をつけて欲しいと言い始めた。
「俺、そういうセンスに全く自信がないんだが……」
「ご主人、直感で良い」
「可愛い感じのでお願いしますっ」
「ごしゅのいいとこみてみたーい」
「煽ってくるじゃん……」
結局ウンウンと十数分ほど悩んだ結果、三人に名前をつけた。
「ニーナ……はいマスター、私はニーナです」
「イコ……うん、私はイコ」
「サトミかぁ、なんかあーしだけ方向性違くね? まぁ良いけど」
はい、三人の認識ナンバーから連想して名前をつけました。センスの無さは認める。でもいきなり女性三人の名前をつけろとか言われても困る。認識ナンバーを基に安直な名前をつけても許して欲しい。イコにワンコってつけなかっただけでも褒めて欲しい。
「名前付けも済んだところで、これで無事に出荷ですね。三人ともちゃんと可愛がってあげてくださいね」
「常識の範囲内で頼りにさせてもらう」
何か含みを匂わせる商談担当さんの発言に微妙に予防線を張った返答をしておく。そもそも契約内容にあっち方面の色っぽい内容は入っていないだろ。三人ともそれぞれに魅力と個性溢れるメイドさんだと思うが、俺は手を出す気はないぞ。無いったら無いぞ。第一、一人の人間に仕える機械知性の数は一体ってなんか掟的なもので決まってるんだろうが。
「ふふ、恋と愛は何にも勝りますからね。道理も理屈も何もかもを捻じ曲げて世界を、宇宙を救う力になるんですよ」
「そういえば君達、超強火の恋愛至上脳だったね……でも人の家庭を破壊するようなことはしないよう厳に謹んでくれ。俺も気をつけるから。本気でやめろよ。マジで怒るからな」
「勿論弁えていますとも。産めよ、増えよ、地に満ちよご主人様が私どものモットーです」
「そこはかとない邪悪なアトモスフィアを感じるのは俺の気のせいか……?」
そんなことはないですよと機械知性どもがしれっと手をひらひらと振る。本当か? まことにか? 信じるからな? 裏切ったら許さんからな?




