【悪役会議3】
【悪役会議3】
レンタカーを走らせていた美月と斧熊の二人は、
たまたま見つけたラブホテルに
宿泊目的で予約なしで入ったところ
フロントで係員に呼び止められた。
駐車場の片隅にある洗車スペースで
泥を落としてからじゃないと入室させないという。
泥だらけで客室の風呂を使われたらたまらない、
という理由も告げられた。
ホースの冷水を互いにかけあって
「夏でよかったね」とか
「なんでこんな目に会わないといけないのよ」などとブツクサ言い、
最終的には
「みんな一寸法師のせいだ」
という結論に至った。
知らずに入ったそのラブホテルであったが、
コスプレ衣装が借り放題というサービスを提供していた。
無論、
チープな素材のものが大半であるが、
職業を差別していると受け止められるような
看護師やキャビンアテンダントの衣装は置いてない。
美月はスタンダードな
バニーガールのコスプレをチョイスした。
網タイツに
黒のレオタード、
ウサギ耳の付いたカチューシャと、
謎の手首だけのカフスボタン付き袖の部分がアクセサリーである。
残念ながら
お世辞にも似合っていない。
のっぺりとした和風美人の顔面であり
胸も小さくはないが
それほど存在感があるわけでもなかった。
「一度、着てみたかったのよね」
イマイチな仕上がりなのは
本人も自覚はあるようで、
あまりテンションは上がっていない。
斧熊は
ビキニブリーフに
男性用ブラジャー、
上下ともピンクである。
特にモチーフはないようである。
食い込むタイプのブリーフなど
イケメンのモデルでもなければ
直視に耐えるものではないものを、
筋トレを始めたばかりの四十代ともなれば
尚更であった。
「一度、着てみたかった」
とおどけて言ってみるも
「真似しないでよ」
と冷たくあしらわれた。
せっかくだから、
と微妙な表情で並んで
スマホで記念撮影を撮り、
くたびれたふたりがけソファーに座り、
揃って瓶のビールをラッパ飲みしながら
スマホから流れるムーディな音楽のプレイリストをぼんやり聞いている。
コスプレ衣装の貸し出し以外は
普通のラブホのサービスと設備であった。
『なんか、
さっさとブリーフィングを終わらせて
早くプレイを始めたい、
みたいな空気?』
適当に床に置いた「竜の首の玉」から投影された
乙姫のホログラムが状況を探りながら
語りかけてきた。
あまりに雰囲気が悪いようなので
『いやー、しかし、
もう一息だったのに惜しかったよねえ。
あの一寸法師を後一歩のところまで追い詰めたよねえ。
ねえ?』
と乙姫は一人で早口に話すも
二人は返事をしない代わりに
無言で瓶ビールをくぴくぴと飲む。
『反応悪いぞ』
と乙姫も真顔になる。
『まさか
初代イヌをその場で成仏させて
臭いを克服されるとは、
事前に分かるはずないもんね。
仕方ないよね』
と乙姫が弁明するのを
遮るように美月が
「もうアンタの作戦は信用しないってよ」
と言って斧熊を見る。
斧熊は
(僕のせいにされる)
と即座に否定しようとするが
面倒になり
「そのまま本人に言わないでよ」
と同調することにした。
乙姫は
『さいでやんすか』
とひねくれ、
『じゃあ次の一寸法師対策は勝手にやれば?
あんたら個人レベルでどれだけできるか、
やってみんしゃい』
と匙を投げた。
丸投げされた側の美月が
「もう桃を直接、襲撃した方が早くない?」
と少しだけ具体的に考えはじめるが
「一寸法師の対策ができてない今のタイミングでは
返り討ちに会うだけだ。
それに、
GPSとか付いてないし
移動中はどこにいるかまで分からない」
と斧熊は
リーマン上司の悪い癖で
すぐに若手の意見やアイデアを潰しにかかる。
『そういうこと。
もうお供の復活が始まっている。
予言書の場所に現れるのを待つ方が早い』
と乙姫も
この点には賛成のようであった。
斧熊が
「それとも、今から探しに行くかい?」
と嘲笑ぎみに言うと
美月は
「冗談じゃない。
行かないわよ、
これからお楽しみなのに」
とむくれた。
次に乙姫は
『タイミングがシビアだ。
イヌで見た通り、
桃とお供サルが出会ってから、
お供の契りを結ぶまでの間に実行する必要がある』
とヒントを出す側に回った。
高みの見物というところである。
「先にお供をぶっ潰しておけば?」
と一寸法師と戦わない方法はないかと
美月も思案の方向を変えるが
『人間の見た目をしているから
誰がお供の遺伝子を継いでいるか分からない。
サルは人間に似ているから、
イヌよりも更に分かりづらいだろう』
と乙姫は首を降った。
斧熊は
「イヌの娘も、
イヌっぽい特徴はなかったなあ」
と言ってココの見た目を思い出す。
中年男性には
少しだけ魅力的にも見えてしまう
危険な家出少女感であった。
『桃の本人は見たらピンと来るらしいから、
そのタイミングを狙って割り込むしかないな』
乙姫が偉そうに言うのを
(簡単に言うけどできた試しがない)
と斧熊は内心で否定し
『オニでビビらせれば
文字通りシッポを巻いて
どこかに逃げていくはずだ』
と笑うのを
(この辺の見積もりがいつも甘いような気がする)
と懸念を持った。
美月も
「桃とサルとの仲を引き裂けばいいんでしょ、
工夫次第で何とでもなるんじゃない?」
と同様に軽んじているのようなので
斧熊は
(こいつはこいつで、
何でも僕に丸投げすればいいと思ってるし)
と内心で憤った。
『じゃあお仕置きも兼ねて、
斧ちゃん、スマホ見てみ』
見ると知らないうちに勝手に
アプリがインストールされている。
ハトの顔アップのアイコンである。
乙姫の
『特製のアプリを送ったから、
これで動体視力を鍛えればいいじゃない』
という言葉を聞いた斧熊は
「ちょうどいい。
一寸法師の動きが目で追えないんじゃ
勝ち目無いと思っていたんだ」
と言ってみたものの半信半疑である。
アプリ名は「ピジョン(ハト)トレーニング」といい、
飛んでいるハトの額に書かれた数字を
素早く読み取って入力するゲームで
眼球を動かす筋肉を鍛えることで
反応速度を上げることができるという。
早く正解すると高得点がもらえる。
『ピジョンとビジョンをかけています』
と乙姫が得意気に言うのを
「はいはい、おもしろいおもしろい」
と美月は受け流した。
説明を聞いているうちに
その気になってきた斧熊は
「よし、やるぞ!
ついでに老眼も治してやる」
とやおら勢い付いて
スマホの画面を凝視しだす。
美月の
「程ほどにしときなさいよ」
の声掛けも虚しく、
しばらくすると案の定、
両目から同時にビキっという音がして激痛が走る。
力を入れすぎてその眼筋を痛めたのである。
斧熊は
「あああああ!」
と泣き叫びながら
目を押さえてのたうち回った。
美月は
「この光景、すごいデジャブ」
と呆れながら
濡れタオルで斧熊の目もとを冷やした。
「目をつぶっててもヤレるでしょ」
床に仰向けに寝転がった斧熊は
「毎度、お世話になります」
と目にタオルをかけたまま笑うと
美月も
「もう何度目よ」
と嫌らしく笑い返し、
バニーガールの格好のまま
斧熊の下半身へと跨がる体勢に入る。
二人の様子を乙姫は
また食い入るように見つめながら
『何回見ても飽きないんだよねえ』
と呟いた。




