【悪役会議2】
【悪役会議2】
世の中に多かる人をだに、
少しもかたちよしと聞きては、
見まほしうする人たちなりければ、
かぐや姫を見まほしうして物も食はず、
思ひつつ、
かの家に行きてたたずみ歩きけれど、
かひあるべくもあらず。
文を書きてやれども、
返事もせず。
(訳:世の中にありふれた程度の女でさえも、
少しでも器量よしだと耳にしては、
得たいと思うほどの人々だったから、
かぐや姫と結婚したいと思って、
食も喉を通らぬほどに思い続け、
翁の家に行ってうろつきまわるけれども、
その甲斐はありそうにもない。
恋文を書いて送っても、
姫は返事もしない)
大井田晴彦「竹取物語 現代語訳対照・索引付」 笠間書院 2012年
京都駅周辺のラブホテルを検索する人間は、
そのヒットする件数の多さに驚くことだろう。
その上で昨今のインバウンド需要も重なり、
ホテルといえば種類を問わずどこも繁盛し
宿泊料は常に高騰し続けている。
ラブホテルであっても泊まれるならば
喜んで予約するという旅行者も数多くいるだろう。
有能なビジネスマンとしての側面を持つ斧熊であるから、
直接タクシーでチェックイン可能なラブホテルを選んで
前日から予約を入れていた。
配車アプリで住所を指定すれば
タクシーの運転手も慣れたもので、
一目で明らかに不倫カップルと分かるような
上司の斧熊と
若手女子社員の美月を乗せても
下衆な冷やかしなどは吐かない。
その美月をタクシー内に連れ込むときは難儀であった。
「早くー」
とか
「連れてってー」
などと言うだけで
美月自らはてんで動こうともしないのだ。
肩を貸した斧熊に全体重をもって、
しなだれかかりながら
美月は悩まし気な吐息をついていた。
頼みのトシドンが
一寸法師のスピードとスケベ根性とに完敗を喫し
桃や竜眼たちが悠々と立ち去った後も、
通りかかる学生などにジロジロと見られ
ノーブラ
かつ
ノーパン状態の美月は
顔を伏せ
身を縮めながら
腰のあたりをモジモジとさせているので、
やむを得ず斧熊は
タクシーを待たせている大学の正門前まで、
膝を痛めてガクガクなのに
美月をおんぶして運ぶこととなった。
背中に当たるノーブラの胸と、
支える腕に乗るノーパンの尻肉との
感触や
弾力や
柔らかさや
ぬくもりが
衣服を通しても堪らない妙薬となり
斧熊の股間をジクジクと悩ませた。
ラブホテルの部屋にはなぜか
小規模のメリーゴーランドが設置されていたが
バブル期の華やかな遺産であろう。
二頭の白馬が円の対面を回りながら
メルヘンチックな音楽をバックに
上下に呑気に揺れている。
宿泊客・休憩客は自由に乗ることができる。
まずは問答無用で風呂を使った二人なので、
今はバスローブのみを羽織り、
それぞれの馬上にて
反省会が行われていた。
「っていうか私の下着って、
最終的にはどこに行ったんだろう?」
風呂上がりでほんのり赤い肌で
メリーゴーランドには横座りの美月が
怪訝な顔をする。
一寸法師にいいようにやられた上下の下着は
彼女のお気に入りであり、
高価なブランド物であった。
「うーん、どうだろう」
と着替えや予備の下着を
美月が持っていると知っているので、
最初の内はぐらかそうとした斧熊である。
「パンティの方なんか顔にかぶっていたじゃない。
嬉しそうに」
意外と冷静に美月に見られていたらしいので
斧熊はアッサリと早めに白状することにして
「ああ、そういえば、持ってる」
と言うと眉を吊り上げ
「はあ?」
の美月に対し
「トシドンが逃げていった後、
落ちていたからスーツのポケットに入れておいた。
今、思い出した」
ととぼけて言葉を継ぐと
「なにそれ」
と更に美月が睨んでくる。
「『ノーノー』で学生らに見られるときの君は
すごくエロかったから、
もう少し見ていたくてね」
悪びれもせず開き直る斧熊を
メリーゴーランドしながら
『ノーノー』
というフレーズが
『ノーパンかつノーブラ』
の略であることに気づいている美月は
顔を赤らめた。
「帰りは『ノーノー』のままタクシーに乗せられたの
恥ずかしかったわ。
知り合いにこんなとこ見られたらって想像したら、
はあ~」
暑そうにバスローブの胸元を
パタパタと扇ぐ美月を見て
(二十代後半の露出プレイはリアルさがすごい)
と呆れ、
「見られると興奮する性的嗜好だって
分かっただけでも怪我の功名じゃないか」
と、のうのうと言いながら
斧熊はその大きすぎない乳房の上端を凝視した。
「人を変態扱いしないでよ、うふん」
上目づかいで、
なじるような目つきで
美月が抗弁するが、
身体の方からは発情したメスのフェロモンが
ジットリとメリーゴーランドを包み、
回り続ける白馬が
残り香を追いかけ
斧熊の鼻腔を
嫌らしく淫らにくすぐる。
一方の斧熊といえば、
スクワットの効果で
下半身の血流が促進されるのか、
これまでは週に一回の性交でも辛かったところが
昨日のウォータースライダーのラブホから
連日なのに
ムクムクと元気である。
いつもよりじっとりとした
斧熊のエロ視線を浴びるのを
美月も密かに悦び、
さらに興奮してこの
後の展開に胸をときめかせた。
『はいはい、そろそろいいですか』
メリーゴーランドの中央には
「竜の首の玉」が置いてあり
待ちきれなくなった乙姫のホログラムを投影し始めた。
見つめ合う二人の間に
半透明の三頭身が割り込んでくる形である。
『まずは私から謝っておきたいかな。
一寸法師の出現を予期できずにすまなかった。
翌日すぐに即断で行動してくるとは、
桃の性格からは読めなかったなあ。
結果、
浦島太郎に合流されてしまった』
乙姫はここで言葉を区切り
二人の反応を待ったが
何も言わずに見つめ合ったままなので
仕方なく続け
『オニのインナースペースに一寸法師が入ってきたら
もう成すすべがない、
ということはハッキリと分からされた。
小さすぎるし、
速すぎる。
何とか入られないようにしないと……』
とまだ話しているところに
「法に触れるタイプの野外露出はやめておいて、
コスプレとかどうだろう?
ミニスカートのセーラー服とかさ」
と乙姫など目にも入らない様子の
斧熊が脈略なく語りかければ、
美月は自分のセーラー服姿を想像して
「ば、バカじゃないの?
なんで、こんな歳で、
セーラー服なんか、
いろんな人に見られたら、うふん」
と興奮を隠しきれない声で返答し、
『聞いてください、エロトークは後にして』
と乙姫は仏頂面で主張した。
『次に奴らが訪れる場所は分かっている。
予言書の内容は知っているから』
斧熊はそこでようやく興味を示し
「桃ちゃんがK大の図書館で見たがってたやつだよな。
日付も指定されているのか?」
と問えば
『リカバリの必要時間から逆算しているのだろう。
ちなみに、あさってです』
との回答で
「リカバリってことは、
お供ってのは機械?
はたまた生体デバイス的なもの?」
と美月も質問を重ねると
『完全に生物兵器と言っていい。
オニの所業よ』
と乙姫は忌々し気に唇をゆがめた。
『最初はイヌ、
次はサル、
最後はキジ。
絵本の順番だな。
イヌ時点で決着つける気持ちでいてほしい。
場所も近いから
先回りして待ち構えてくれ』
ホログラムに浮かび上がった地図を見て斧熊は
「奈良の、吉野の、
ずいぶんと山奥だ。
レンタカーがいるな」
と眉根を寄せ、
「運転よろしく」
と免許を持っていない美月は軽く言った。
「で、肝心の、一寸法師対策は?」
斧熊の管理職として板についたフォローに
乙姫は
『当日、発表する。
今日に言えない理由も含め』
とバツが悪そうに答え、
(まだ思いついてないのでは?)
と斧熊は訝しんだが
ここは追及を一旦、見送ることにした。
「これ以上あの一寸法師のやつめに良いようにされたら、
わたし、
おかしくなってしまうわ」
美月が後を継いで
乙姫を言いなじったが、
何か追加のイタズラを期待しているような
艶めかしさがあったのも
斧熊はその響きに感じた。
『大丈夫だよ、
たぶん、
詳しくは言えないけど』
と語尾が少しずつ小さくなっていく乙姫に
美月は
「奈良に行くなら実家に寄って、
何か使えそうなアイテムを取ってくるわ。
このままやられっぱなしでは許せないから」
とさりげなく言った。
斧熊は
「両膝がダメになっているのですが、
その対策は足腰を使う?」
と少し気を使った発言を乙姫にしてみたのは、
実際、
ギリ歩けるレベルであり、
明日までにどれだけ回復しているか
分からないからであった。
『足への負担が少ない組体操も用意しておくよ』
と乙姫が面倒くさそうに言った。
『そんなことより、
お仕置き』
なぜか十キロのダンベルが
メリーゴーランドの馬の両脇に
ミサイルみたいにマウントされている。
斧熊は馬にまたがる前から気づいていた。
縦二人ピラミッド組体操が崩れたのは
土台になっていた斧熊の腕力が
弱かったせい、
ということになっているらしい。
斧熊もいい大人なので
無駄に反論はしない。
『膝が悪いおじさんは
座ったままの体勢でいいから』
ダンバルを握って
肘を曲げ伸ばし
上腕二頭筋(俗に力こぶ)を鍛える、
いわゆるダンベルカールを、
十回で一セット、
五セットやれ
というのがお仕置きの内容である。
十キロのダンベルなど
持ったことのない斧熊にとっては
明らかに過負荷であり
オーバートレーニングまっしぐらであることは
確実であった。
馬からダンベルを取り外して
ベッドサイドに腰掛けた斧熊からは
まだ回り続けるメリーゴーランドが見える。
馬の上で横座りになった美月が
じっとりとした視線を送ってきた。
二人、
何も言わなくても通じ合っている。
スクワットをやった時と同様に
一セットごとに
美月がご褒美をくれるのだ。
ひいひい言いながら斧熊が
十回ダンベルを上げ下げすると
回ってきた美月が
バスローブの裾を捲りあげ
真っ白な太ももを晒したり、
胸元をはだけて
乳房のギリギリまで見せてくれたりする。
次に回ってくると
捲りあげのレベルが上がっているのだから
斧熊は自分でも上腕二頭筋がブチっと行きそうなのが分かるけれども
ダンベル上げ下げを止めることができない。
美月も顔を赤く染め、
斧熊に嫌らしい目で見られて
性的に興奮しているのは一目瞭然である。
『これはお仕置きであって、
プレイ前の気分盛り上げイントロ発情準備運動じゃないぞ』
と呆れた調子で乙姫が言うが
その本人も
二人の嫌らしい空気を密かに歓迎していた。
すっかりやる気が出来上がった美月に対し
五セットを何とかやり終えた斧熊は
「ははは、
どうやらとっくに準備オーケーのようだね」
と舌なめずりしながら
ベッドサイドから立ち上がり
迎えに行こうとしたとき、
膝に激痛が走り
「うひゃあ」
と情けない悲鳴を上げながら
前のめりにホテルの床に倒れた。
腕の筋肉も死んでるので
起き上がることができない。
うつ伏せでピクピクと震えることしかできなかった。
仏頂面の美月は
自分でメリーゴーランドを無言で降りると、
足で斧熊を転がして
仰向けにする。
「毎度、お世話になります」
と覆いかぶさってくる美月を
みっともない顔で見上げる斧熊に
「筋トレするのはあなただけでいいのに、
なんで私までスクワットしないといけないのよ」
などと毒づきながら
斧熊のバスローブを左右にはだけた美月は
その股間を見て
「えっ?」
と息を飲んだ。
「どうしたの?
ずいぶん元気じゃない?
昨日もシたのに。
また高い栄養剤でも飲んだ?」
うっとりとした視線を
斧熊の股間に這わせながら
嬉しそうに美月が声を上ずらせる。
「スクワットで下半身の血流が良くなったのかもね。
こう、
精力がムクムク湧いてくるようなんだ。
若いころみたいに」
斧熊の側にとっても嬉しい誤算であり
怪我の功名であった。
若かりしあの頃のような
はちきれんばかりの海綿体膨張率は
久しぶりである。
「なら、
筋トレは続けた方が絶対いい。
男としてずっと魅力的よ」
美月の目は
もう斧熊の股間しか見ていない。
そんな彼女の強い性欲に当てられた斧熊は
(中年男性が若い娘にモテるために
筋トレは必須なのであるなあ)
としみじみと実感したのであった。
そんな二人の様子を食い入るように見つめる乙姫もまた
男根崇拝について思いを巡らせていた。




