↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
3/12

【悪役会議1】

【悪役会議1】


 その竹の中に、

 もと光る竹なむ一筋ありける。

 あやしがりて寄りて見るに、

 筒の中光りたり。

 それを見れば、

 三寸ばかりなる人、

 いとうつくしうてゐたり。


 翁言ふやう、

 「我、朝ごと夕ごとに見る竹の中におはするにて知りぬ。

  子になり給ふべき人なめり」

 とて、

 手にうち入れて家へ持ちて来ぬ。


(訳:その竹の中に、根本が光る竹が一本あった。

 奇妙に思って近づいて見ると、竹筒の中が光っている。

 それを見ると、身の丈三寸くらいの人が、

 たいそうかわいらしい様子で座っている。


 翁が言うには、

 「私は、朝ごと夕ごとに見る竹の中にいらっしゃるので、わかった。

 我が子におなりになるはずの人のようだ」

 と言って、掌に乗せて家に連れ帰ってきた。)


大井田晴彦「竹取物語 現代語訳対照・索引付」 笠間書院 2012年



水着のまま

逃げるように車に乗り込んだ二人が向かったのは

枚方バイパス沿いに欧州の城郭のごとくそびえ立つ

ラグジュアリーなレジャーホテルであった。


某アミューズメントパーク駐車場からは

安全運転で十五分ほどの距離であった。


坂田斧熊(さかたおのくま)が運転するクラウンは

ホテルの駐車場へ吸い込まれれば

部屋まで直接アクセスできる。


誰とも顔を合わせずにチェックインできるタイプのホテルと言えば

その建物の目的も

外観や内装も

おおよそ想像がつくであろう。


当然のようにダブルベッドであり

シースルーなバスルームである。

斧熊は奮発して

最も高価なランクのスウィートルームを予約していた。


ひと昔前の連れ込み宿などとは違い

昨今のレジャーホテルのラグジュアリーさは

そのホスピタリティーにおいて万全であり

中でも特筆すべきはルームサービスであり

フード類の充実さである。


それなりのレストランと遜色ないレベルの料理やドリンクが

部屋まですっと運ばれてくる。

むろん、対価もそれなりであるし

多少の待ち時間はかかる。


「君の好きなロゼワインも冷やしてもらっていたよ」


 

トランクス型の水着一丁のまま

斧熊はカッコつけて言ってみた。

プールサイドでの失態を無かったことにしようと

一発逆転を狙った

精一杯のカッコつけであった。


「うるさい」


ベッドに腰掛けて

項垂れている

美月からの予想外の一言だった。


まるで感情という感情が乾ききったかのように

無機質な声質であった。


彼女も斧熊と同様に

黒ビキニのままである。


先ほどアミューズメントパークのプールサイドで

ナマハゲとして撃退されたままの恰好で

クラウンに乗って逃げてきたのである。


着替えは車に積んであったが

二人とも着替える気力なく、

そのまま無言で敗走してきたということになる。


(そんなにショックだったのか。

 身体的にはノーダメージだったけど)


右手にワインのボトル、

左手の指の間に二つのワイングラスを持ったまま、

斧熊は何とか冷静さをキープしようと肩をすくめた。


そのようなすかした態度を美月は気に入らないらしく

キッと睨み上げると

「お酒なんて飲んでる場合?」

と厳しい声で言った。


美月が怒っているのを見るのは

斧熊にとって珍しい事ではない。

なぜならば美月は

しょっちゅう怒っているからである。


「まずは落ち着いて、気持ちを切り替えようとしたのさ」


怒られた斧熊はワイングラスをサイドテーブルにそっと置きながら

なるべく穏やかな声をかけようとした。

美月への刺激を少しでも控えたかったのである。


「アルコールなんか入れたら

 神経が興奮して余計に考えがまとまらないわよ」


ぴしゃりと一括され斧熊は首をすぼめた。

「あまり思いつめるのも良くないかと思って」

と取り繕うような卑屈な笑顔を浮かべ

斧熊は頭を掻いたが

「その腹。ブクブクに太りやがって。お酒飲み過ぎじゃないの?」

とトランクス水着のみ装着の斧熊は

美月の攻撃的な指摘に

はっとして腹に手を当て

四十代後半のだらしないボディを改めて恥じた。


中年太りの突き出た腹部は隠しようがなかった。

三十五歳過ぎたあたりから明らかに太り始め、

やせようとしてもビクともしない。


これがサラリーマン坂田斧熊のマイナスからのスタートであった。


これから加齢とともに更にマイナス側に流れていく可能性は極めて高い。


逆転するきっかけは

断酒かもしれないし

筋トレかもしれない。


ここで斧熊と美月がどのような関係性なのか触れておくとすれば

言うまでもなく不倫関係である。


二人とも同じ企業に勤める会社員であり

斧熊が上司で

美月はその部下の一人である。


斧熊は既婚者であり妻と一人娘がいるのに

二十代後半独身の美月と関係を持っている。


企業についての詳しい記述は控えるが、

全国的に支店を展開しており

斧熊らは本社からそれらの地方支店に出向いて

監査や指導を行う立場である。

出張と偽って月に一回くらいの頻度で外泊し

逢瀬を重ねてもう三年目であり

斧熊の年齢的に限界もあって

その頻度は減りつつあった。


斧熊は彼の人生そのものが行きづまっているのを痛切に感じている。

特に腹回りが太ってシルエットが崩れてきたので

猶更である。


――美月こそが、プラスに転じる最後のチャンス――


斧熊は無意識でそう知覚していた。

妻子と別れる覚悟さえ付けば、

そのきっかけとなる重大事件さえ起これば

人生を逆転できるはず、

などとぼんやり思っていたところであったが、

まさかナマハゲに変化させられ、

しかも倒される側になったのは完全に想定外であった。


「あなた、今日、なにが起きたか、分かってるの?」


冷えたワインでも飲んで気持ちをリセットし

今日に発生した諸々の出来事を整理しようとした斧熊にとって

その美月の問いかけは言われるまでもなかったものである。


斧熊にはエリートサラリーマンの自覚があり、

目の前で起きた物事を

冷静に分解し理解できる自信があった。


大まかに振り返れば

ナマハゲになり、

そして敗れたという理解である。


ハッキリとは思い出せないが

恐らく桃太郎の末裔だという

あの巨乳の女子大生によるものであろう。


目を閉じれば輝く

白水着の谷間だけはハッキリと思い出せる。


「そして、自分が何をしたのか、分かってるの?」


美月の責めるような眼差しが

猛禽のように斧熊を捕らえ、

それだけで斧熊の身体はカエルのように竦み上がり

(ナマハゲが崩れて桃太郎勢に敗れたのが俺のせいにされる?)

と斧熊は動悸が速まり呼吸が浅くなるのを感じた。


反論しないと既成事実にされてしまう。

二人でサボテンの組体操をすることによりナマハゲにパワーを供給し

オニとして具現化させていたところ

斧熊の膝の上に立っていた美月が急に暴れ出したために

サボテン姿勢を保てなくなり、

結果としてナマハゲが砕けたというのが斧熊の見解であったので、

ワインでも差し出しておそらく反省しているであろう美月を慰めようと

菩薩の慈悲を以って接する気で近づいていったところに、

美月姫はいつもの攻撃的な姿勢であるのだから堪らない。


「一回、落ち着こうね」


と斧熊は水着姿の美月の肩にそっと手を置き、

穏やかな笑顔を浮かべたままベッドサイドに並んで座る。


彼女の薄くて細い肩は

その手を即座に拒絶するようではないものの

触れられるのを歓迎している風でもなかった。


「まだ、計画の全てが失敗に終わったってことじゃないないだろう?

 これからまだまだ取り返せる。

 その為には、原因の究明と、

 再発防止策だ」


いかにも年季の入ったベテラン上司といった包容力溢れるウインクをして

斧熊は美月の左肩に置いた手を離すと

右肩を横から手を回して

彼女の上半身ごと抱き寄せようとしたが

美月はすばやくその手を払い除け、

ベッドの上で尻を浮かせて座りなおし

斧熊の顔を真正面から捉えた。

妙齢のむっちりとした太ももが

黒ビキニから伸びて

蠱惑的に斧熊の性感をそそった。


「原因も何も、アンタがふざけて紐を解こうとしたからでしょ!」


美月はそう叫ぶと

自らの腰の横に垂れる

黒ビキニの紐を軽く何度も引っ張り上げて示すので


(やはり俺のせいで失敗したことになっている!)


との斧熊は思考を慌てて回しなおし


「あ、いや、

 組体操を支えていられなかったのは俺にも責任はあると思うけどさ、

 冷静に考えてみてよ。

 俺の両手はずっと君の脚をグリップしていたんだから、

 この紐を引っ張るには手が足りないじゃない?」


と斧熊は黒ビキニの横、すなわち美月の腰から尻を撫でながら


「この紐」


というジェスチャーを示した。


スベスベとして少し冷えた彼女の素肌の感触を

斧熊は一種の大胆さをもって

その手で味わった。


「うふん。……もう。

 片手だけ脚から離して、

 片方の紐だけ引っ張ったんじゃないの?」


美月は尻をもじもじとさせたが

斧熊が尻を撫でるのは払い除けず

少しだけ頬を上気させている。

彼女が少し強引なスキンシップが嫌いではないことを

斧熊は熟知していたのだ。


「ふふふ、そんなことできるわけないだろ。

 なんなら、今から試してみるかい?」


いたずらっぽく笑い腰を浮かしかける斧熊を

美月はバツが悪そうに手で制した。


「じゃあ、誰が?

 他に誰かがあのインナースペースに入って来て、

 あたしの水着の紐を解いたって言うの?」


ようやく落ち着いてきた美月の目を見つめ

斧熊は眉間にしわを寄せて数回頷くと、


「美月ちゃんが自分で解いた……、

 ってことはあり得ないから」


と言いかけ冗談が通じず睨みつけてくる美月に気づき

調子に乗り過ぎた自分を斧熊は自戒しながら


「やっぱり、一寸法師としか考えられないよね」


と手のひらの上にもう片方の手を乗せ

指を三センチ程度に開き

その大きさのイメージを伝えた。


美月は首をすくめ、

気持ち悪そうにラブホテルの床などを見回し


「でも、入って来れるの?

 あたしたちのプライベート空間に?」


と身をよじり


「桃太郎もオニもいるのだから、

 一寸法師が不思議な力を持ってても不思議ではないが」


と斧熊は顎に手を当てて考え込む姿勢になった。


「次の計画までに何らかの対抗策を練らないと、

 またいいようにやられてしまうわね。

 一寸法師と言えばオニ退治だもの」


と 美月も同様に親指の爪を噛みながら悔し気な表情を浮かべている

今がチャンスとばかりに


「って言うか、俺たちって、オニ側なの?」


とかねてからの疑問を口にするのを我慢できなくなった斧熊は聞く。


「はあ? 今ごろ何言ってんのよ」


美月は目を丸くして斧熊へと振り返る。

つい先ほどまでオニを操縦していた本人の発言とは信じられないようであった。


「名前からして、かぐや姫の関係なのかなって思ってたんだけど」


と曖昧に笑う斧熊に


「何回も説明したでしょ」


と美月は斧熊が膝の上に置いた手に自分の手を重ねた。


斧熊は頷いて


「大まかな理念は聞いていたけど、

 手段が「オニになって女子大生を襲う」だったとは」


と顔をしかめたが


「崇高な理念のためには手段を選んでいられない、

 何度も言ってるわよね」


と声のトーンの不穏さが増すにつれ

美月の目つきも険悪なものになっていく。


「ちょっと待って。

 落ち着いてね。へへ、

 君の理念は、もちろんしっかり理解しているよ」


と斧熊は自分の手に置かれた美月の手を優しく握り返し

猫なで声を再び繰り出したが


「分かってないわよ!」


と鋭く棘のある声で美月は素早く怒鳴ると

坐っていたベッドサイドから勢いよく立ち上がって

仁王立ちとなり、

左右の手を腰に当て、

怒りを込めて斧熊を見下ろした。


「あなたっていつもそう!

 理解者ズラするだけで結局は私のカラダ目当てだけなんだから!」


手を振りほどかれ

呆然と見上げる斧熊にそう吐き捨てると

美月は身を翻し

ダッシュでその場から離れる。


話の流れからしてそのままホテルを去るのかと思いきや

実際には美月は部屋の出口には向かっていなかった。

その行き先は斧熊は知っていたので

ベッドサイドに取り残されたまま

正に疲れた中年のようなため息をついた。


美月はラグジュアリーな部屋の中央にそびえ立つアールデコ調の螺旋階段を

だんだんだんと足音を響かせながら駆け上がる。


中二階のような構造の先には

個室内に設置された

プライベートなウォータースライダーとなっており

やたら広い風呂場の湯船へと繋がっている。


(またかよ。何回滑れば気が済むんだ)


ため息の流れで項垂れた体勢のまま

斧熊も立ち上がり、

しかし螺旋階段は登らず

美月を先回りすべく風呂場へ直接向かう。


シースルーのドアを開け風呂場へ

斧熊が足を踏み入れるのと、

無表情のままの美月が

ウォータースライダーで滑り下りてくるのは同時であった。


ほぼ裸の女体が砲弾のようなスピードを緩めることなく突っ込んで来て、

ざぶん、

と水しぶき(お湯だが)を浴び

「実は気に入ってるな? もうちょっと楽しそうに滑ればいいのに」

と斧熊が顔の湯を拭いながら言うが

美月は湯船の深部からゆっくり浮かび上がってくる途中であり

その声は届いていなかったようである。


セパレートの黒ビキニはそのままに、

湯を纏い二十代後半の

しっとりとした白い肌を艶めかしく晒されてゆくにつれ、

熟れつつある肉体と

相反するような若さゆえの健康的な官能美が

絶妙なバランスで配合されている甘い味わいの神秘を

斧熊は感じずにいられず思わず生唾を飲んだ。


愛人として何度も抱いているのであるから

その肌の手触りも揉み心地も斧熊は十分に知っているが、

服装やシチュエーションが普段と違ったせいか、

斧熊自身にとってこれほどそそられる女はいないと

改めて認識した。


頭部を湯船の水面を割って浮上させ

プウと唇からお湯を吹きながら

美月は

無表情の顔と髪にまとわりつく湯を片手でぞんざいに払うと、

平泳ぎの手つきで湯船の縁まで来て

螺旋階段の方向を見ながら

肢体をお湯から引き上げようとしている。


「また滑るの?」

と呆れた斧熊の言葉に

美月はギロリと睨み返し

へそを曲げた態度で湯船へと潜りなおした丁度そのとき、

部屋の方からあるメロディが響いて

美月は

「やば」

という顔になり

斧熊は舌打ちして頭を掻いた。


そのメロディとは童謡「浦島太郎」の一節である。


「だいたいこういうのって、いい所で邪魔が入るよな」

と仏頂面で湯船から這い出ようとする美月を

手のジェスチャーで制すると、

斧熊は急ぎ部屋に戻り

メロディを鳴らし続ける謎のアイテムを持って

また風呂場へと戻った。


そのアイテムは「竜の首の玉」と呼ばれる金色の玉で、

斧熊が風呂イスの上に置くと発光し

上方向に三十センチほどの半透明のホログラムを投影し始めた。


浮かび上がったのは

頭がでかい童子の姿で、

髪を数字の8を横にしたようないわゆる稚児髷(ちごまげ)に結い、

ヒラヒラしたリボンを肩の上から頭上にはためかせ、

古代中国風の着物を着て

手にした大きくて金色の扇子で口元を隠している。


日本で生まれ育った者であれば十中八九が

「あ、竜宮城の乙姫さまだ」

と言うであろう。


『もしもし、乙姫ですけど』


本人もそう言っている。


竜の首の玉とは竜宮城にいる乙姫と

斧熊・美月の部隊が遠隔通話できる

脅威のオーバーテクノロジーアイテムであった。


『かぐや姫に金太郎、

 こっちの声、聞こえてる?』


と半透明の乙姫が

ワクワクするのを押し殺すようにして聞いてくる。


「さっきホテルに戻ったばかりなんで、

 風呂に入ろうとしていたところです」


斧熊はぶっきらぼうな声で答えた。

ナマハゲや桃の出没位置などの情報は乙姫から流れており、

斧熊らは襲撃の首尾について報告する義務があるのだが

遅れていたので

乙姫がしびれを切らして連絡してきたのだと分かっていた。


『よいよい。

 では、湯に浸かりながらの反省会であるな』


と乙姫は満面の笑みで理解ある言葉をかけてくるが、

その裏には桃への襲撃が成功しているはずという確信があるのだろう。


襲撃失敗の報告をしなければならない斧熊は

目を閉じて小さくため息をついた。


『……うん?

 どうした、早く聞かせて』


と言って前のめりで首尾を聞いてくる乙姫に背を向け

斧熊も湯船に浸かると

近づいてきた美月の肩に手を回し

その首筋に軽く口づけをした。


美月は嫌がる素振りも見せず

頤をのけ反らしてセクシーに受け入れ

「うふん」

と鼻を鳴らした。


『え?

 エッチ始めちゃうの?

 いいんだけと、

 その前にちょっとだけお話しない?』


興奮しつつも慌てた様子で乙姫が食い下がる。

童子のような見た目でありながら

性的なことへの関心がとても強いのは

何度か通信している斧熊は知っているので動じなかった。


むしろ美月との色事を見せつけてからかい、

主導権を握ろうとさえ考えていた。


「結論から言うと失敗ね。

 ナマハゲが崩れちゃって。

 誰かさんのせいで」


後ろから抱きすくめられながら美月がツンとした声で言うと

斧熊は「おいおい」とすぐに否定しようとし、

聞いた乙姫は


『はあ?』


と一転して不快そうな声を出し


『失敗って、どういうこと?

 もうすぐ大オニの封印が解けるんですけど、

 分かってます?』


と詰問する。


竜宮城に封印され乙姫に見守られている「大オニ」について

美月は乙姫よりテレパシーにて触りだけ説明を受けている。


その存在が解放されれば

地上のありとあらゆる穢れも汚れも取り除かれ

人類は救済され

真の楽園が訪れるという。


なぜ美月と乙姫とでテレパシーを開通できたのかについては

美月はかぐや姫の末裔であり

地上が救済された暁には

月へ連れ戻される約束であるということであった。


「ナマハゲの中で二人で組体操してたんですけど

 崩されちゃったんですよね。

 サボテンを止めるとバラけちゃって。

 たぶん一寸法師のせいじゃないかって話してたんですが」


美月の後ろに回って両乳を掬い上げる様に揉みながら

斧熊が自分の責任ではないと主張し、

両乳を揉まれて

美月は目を閉じ甘い声を上げ始める。


『いま、一寸法師って言った? ナマハゲの中に入ってきたの?』


二人が組体操をしていた空間は「インナースペース」と呼ばれ

関係者以外は物理的に入っていけないはずであるのは

乙姫も同じ認識のようで酷く驚いている。


「ええ、ええ。

 封印が解けるまでに桃太郎の復活?

 覚醒?

 を妨害すべし、ってミッションは分かっていたんですけど、

 先に一寸法師が出て来るなんて、

 こっちは聞いてませんね」


何となれば

自分らがオニ側だと知ったのもつい先ほどだったので

斧熊は自然と不機嫌な声になってしまう。


『……オニの体内に外部から干渉できる奴なんていない。

 いるとしたら……』


と言いかけ、

そこで乙姫は一瞬言葉を止め


『確かに、一寸法師くらいだが』


と続けた。


驚きつつも

乙姫のまん丸の目玉は

嬌声を押し殺して身を震わせる美月のエロスに吸い寄せられている。


「桃太郎のボディーガード的なことを

 一寸法師がやっているとしたら、

 あふん、

 こちらも何か対策を考えないと

 同じ結果の繰り返しになりますぅ。

 うふん」


首筋やうなじを斧熊に舐められ

悶えながらも

美月が議論を進めようとしている。


『……いや、

 今の一寸法師にそんな能力はないはず。

 目覚めたばかりのはずだから、

 ただひたすら小さくて素早いだけのザコだ。

 だが、桃太郎との合体技なら、あるいは……』


ホログラムの中でしかめ面の乙姫の言葉に、

斧熊はハッと顔を上げ


「そういえば、あの時の桃ちゃん、

 何か投げつけるというか、

 バレーボールのサーブみたいなことしてなかった?」


と美月に問えば


「誰よ、桃ちゃんって」


と、あからさまに不機嫌な声の回答が返ってきた。


『そうそう、

 桃太郎の末裔には会えたのだな?

 どんな感じだった?』


乙姫からはテレパシーの波長が合う人間としか交信できず、

竜の首の玉の近くでないと遠隔で見ることもできないので、

桃太郎や一寸法師については未だ認識できていないのである。


「高校の卒アルからはだいぶ垢ぬけていた感じだったけど、

 まあ見た目は普通のJDだったよな。

 女子って髪型と眉毛とメイクで

 ぜんぜん印象が違っちゃうのな」


事前にある程度の情報は

乙姫が官公庁からのデータとして美月らに提供されていた。

出所は定かではないが

オーバーテクノロジーでハッキングでもしているのかもしれない。


「おふう。

 ああいう見た目のやつに限って、

 偏差値ばか高いんだよね……、

 あふん」


桃が通っている大学は

美月の卒業したそれとは比べ物にならないくらいの高偏差値であり

若さや容姿やスタイルに続いて

学力まで劣っていると、

美月は乳房を後ろから揉みしだかれながらも

心は打ちのめされていた。


『桃太郎の末裔、やはり強者の遺伝子か』

と揉まれる美月の両乳房を凝視しながらも

乙姫はカッコつけて言った。


「確かに、あれは良いオッパイだった。

 マジでプルンプルンだったな」


思い出しながら

斧熊は物足りなさげに美月の乳を揉み続ける。

美月の乳肉は柔らかく

しっとり手のひらに吸いつき

揉み心地は抜群であるものの

桃の乳肉のように

上下方向にプリプリ揺れる程の質量や重量はなかった。


「はあ? ケンカ売ってるの?」


美月が気色ばむとと見るや、

斧熊は最後の手段とばかりに自分の唇で女の唇を塞ぐ。


『来たー!

 べろちゅーだー!

 いよいよ始まるぅー?』


ホログラムの乙姫から興奮した声が聞こえる。

その指摘の通り

キスした斧熊の舌を

美月は拒むことなくすんなりと受け入れ

さらには自分の舌で絡めとり

男の舌の表面をヌルヌルと味わうように

「うふん」

と鼻にかかった甘い声を上げながら

しゃぶりつく程である。


先ほどの怖い顔も

とっくに火のついた体の発情を隠し

さらに燃え上がらせるスパイスであり準備であった。


しばし無言となり

豪華ラブホテルのバスルームには


「ちゅぱっ……、うん……、れろぉ……、あああん……」


という嫌らしく粘ついた水音と

発情女子の甘ったるく洩れる吐息のみで満たされる。


『さて、ディープキスしながらでいいから聞いてください』


と顔を赤くした乙姫が咳払いをして問いかけると

不倫カップルはカラダ同士を正対させ

それぞれの肩に腕を回し

湯船の中でしっかりとしたディープキスの構えのまま

目線だけを向けて応えた。


『ええと、まずは、

 今回の失敗の反省ね。

 一寸法師?

 奴の介入は予想していなかった。

 事前に準備できなかったのはこちらにも責任はある』


と乙姫は腕を組んでまん丸の童子顔を苦々しく曇らせ、

不倫カップルはディープキスをしたまま顔だけで頷いた。


『次の作戦までには対処法を考えとくから。

 あんたらも気をつけておいて。

 一寸法師ってのはオニ退治に特化した生物兵器みたいなもんで、

 オニの体内に潜り込んで内側から壊滅させる

 非人道的な細菌兵器とも言える』


斧熊は目だけで


「どうやって対抗するんですか?」


というような反応を見せると

乙姫は


『何代か前の一寸法師はオニに撃退されているはず、

 その時の文献をあたろう』


と言い顎を撫でた。


『反省が終わった後は、次の作戦についてだ。攻撃目標を変更する』



唐突にそんなことを言い出した乙姫に対し

斧熊らはディープキスを一時中断し

怪訝な顔で振り向いた。


『浦島太郎の覚醒も近いことが分かった』


乙姫は彼らの冷ややかな視線には動じずに

かぶりを振ってため息交じりに言うと


「はあ? 今さら変更?」


と斧熊が顔をしかめ


「浦島太郎の話にオニは出て来なくない?」


と美月も文句を垂れる。


そして二人同時にあることに気づき

顔を見合わせ


「って言うか、

 乙姫って、

 浦島太郎チームじゃないの?」


というような意味のことをそれぞれの言葉で発した。


『チームなわけあるかい!

 奴は!

 初代の浦島は!

 あたしを裏切って

 玉手箱を奪って逃げた

 大悪党なんだ!』


ホログラム越しでも物凄い剣幕の乙姫に

斧熊らはたじろいだ。


『それ以来、

 転生する度にあたしの邪魔をしてくる。

 本来なら桃太郎よりも

 優先して浦島の方をぶちのめしたいのを

 グッと堪えていたんだ』


乙姫の個人的な恨みは

桃太郎よりも浦島太郎の方が激しいのは

恋愛が絡んでいるからであろう。

その末裔にも同様の憎しみを抱き続けているらしい。


『桃太郎と一寸法師が揃っていて

 更に浦島太郎も加わると

 非常に厄介だ。

 それだけは絶対に避けなければならない。

 だから、先回りして叩く』


キメ顔で語っている乙姫を横目に斧熊は

「こういうのって言葉にしちゃった懸念が後々現実化しがちだよなあ」

などと呟き

美月も頷いた。


『桃の時と同様に、

 浦島の末裔は住所も氏名も証明写真もゲットしている。

 ……見える?』


とホログラムをフルスクリーンにして

データ照会画面のようなものを乙姫が写すが

斧熊らは湯船の中にいるのでよく見えなかった。


湯船の縁まで二人は移動し

乙姫はホログラムの一括表示を諦め

部分部分を個別にズームして見せようとする。


「何て読むんだろ?」


と氏名の読み方でまず斧熊が躓く。

履歴書のふりがな周辺をズームしてようやく読めた。


「亀割竜眼(かめわりりゅうがん)、

 そのままの読み方なんだ」


なるほど浦島太郎っぽさも伝わるな、と斧熊は苦笑し


「また女子かい」


と名前からは分からなかったが性別の欄を見た美月は顔をしかめる。

斧熊は内心喜んだ。


「超名門大学じゃないですか。それも大学院生?」


桃も高偏差値な一流大学の女子大生十八歳であったが、

それより年上で二十五歳と記載されている。


証明写真によれば

ショートカットで

きりっとした美人顔のようである。

ふわふわでポニョポニョしている桃とは対照的だと

斧熊は感じた。


美月が


「世界的な大学だし、行ってみたい」


とテンションを上げながら言うので

斧熊も


「部外者が入れるところまでなら……」


と自信なさげに応えれば


「図書館とかは学生以外にも公開してそうだし、

 ランチも学食で食べましょうよ」


とノリノリである。


ちなみに斧熊は私立文系の中堅大学卒であり

美月は秘書事務の専門学校卒であった。


『オニで軽く脅かせば簡単に骨抜きにできるだろう。

 デートがてら、明日にでも行ってくれ。

 平日の午後はゼミ室にいるはず』


データは二人の携帯端末に転送されたらしい。

海底にあるであろう竜宮城からどうやってネットに繋がっているのかは

斧熊らに説明はなかった。


『そっちが浦島にアタックしている間、一寸法師の対策はこっちで検討しておくから』


乙姫は面倒くさそうに言う。

美月の


「その対抗策ができるまで、あたしらは待機していればいいと思ってたのに」


との言には


『時間の有効活用』


と短く言い切った。


『そんなことより、お仕置き』


一瞬の沈黙を破り

乙姫の冷徹な声が浴室に響いた。

斧熊らは「へ?」という顔で聞き違いであることを祈った。


『ナマハゲ内部で組体操が崩れるのは土台の足腰が弱いからです』


乙姫にキッパリと言い切られ

土台たる斧熊は鼻白んだ。


確かに普段から運動も筋トレもしておらず

四十代半ばのだらしない体型であることの自覚はあったのだが。


「いや、さっき一寸法師のせいだって……」


不平を口にしようとした斧熊を遮って

美月も

「下半身を鍛え直して、ここらでもう一花咲かせなさいよ」

と見下すような目で同調した。


「そりゃあ、筋トレならそのうちジムにでも通おうかと思っていたけど……」


と斧熊のモゴモゴとした弁明に

美月は


「前もそんなこと言ってたけど一向に始まらないじゃない」


とせせら笑い

斧熊はタハハと笑い返しつつも内心はムッとして

これから食らうらしいお仕置きとやらを

それならば甘んじて迎え撃とうと覚悟を決めた。


どうせ筋トレしようと思っていたのだから渡りに船とも言えよう。


『じゃ、一回、お風呂から出てもらえる?』


との乙姫のさも当然とばかりの口調に

斧熊はノロノロとその身体を湯船の縁に引き上げ、

続いて美月に手を貸して引っ張り上げた。


『水着はぜんぶ脱いでもらえる?

 それからディープキスしながら

 互いの体をバスタオルで拭いてもらえる?』


斧熊も美月も

催眠術にかけられたかのように

なぜか乙姫の言葉に従ってしまう。

言われるがままにディープキスを開始するも

慣れているので二人とも抵抗はそれほど無かった。


ホログラムの向こうでは

乙姫が食い入るように覗き込みながら

興奮している様子である。


自分らの行為を鑑賞され

高揚されるのは初めてであったが

斧熊は不思議と悪い気はせず

むしろ胸の奥に昂るものを感じた。


乙姫にしても竜宮城に長いこと孤独に幽閉され

娯楽がほとんど無かったのだろうと

同情もした。


実際には深海からネットに繋がって

行政機関をハッキングするところまでできているのも知っているのだが。


肌から滴る風呂の湯を払った二人は

倒れても怪我しないように

キングサイズベッドの上へ

ディープキスをしながら乗り上げた。


乙姫から指示されたのは、

サボテンの上級バージョンであり

プロレスで例えるならパイルドライバ―の体勢である。


乙姫は『「リバースサボテン地獄の刑」です』と言った。


ベッドの上で中腰となり

いわゆる空気イス状態の斧熊の両腿の間に

美月は頭を突っ込み

両肩に腿を当て両手でホールドしたまま

倒立する。


美月の尻が斧熊の眼前に来る体位である。


ベッドのスプリングの上でしばしふらついていたが

美月の両足が斧熊の首に巻きつく形で

徐々に安定していった。


ちなみに美月であるが高校まで体操部に所属しており

就職後に筋肉量は落ちたが

運動神経やバランス感覚は常人以上のレベルを保っている。


体操素人の斧熊から見ても

スラリとした良い倒立であった。


『よし。その体勢のままスクワット、五十回』


と乙姫に命じられ


「ワヒー!」


と斧熊は悲鳴を上げると


『大腿筋が千切れるまでやれ』


とさらにつき離す。


目の前に美月の白くて柔らかな尻肉があるのは嬉しいものの

斧熊の足腰は

今の体勢のままではスクワットなど一回もできそうにない。


「一気に限界を超えるくらいまで負荷をかけないと筋肉は付かないってよ」


尻肉の向こう側から

美月の声が聞こえてくる。


確かに今までも何度か筋トレを試みてきたものの

あまり効果が得られなかったのは

軽い負荷で

ダラダラと流していたからかもしれない。


「こうしていてもしょうがないから、やってみるよスクワット。五十回は絶対ムリだけど」


足をプルプルさせながら

斧熊が下半身を下降させてゆき、

限界まで下がったところで、

ここから足の筋肉だけで

美月の倒立ごと持ち上げられるわけがないと分かったときの絶望は、

以前に腹筋ローラー的な筋トレグッズで味わった悔しさと

同じ種類の感情であった。


「あ、無理」


もはやスクワットどころでは無くなり

斧熊は諦めと共に

そのまま美月ごと後ろにひっくり返った。


ベッドのスプリングが大きく軋み

「何やってんのよ!」

と怒鳴られながら

ベッドに仰向けになった斧熊の顔面に

美月の尻が乗っている。


いわゆる顔面騎乗である。

こんな罰ゲームなら大歓迎な斧熊であった。


『一回もできないんかい』

との乙姫の檄が飛ぶが

それが厳然とした現実の指摘でもあり


「いきなり負荷が強すぎだって。

 もう少し鍛えてから挑戦するようなメニューだって」


と美月の尻に顔を敷かれながら

くぐもった声で斧熊は訴えた。


じゃあ仕方ないから負荷なしでいいからスクワットを五十回やれ、

やらないとお仕置きが終わらない、

という乙姫の妥協案を受け、

斧熊はノロノロとベッドを降り

腰に手を当てて立ったまま項垂れ、

美月はベッドサイドに腰掛け

足を組んで

斧熊に馬鹿にするような視線を投げた。


普通のスクワットを五十回ということだが、

すでに斧熊の足はガクガクで


「明日、浦島太郎をアタックするのに

 筋肉痛で歩けないと、

 アタックできないんじゃないですか」


などとネガティブな意見を言ってみるものの

効果は無い。


『美月も見てないで、

 お前は女らしく

 色気とエロスで男を奮い立たせろ』


と乙姫にジェンダー意識の古いことを言われ

ムッとした美月であるが

少し考えを巡らせた後に


「じゃあ、スクワット一回ごとにキスしてあげる」


と提案してきた。


斧熊がスクワットで立ち上がったら

美月が少し屈んで軽いキスを唇にくれるという。


「これなら頑張れる。よし、やるか」


と諦めたように斧熊が気合を入れると、乙姫は


『何なのそれ』


と呆れつつも興奮しているようであった。


美月は体操部での筋トレの知識を活かし

「もっと深く腰を下ろさないと効果がない」とか

「もっとゆっくり」とか

「それだと膝を痛める、もっと腰を引いて」などと

的確な指示と助言を斧熊に与えながら

スクワット一回ごとにチュッとキスをくれた。


何回かやり直しをさせられたが

ようやく五十回のスクワットが終わり、

足をガクガクさせた斧熊は

床の上にへたり込んだ。


適当に流してやればスクワットの五十回くらいは何ともないのだろうが

美月のスパルタなパーソナルコーチが付きっ切りだとそうは行かず

一回ごとのしんどさは段違いであった。


「はい、ご褒美」

と声がして

床でひっくり返っている斧熊へ

美月が全裸のまま

ロゼワインが注がれたグラスを左右の手にそれぞれ持ってきてくれた。


スクワットで汗をかいたのと

今日一日の疲れとで

冷えたワインと細いグラスを滴り落ちる結露の水滴に

思わず喉が鳴る。


それに美月が自分の筋トレの頑張りを認めてくれて

ご褒美をくれようとしていることにも言いようのない喜びを覚えた。


だが斧熊は上体を起こし

ワイングラスを受け取ろうとして、

ふと考える。


少し前に美月に言われた

「ブクブクに太りやがって。お酒飲み過ぎじゃないの?」

というセリフが脳裏に蘇っていた。


長年に渡って蓄積された腹回りのぜい肉は

スクワット五十回程度ではビクともしないだろう。


(……断酒……)


アルコールが人体に及ぼす悪影響については

ここに改まって挙げるまでもない。

四十歳を過ぎ最近ではその悪影響の表出の仕方が顕著であった。


(キッカケはなんでもいい。

 タイミングもいつでもいい。

 恥ずかしがる必要もないはずだ)


斧熊はグッと奥歯を噛み締めると

意を決して

美月の差し出したワイングラスを

手の平を向け押しとどめ


「今日は、やめておこうかな。明日もあるし」


と力のない笑顔で言った。


「ほう?」

というような何やら妙な笑みを

美月が見せたので

やはり急に恥ずかしくなり

紛らわせるように


「ご褒美なら他のがいいな」


と自分の股間を指さしておどけて見せた。


美月の方でも心得たもので

ピンと来たらしく

ワインは彼女の分も飲まずに

ローテーブルに二つとも置きやってしまうと

いそいそと

大の字に寝ている斧熊の

股の間にしゃがみ込んだ。


「ほんとだらしない体。あたしが上になってあげるしかないわね」


斧熊の突き出た腹の山を越えて美月の声が届く。


頭の後ろで手を組んで

美月の裸体を見上げれば

「いいご身分ねー」

と淫靡に笑われた。


さあこれから騎乗位で楽しみだすぞ

という意欲に満ちた二人は

結局、根っこの部分では

好きもの同志なのである。


『本番が始まりますー! いよいよでーす!』


食い入るように見ていた乙姫が叫んだ。

謎アイテムの玉は

美月によって見やすい位置へと

さりげなく調節してあった。


『もうすぐ浦島太郎が覚醒しちゃうから、こんなことしてる場合じゃないんだけどね』


などと言いつつも

乙姫はしっかり、じっと見ている。

乙姫にとっての優先順位が垣間見えた

と言っていいだろう。


騎乗位であるから

仰向けの斧熊に

美月が跨って見下ろし

一心不乱に腰を振りたてることになる。


見上げる斧熊からすれば

淫猥な笑みを浮かべ

恍惚の嬌声を上げる美月、

その背後から天井の照明が後光のように、

それこそかぐや姫の輝く竹のように眩しかった。


斧熊にとって、

これほど面白く人生を彩って昂らせてくれる存在はない。

対照的に

現在の妻のなんとつまらないことか。


斧熊にとって

美月は

人生をかけて手に入れたい宝、

オニになって

桃太郎だの一寸法師だのに

退治されたとしても後悔はない、

そう思わせるほどの大きな存在であった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。