【キジも鳴かずば撃たれまい ~季節の温野菜とグレービーソースを添えて~】
【キジも鳴かずば撃たれまい ~季節の温野菜とグレービーソースを添えて~】
猟師は、鉄砲をかまえると、ズッドーンとうった。
するとな、キジが、はねをバタバタさせながら、林のなかにおちていったそうな。
ところが、キジをとりに、猟師が林のなかにはいってみると、
そこには、お千代がキジをだいて、たっていたんじゃと。
びっくりした猟師が
「お、お千代! こんなところで、おまえ、いったい、なにをしとるんじゃ?」
と、はなしかけたが、
お千代は、キジをだいたまま、ただ、だまっているだけじゃった。
お千代は、ようやく、おもい口をひらくと、キジにはなしかけるように、こういったそうな。
「キジよ……、おまえも鳴かなければ、うたれずにすんだものを……」
(川内彩友美:編「まんが日本昔ばなし第二巻 第八話「キジも鳴かずば」二見書房 2005年」
ハチ高原と言えば
兵庫県と鳥取県の県境近くにそびえる
鉢伏山の南側に位置し
日本有数の規模を誇る広大なゲレンデであり
近畿在住のスキー・スノーボード愛好家にとっては
聖地と言ってよいだろう。
親しみを込めて「ハチ」や「ハチ高原」などと呼ばれている。
夏場の林間学校や部活動の
合宿の聖地としても有名であり
付近には民宿や旅館が多数営業している。
パラグライダー、ハイキング、トレッキング、魚つかみ、など
枚挙に暇がないほど夏のレジャーも充実しているし、
鴨とキジの肉を用いる鉢伏鍋や、
たじま牛といったグルメまで楽しめる、
まさに一大レジャー地帯である。
京都・大阪方面からは
車で行く場合は中国自動車道を通って
兵庫県内を進み
八鹿氷ノ山インターチェンジから
国道九号に乗り換えるのが一般的であろう。
山陽本線の八鹿駅から
バスで向かうことも可能である。
ハリアーでの移動も慣れたもので、
しかも竜眼は
先般の告白成功により
その後も何度か
桃の
「きびだんごキッス」を享受している。
かつての秀才エリートのキリッと引き締まった顔
を取り戻しており
頭はシャキッと冴えて
自慢の安全運転にも磨きがかかっていた。
事前に旅程は綿密に練り込まれ
走行経路もバッチリ予習して臨んでいる。
ココとサリューはペット形態に変化し、
それぞれ
マルチーズと
キツネザルを模したマスコットのようにして
後部座席でちょこんと大人しくしている。
ちょっとでも目を離すとケンカを始めるのは
犬猿の仲であるから仕方なかろう。
ココは隙あらば居眠りし
サリューは好奇心いっぱいの眼差しで
窓から外界を眺めている。
我らが一寸法師こと小次郎は
ダッシュボートに敷かれたハンドタオルの上で
爆睡中である。
「息してる?」
と桃が不安になるくらい、
ずっと寝ている。
予言書には
住所から番地まで記載があり
竜眼が検索すると
フランス料理もやっているオシャレな民宿がヒットした。
グルメ情報サイトによれば
開店して間もないものの
キジ料理やグレービーソースが絶品であると評判で、
本格志向な新進気鋭のシェフが在籍しているらしい。
当然、桃は
「キジ食べたい」
と言い出す。
「キジがお供になった後では
食べにくいだろうから」
とサルかに合戦の直後にカニを食べて
サリューに
ドン引かれた反省から出た案ではあるようだ。
予言書に記されたキジ復活予定日の前日に
宿泊しつつ
キジ料理を予約できるか
電話してみたところ
録に話も聞かず
「キジ肉の提供はお断りしているんです」
と言われ
予想外の展開に泡を食った竜眼は
桃の手前もあり
簡単には引き下がれず
粘って訳を聞き出そうとすると
応答してくれた若女将によれば
やはり訳ありな感じで
シェフがどうにも気力が湧かず
料理できる状態ではないと言う。
「最近、民宿の回りに、
オニが出るんです」
信じていただけないでしょうけど、
という語りぶりの若女将は
竜眼が笑わずむしろ真剣に聞いてくれるのに乗じ
宿泊客が怖がって帰ってしまい
次の予約もキャンセルとなった被害について
切々と訴えた。
竜眼は途中からスマホをスピーカー方式にして
桃にも聞かせていたが
「オニ退治なら、お任せください!」
と力強く桃が割って入ると
キジ料理は確約できないものの
オニ退治と引き換えに
合宿所のキャンセルで空いた部屋に
無料で泊まらせてもらえるということで
交渉成立となった。
詳しい話は当日に会ってから現地でということになり
桃は
「懸賞金とか出るといいのにね」
と余裕の表情で言った。
自然味あふれる林道を抜け
特にトラブルもなく
ハチ高原の小綺麗な民宿「千代の夢」に
夕方に到着した桃らは
出迎えた若夫婦の挨拶を受けた。
電話にでた若女将とシェフとは夫婦であって
少し神経質そうな夫と
しっかりものの妻といった雰囲気だが
なるほど二人とも見るからに元気がない。
早速ラウンジでコーヒーをいただきながら
オニ情報を共有することとなった。
ココとサリューはペット形態のまま
桃が抱っこしている。
部屋に入れて目を離すと
すぐケンカを始めるから仕方ない。
一寸法師の方はまだ寝ているので
部屋に放置している。
おとといから今日まで
三日連続で
深夜二時ごろ
オニが出て
店の外で音を立てるので
怖いという。
物を壊されるなどの被害はないものの
当然のごとく寝不足となり
若夫婦どちらもノイローゼ気味である。
昨晩、
夫が意を決して
恐る恐る玄関から覗いたところ
三メートルくらいのオニっぽい感じの顔をした化け物が、
何かを打ち鳴らし、
ぼうぼうというような
動物の鳴き声のような音も発しながら
ウロウロし
恐ろしい声で吠えているのを見たという。
オニの口から
「キジも鳴かずば撃たれまい」との
謎のメッセージだけ聞き取れました、
と夫は手を震わせながら語った。
桃が
「キジも鳴かずば撃たれまい」とはどういう意味だろう、
と首を傾げてきたので
竜眼はあらすじの解説を試みる。
「確か……、
貧しい村に父親と娘が住んでいて、
娘が病気になったとかで、
あずきまんまを食べたいって臥せった娘が言うので、
父親が村の貴重な小豆を盗み出して、
あずきまんまを作って娘に食べさせて、
病気は治った、と」
「めでたし? キジは?」
「で、病気が治って、
元気になった娘が、
遊びながら「あずきまんま食べた〜」みたいに無邪気に歌ってしまって、
それを村の人に聞かれてしまうんだ。
同じ時期に川の氾濫かなにかが起きて、
だれかを人柱にしようと、イケニエだね、
だれにしようかと村で相談したときに、
あの娘があずきまんまを食べたと歌っていたということは
父親が村の小豆を盗んだに違いない、
ということになって、父親が人柱に選ばれてしまい、
連れていかれる父親を見て、
娘が精神的ショックで失踪してしまって」
「その人柱って風習をどうにかしないとね、
って、キジは?」
「それから月日は流れて、
村人がキジを撃っていたら、
その娘が急に現れて、
撃たれたキジを抱いて「キジも鳴かずば撃たれまい」と言って、
またどこかへ行ってしまうと」
「え、キジは死体の役?
それで?」
「終わりだよ」
「マジかー。
じゃあストーリーにキジは関係ないんだね」
若夫婦が同時に咳払いをして
二人は我に返る。
若女将にコーヒーのおかわりいかがですか、
一杯五百円ですけど、
と言われ
桃と竜眼は一瞬固まった。
桃は気を取り直して
「キジ猟をやめろ、
っていうオニ主張かな?」
と推理を開始し
「キジの恨みを買うようなことは?」
と若夫婦に聞き込みをすると
夫の方が
「我々もキジ猟をしますが
ルールを守っています。
撃つのはオスだけですし
一日二羽までです。
猟友会はいい人たちばかりで、
毎年、育てたキジの放鳥もしてくれています。
ちなみに今はシーズン外で
禁猟期です」
と早口に言う。
桃が小声で
「人間側のルールを守っているかどうかは
キジには関係ないんじゃない」
と呟いた。
その日の夕食には
民宿「千代の夢」名物の「あずきまんま」が出た。
竜眼がスマホで調べると
「キジも鳴かずば撃たれまい」の話に登場する娘の名が
千代であった。
竜眼は
「お赤飯やね。
普通の」
と努めて冷静にいただこうとするが
桃は
「さっきの話のやつ?
不吉じゃん」
と鼻白んだ。
もちろん
お赤飯だけで夕食が終わりなはずはなく
テーブルにはシェフ自慢の
ジビエ料理も並ぶ。
シカやカモなどである。
シェフも気力が無いなりに
気を遣ってくれたのか
客が若い女子だからか
フライパンで簡単に焼いただけの調理だったが
桃や竜眼にとっては
感動的な旨さであった。
特にココは気に入った様子で
「野生が戻ってくる感じです」
と言いながら
若夫婦に隠れて
がっついていた。
夕食後の
対策会議の席で
「あえてキジ料理をアピールしたら
早めにおびき寄せられるかも」
と桃が積極的に提案したのは
深夜二時までオニが出現するのを待っているのが
馬鹿らしく感じられたからであろう。
さっそく半紙に
「キジ肉のロースト ~季節の温野菜とグレービーソースを添えて~ 大人気販売中!」
と桃のセンスで適当に考案したメニューを
達筆でしたため
勝手に民宿の軒先へ張りだし
夜まで待機することとなった。
ココとサリューは見張りに立ち、
桃と竜眼はラウンジのソファーを借りて仮眠を取る。
一寸法師に起きる気配はない。
桃の読み通り
オニが予想を前倒しして
現れたのは二十二時ごろであった。
「キジも鳴かずば、撃たれまいー」と
低い唸り声のように響いてきたのを
聞き付けたココは
ソファーでモゾモゾしていた桃と竜眼を
けたたましく呼び立て
サリューは
部屋から寝ている一寸法師をひっ掴んできて
急いで玄関へ向かう。
闇の向こうから滲み出てきたのは、
赤い衣装を胴体に巻き
右手には斧のような棒を振り上げ
太鼓を打ち鳴らす
オニであった。
巨大な鬼面には
角も牙もあり
いかにも「鬼」という
迫力のビジュアルである。
「陀々堂の鬼はしり(だだどうのおにはしり)、なのか……!」
竜眼がスマホも見ずに言うのを
桃は
「何でも知ってるなあ」
と感心して眺めたので
「けっこう有名だよ」
と照れ隠しに応えた。
「毎年一月に、
奈良県の五條市にある
念仏寺っていうお寺で、
鬼が幸福をもたらすというお祭りなんだ。
父鬼、母鬼、子鬼の三柱が、
火がついたたいまつを持って
陀々堂っていうお堂を回って、
その火の粉を浴びると災厄が払われるというので
参拝者がたくさん集まる。
法螺貝や太鼓の音が強烈で、
それで悪霊を払うという意味もある。
松明は六十キロくらいあるって聞いたけど、
このオニは持ってないみたいだな。
あの大きなオニのお面は十五世紀に作られたもので
県の指定有形民俗文化財になっている。
お祭り自体は
九十五年に国の重要無形民俗文化財に指定されているよ」
という竜眼の解説にもあった通り
現れたオニは太鼓を打ち鳴らしながら
合間に器用に法螺貝を吹くので
若夫婦がノイローゼになるのも頷けるほどの大音量の騒音に
桃も耳を塞ぎ
「見た目からして
いつものオニさんチームだよね」
と分析した。
オニは店の前に立っているのが
桃や竜眼たちだと見るや
唸り声を倍以上に張り上げ
太鼓を打っていたトンカチで
桃を折檻しようと前進してくる。
「またサーブを打ち返されないように
今回は新しい技を考えてきたんだから」
桃は自信たっぷりにそう言うと
寝ぼけまなこで
「どうにでもしてください」
と達観したような表情の
一寸法師を
左の手の平に乗せて高く掲げ、
ももっこサーブの体勢で
新必殺技の名前を言おうとした瞬間に、
バサバサっとした羽音と共に
一羽の鳥が、
一寸法師をさらって飛んでいって
「あーれー」
と遠ざかっていく
小次郎の声だけが残った。
竜眼は
「今のはキジか?
初めて生で見た」
と驚いたのは
見たことがある大きめの鳥といえば
カラスかせいぜいトビくらいだからで
桃は
「あたしもキジ初めて。
っていうか、まだ新技を出してないのに
マナー違反じゃない?」
と不満を言えば
「根本的に「ももっこサーブ」が封じられてしまった。
これはまずいぞ」
と焦るのも当然で
三メートルくらいあるオニが
目の前でトンカチを振り上げ
桃にとどめを刺そうとしてくるのである。
竜はココとサリューが
素手で桃を守ろうとするのを
後ろから抱き抱えて制し
「やむを得ん。
カメ! カメさん!
玉手箱!
持ってきて!」
とその辺りにいると感じている方に怒鳴るも
誰も答えず、
恥ずかしい空気になり
誤魔化すように
桃と一緒にオニから距離を取った。
竜眼が感じたカメの気配は本物であり
実際にカメはそこに居たのであるが
乙姫にきつく言われ
玉手箱を
鎖でぐるぐる巻きにして封印した状態で
口に咥えている。
乙姫による
浦島太郎を無力化するための玉手箱対策であり
会議で乙姫が
『わらわに任せておけ』
と言っていたのは
これのことであった。
カメの悲しそうな声で
「すんまへん、浦島はん」
と後ろから急に言われたので
竜眼がビクッとして振り向くと
「わてら海の生き物は
乙姫さんには逆らえまへんのやさかいに、
後生でんがな」
と高めのトーンで詫びるので
竜眼は驚いたまま
「ご立派な大阪弁どすなあ、
河内やろか」
と京都風に言うと
桃も
「京丹後のウミガメじゃないんだ」
と続けざるを得ず
「えらいすんませんなあ、
堪忍やで」
とカメはしきりに謝罪し続け
竜眼は
「私と乙姫とで板挟みになってるから
悲しそうだったのか」
と妙に納得した。
少し離れた場所から
ホログラムで乙姫が
『初代浦島太郎の面影を残してやがって。
個人的にボッコしたいけど、
今は桃太郎の対処を優先しよう』
と一人呟いたのを
見たものはいない。
竜眼にとっては
いざというときの浦島太郎に変身できないとは
完全に想定外であり、
ココとサリューはオニトンカチにビビって近づけず、
一寸法師もキジに拐われてどこかへ行ってしまった。
桃は今、
絶体絶命のピンチなのである。
そのころ、
我らが一寸法師こと小次郎を拐ったキジは
羽ばたくのに疲れて着地していた。
ここでキジ豆知識をひとつ紹介すると
キジという鳥は
基本的に地上を歩いて生活しているため
飛ぶのは得意ではなく
キツネに教われるなどの緊急時か、
あるいはちょとした短距離を移動する際に
低い高度を翼をバタバタさせて飛ぶ程度である。
今も
足に一寸法師を掴んだままの姿勢で
羽を休め
休憩しようとしていた。
ようやく寝ぼけから復帰し
頭が回りだした小次郎は
過剰なおなきんデメリットにより
「正当な怒りはしっかり表明する」という
健全なテストステロンを遥かに越え
アンガーマネジメントなどはどこかへ置き去りに
「なめんなよ!
この畜生がー!」
と小さくて可愛らしい見た目には
全く似合わない罵声を上げると
「お箸ちゃんカモン」
と指を鳴らして
一そろいの箸を飛んで来させる。
「力点作用点力学倍増撃!」
怒りのこもった挙動で
箸の一本を地面の石で固定し
もう一本をクロスさせ
二本のお箸をテコの要領でねじ込んで
キジ爪を無理矢理にこじ開けた。
身体の自由を取り戻した小次郎が
「剥製にしてまうぞワレコラ!」
と一喝すると
キジはビビってスタコラと走って逃げていく。
「見たか、アホンダラが」
と毒づきながら息を整え、
小次郎は待機していたお椀ちゃんに
「こうしちゃおれへん」
と飛び乗り
「どこのどいつじゃボケー!」
と怒鳴りながら
桃の許へと急いだ。
「もう戻ってきた!
さすが格別な逸材なあたしの相棒!」
ピンチ中であった桃が宙を見上げると
何か汚い言葉を怒鳴りながら
猛スピードで向かってくる一寸法師こと小次郎を見て
桃は歓声を上げ
聞こえた小次郎は
「褒められてるのかな」
と微妙な感じを受けたが
嫌な気はしなかった。
陀々堂オニ内の斧熊も
一寸法師の気配を察知し
「もう来たのか」
と驚いたが
「いつものサーブはこのトンカチで打ち返してやる。
まだ動体視力は鍛えられているからな」
と野球のバッターのように身構えた。
今回は玉手箱を封じているから
浦島太郎によって妨害されることもない。
桃は構わず
「いよいよ新技だよ!」
とやる気みなぎる笑顔で宣言すると
「ももっこフローターサーブ!」
と技名を叫び
左手でトスアップした小次郎を
右手でひっぱたく。
小次郎は事前に打ち合わせた通りに
体を丸めたまま無回転で飛び
不規則に揺れ動く軌道で
オニヘと突進していった。
初めは警戒していた斧熊は少し安心し
「ブレ球くらいなら大したことはない。
ホームランできなくても
当てるだけなら容易いぞ」
とトンカチを短く持って
小次郎に当てて弾くことに専念しようとした。
だが小次郎はニヤリと笑い
トンカチに当たる直前に
体を大の字に開き
空気抵抗を受けて
軌道はストンと急激に落ちて
空振りさせることに成功する。
斧熊が
「無回転シュートと思わせて
フォークボールで空振りを取られてしまった」
と早口で解説すると
美月に
「中年男性はスポーツ観戦が好きだからって
嬉しそうにしないでよ」
と呆れられた。
結局、
陀々堂オニのインナースペースへ
一寸法師の侵入を許すこととなったのである。
小次郎がインナースペースで見たものは
お馴染みの組体操であるが
今度も三人技である。
いわゆる「三人サボテン」という技で
両サイドの
斧熊と美月は
片足を立ち膝にしてしゃがみ
二人の膝の上には
三人目の小柄な人影が
腰に手を当て立っていて
両サイドの人間は
真ん中に立つ人の足を抱えて支えている。
「キズィンちゃんの体重が軽いから、
とっても楽だわ」
と美月が気を使いながら
真ん中の少女に語りかけると
「足首を痛めていてもできる組体操でよかったよ」
と斧熊も話を会わせる。
キズィンと呼ばれた少女は
黒い動物の毛皮をマントのように羽織り、
仮面舞踏会で着けるような
または仮面の忍者のような
赤い仮面から目を覗かせ、
深緑色の前髪が収束していって先端が尖り、
鳥の鋭いくちばしを連想させる。
鼻も口も小ぶりな作りで
上品にツンとした感じだが、
幼さも漂わせ
可愛らしい雰囲気もあった。
対照的に斧熊と美月は
きわどい水着スタイルで
キズィンが身に付けているマントと同じ材質らしい
黒い毛皮のようなビキニを身に付けて
男女ともセパレートである。
斧熊も
ビキニのブラジャー部分を着ているのである。
名前にキジっぽさがあるのと
顔だちや髪型が鳥っぽいのとで
小次郎は
キズィンと呼ばれた少女が
桃太郎お供のキジ関係であると看破し
初対面ながら
「おんどれ
桃太郎のお供とちゃうんけ、
何しとんねんボケ、
いてこますぞワレ」
と恫喝のような挨拶をかますと
美月は
「そんな感じだったっけ?」
と嫌悪感を露にし
「そんなだから
大阪の人は怖いとか言われるんだぞ」
と南足柄市出身の斧熊は
関東人としての偏見を披露した。
キズィンは
「一寸法師の旦那?
こんなに感じ悪くなった?」
と目を丸くした。
美月は
「まあ、いいわ」
と気持ちを切り替え
「次の一寸法師対策いくわよ。
今度のは究極だよ」
と言ったかと思えば
インナースペースの外では陀々堂オニが
何本ものたいまつを束にして差し込んだ
大きな桶を左脇に抱えており、
たいまつは既に勢いよくメラメラと燃え上がっていた。
「水」の字を書くように松明を振るのを見て
「火伏の行、らしい」
と竜眼が桃に解説している。
火の粉が舞っていて
かぶると厄を祓えるとのことだが
あまりの熱さで火傷しそうなので断念した。
インナースペース内にも炎の熱が伝わってくると
室温が急上昇してくるが
三人は平気そうな顔で
「この熱の壁を越えられるかな?」
と斧熊に挑発されるも熱波を吹き付けられ
タンドリーチキンのように焼かれてしまいそうな一寸法師こと小次郎は、
「熱くて近づけない、
ダメだこりゃ」
と早々に音を上げ
退散することを選択した。
ほうほうのていで逃げ帰って来た小次郎を
つまみ上げた桃は
「何でオニの中の人たちは大丈夫なの?」
と疑問を口にすると
『火ネズミの皮衣を装備しとるのじゃろう。
炎属性を無効化するぞい』
と不意に現れた大黒天が口を挟んだ。
桃に
「我慢できないの?
一寸法師なのに」
となじるように言われても
全身ススまみれの小次郎は
「ムリムリ」
と手を振る。
『たいまつの方は、
なんと贅沢にも、
蓬莱の玉の枝じゃ。
並大抵の熱さではないぞ』
と大黒天が驚愕の顔をすれば
「竹取物語のアイテムを大放出か。
奴らも本気だ」
と竜眼も腕を組んで唸った。
竜眼は意を決して
「このままでは手も足も出せずに焼かれてしまう。
わたしが囮になるから、
皆バラバラに逃げるんだ」
と強ばった声を出すと
ココとサリューはあわあわと慌てだし、
桃は驚き
「そんな局面?」
と事態の深刻さに息を飲んだ。
などと会話している内に
たいまつからの炎がどんどん大きくなってきており、
陀々堂オニが炎を手で扇ぐ素振りをしているが
全く効果はなく
火勢が収まりそうにない。
桃が
「何か慌ててるね」
と感じたのを
大黒天は
『蓬莱の枝が怒っているようじゃ。
燃え盛って
言うことを聞かぬらしい』
と補足し
竜眼は
「内紛か?
助かるかも」
と生気を取り戻した顔で言った。
間をおかずに
オニの身体が仮面に収納されて始め、
桶に入ったたいまつも格納されるタイミングで
炎がふっと消される。
中にいた三人もボトボトと放り出され
桃たちの前に
ばつが悪そうにして並ぶと
ビキニ姿の美月が
「このまま続けたら山火事になっちゃうから
止めてあげるわ」
と虚勢を張ると
同じくビキニ姿の斧熊も
「今日のところは引き上げてやろう」
と腕を組んで頷いた。
「結局は炎を制御できなくて
オニも一時退却することにしたらしい」
と竜眼は汗を拭い桃は
「だっさー」
と笑うが
両人とも
自分達の力で攻略できなかったことについては
釈然としていなかった。
斧熊が松葉杖をついているのは
一本歯下駄のオーバートレーニングで足首を痛めたためであることは
言うまでもないだろう。
もう一人、
オニから投げ出されるも
華麗に着地した
キジの仮面の人物が
桃の方を黙って見ている。
目があった瞬間に
桃は少女がお供キジであることにピンときて
「体型からして、
またメスかい。
いや、メスも好きだけど」
と同性愛者である竜眼を意識したコメントをした。
キズィンも
目の前のナイスバディ女子大生が桃太郎の子孫だと気づき
ハッとしている。
「我が名はキズィン。
この地はあなた方を歓迎しない。
早々に立ち去られよ」
静かだがよく通る声で名乗られると
桃は
「全体的にフランス語っぽいのは、
あたしが仏文科だから合わせてくれてるのかな」
とココやサリューと並べて
的外れなことを言い
「出だしから裏切られる感じだけど、
きびだんごを食らわす距離まで近づければ」
と悔しがった。
キズィンは
「キジも鳴かずば撃たれまい……」
とかっこよく言い残し
忍者のようにハチ高原の林間を
枝から枝へ飛び移りながら去り行く。
サリューが
「待ちやがれ!
相変わらずスカしやがって」
と猿飛のごとく木に登って追いかけるが
キジィンにマントを広げて崖の向こうまで滑空していかれてしまい
それ以上は追いかけられず
悔しがって見送った。
竜眼は
「またスピードキャラか。
一寸法師は言うに及ばず、
浦島も時間操作で加速、
サルもそう、
イヌもパワーよりスピード重視だしな」
とパーティ編成の偏りを指摘した。
美月と斧熊は歩いて立ち去ることになるが
桃の
「さりげなく帰ろうとしないでよ」
という嫌味も届かないようなので
「ココちゃん、
こっそり後をつけてアジトを突き止めてきて。
無理しちゃダメよ」
との桃の指令に
ココは喜び勇んでマルチーズ形態に姿を変え
深夜のハチ高原を
足音を殺しながら
匂いで追っていった。
桃は
「次にオニが現れるときは炎を制御できるようになってそう。
どうやってあの炎を克服するか。
明日は特訓だね」
と眠そうな顔で述べると
竜眼も
「玉手箱も封印されてしまった。
次の手も考えないと」
と同意しているが
一寸法師こと小次郎が
(負けたのもムカつくし、
俺ばっかり戦わされるのも納得いかんし)
と憤るものの
ギリギリで口にしなかったのは、
まだ「嫌われたくない」という
生来の器の小ささが勝っているためであろう。
玄関の隙間から様子を伺っていた若夫婦に
オニを取り逃がしたことを桃は報告し
「知り合いのオニでしたわ」
と笑って言うと夫婦は
「はあ」
と声を揃え
「旅館が燃やされるかと心配したけど」
と妻が言うと
「いつもより早く退散してくれたので
今夜は久しぶりによく眠れそうです」
と夫が疲れた顔で言った。
桃は
「明日またオニが来たら
ばっちり撃退しますんで、
任せてもろて」
と胸を張った。
しばらくすると
迎えに行ったサリューと合流したココが
無事に戻ってきて
「キャンプ場でテント生活してます」
と知らせると
桃は
「二人とも偉いぞ。
ご褒美のきびだんご風呂ね」
として
貸しきりの大浴場で濃密なマッサージを施すと
程なくしてあられもない声が響き、
ご褒美に預かれなかった竜眼は
活躍できなかった悔しさを噛み締め、
若夫婦もまた
なかなか寝付けなかったかもしれない。
翌朝、
遅く目覚め
朝食をたっぷり食べたあとで
「修行しよう」
と特に当てもなく桃が言い出すと
「何で俺だけやねん」
と小次郎は初め抵抗する。
竜眼が
「戻れなくてもいいのかい?
桃太郎がお供を揃えて
復活させないといけないんだろう?」
と諭すように言い聞かせるも
「別にいいかも、このままで」
と浪人生のような人生が
今後も続くと想像して辟易とした。
しかし
「このままだとずっとオナニーできないよ?」
と桃に直球で言われ
「うぐぅ」
と唸り
「一回負けた主人公が
修行して逆転する流れ、
燃えない?」
と畳み掛けられると
「まあ、確かに」
と渋々と頷き
竜眼は
「人を操るのがうまいなあ
桃は。
かわいいし」
とうっとりとした。
小次郎が
「で、俺が修行している間、
桃さんらは何をするの?」
と嫌な感じで逆襲しようとすると
「パラグライダー。うそうそ」
と桃はおどけて
「君はお餅が好きだったよね、
調達してこよう」
と竜眼が軟化姿勢を見せると
「やったぜ餅」
と小次郎は単純に喜んだ。
こうして大黒天とサシで修行させられることとなった
一寸法師こと小次郎であるが
大黒天は
初代一寸法師の残した書物を
やおら取り出してきて
『腰ふりオナニーならぬ、
ちょんまげ振りディフェンスじゃ』
とか唐突に言い出すので
顔がひきつる。
『床オナの危険性は知っておるか。
手で強く握るタイプのオナニーも同様なり。
強すぎる刺激を陰茎に与えて
無理矢理に射精することに慣れてしまうと
いざ本物の女性を相手にしたとき
刺激が弱いと感じて
射精まで至れず
中折れしてしまうのじゃ。
膣の圧力は男の握力よりも
ずっと弱いもの』
それから
大黒天に「腰ふりオナニー」の素晴らしさを滔々と語られたが
一寸法師の身体のままではオナニーできないし
本物の女性を相手にするイメージもないので
小次郎は黙って聞き流していた。
『では参ろう。
目を閉じて、ちょんまげが回転するイメージじゃ。
首を回すのではなく
ちょんまげだけを動かす必要がある』
と大黒天に言われるがまま
ちょんまげを動かそうとしても
いきなりフラフープを回せないように
なかなか上手く振れない。
すぐに首を動かしてしまう。
『丹田に気を集中させよ。
ゆっくり、一定のペースで、
相手の反応を見ながら』
などと謎のアドバイスが大黒天から飛ぶも
「相手って?」
と小次郎は戸惑うばかりである。
『身体ごと打ち付けるように
激しく抜き差しする行為は
フィクションであり見せ物、
あんなことをされても少しも気持ちよくない。
痛かったり苦しかったりして喘いでいるのを
感じていると視聴者は誤解して興奮しておる。
本当に気持ちいいのは
挿入したままで優しくゆっくり腰だけを降る動きじゃ。
その練習として「腰ふりオナニー」に慣らしていかんと
本物の女性と初めてする際に「あれ? おっかしいなあ」と
恥ずかしいことになるぞい』
と大黒天から教えられ
「へー、そうなんだ」
と小次郎はちょんまげ回し
練習を続けていると
ハリアーで最寄りのスーパーから
切り餅とあんこや納豆を仕入れて
帰ってきた桃に
「何してんの?」
と次いで竜眼に
「それが火炎対策になるのか?」
と冷やかされ
「こっちが聞きたいわい」
と小次郎は憤慨した。
その日の二十時ごろ、
八月日暮れのキャンプ場にて、
片隅にぽつんと張られたテントで
斧熊と美月は
男女の営みの真っ最中であった。
テント内に灯した電子ランタンにより
二人の絡み合う肉体が影絵となって写し出され
乙姫もリモートで食い入るように見ている。
キズィンが焚火の前で体育座りをして
ラブテントから目を背け
虚ろな目で考えに沈んでいたところ
キツネザルを乗せた
白いマルチーズが
音もなく焚き火の光の中に現れたので
キズィンは驚いて
動物とテントとを交互に見る。
キツネザルことサリューは
唇に可愛らしい人差し指を当て
「しぃー、静かに」
とジェスチャーで伝え、
桃の指示により
寝返った理由を聞きに来たと簡潔に告げた。
テントの中では激しい運動が続いており
動物たちに気づく様子はない。
マルチーズことココは
嗅覚と獲物を追い詰める本能を駆使して
この場を突き止めたと自慢し
「ガンドッグって呼んで」
と偉そうに言うと
「そんな見た目の猟犬はいねえよ」
とサリューが突っ込んだ。
「腹、減ってないか?」
とサリューが言いながら
ココに着けていたワンちゃんリュックを
がさごそし出すと
キズィンは体育座りで
俯いたまま首を横に振り
「さっきウナギ弁当を食べたから」
と答えサリューは
「いいもん食ってんじゃねえか」
と舌打ちまじりに言い
「ほら、
桃太郎さんからのお土産」
としてかぼちゃの煮物や
カットした梨などを取りだした。
「それから、桃太郎さんからの伝言。
きびだんごじゃなくてスマヌ、
だって」
そうマルチーズ顔でココから告げられたキズィンは
堪えきれずにしくしくと泣き出した。
テントからの喘ぎ声は大きくなる一方なので
しばらく気づかれる心配がないと判断したココとサリューも
人間態になり、
車座で焚き火を囲んで
話を聞くことにした。
キズィンが
「キジの親子を
人質に取られているんだ」
とぽつり言うと
サリューは
「やっぱりか」
と顔をしかめ
「人質っていうか
キジ質っていうのかな」
とココが茶化すのを無視して
「子キジを守ろうとした母キジごと、
女の人が持ってる「燕の子安貝」の中に
吸い込まれてしまった」
と悔しそうにキズィンが言うと
ココは
「そういう使い方なんだ」
と驚き
「キジも鳴かずば撃たれまい、か。
銃じゃなくてよかったけど」
とサリューも憤る。
キズィンは
「何とか取り返したいが
燕の子安貝は
女の人が肌身離さず身に着けている」
と言ってテントの方に目をやり
サリューは思案して
「浦島の姉さんに時間を止めてもらえば
簡単にゲットできるけど
玉手箱も対策されてしまったし、
どうするか」
と頭を書いた。
だがココは急に
「じゃあ、帰ろう」
と平然と言ってのけ
呆れ顔でサリューが
「お前なあ」
と反論しようとするのを遮って
「命令されたのは
「キズィンがオニ側に味方している理由を聞いてこい」でしょ。
下手にキジ親子を取り返そうとして
バレたらどうするのよ」
とココが意図を話すと
「やけに冷静じゃねえか、一理ある」
とサリューも納得して
「一番いいタイミングを狙って
キジ親子を取り返して
キズィンと一緒に一気に逆転、だな」
とサル知恵を披露し
「具体的にどうするかは
頭のいい人たちに考えてもらおう」
とココが続け
「それまではわたしも知らんぷりをしておくよ」
とキズィンは
希望を見い出した瞳で頷いた。
前向きな空気になって
「なんだかんだ言って、
この三人が揃うとしっくりくるよな」
とサリューが鼻をこすると
ココも
「エテ公と二人きりだと
すぐに喧嘩になるから
早くキジに戻ってきてほしい」
と言えば
「なんだと?」
とサリューは肩をいからせ、
すぐに顔を見合わせて笑う。
つられて吹き出したキズィンを見て
「やっと笑ったよ」とココが言った。
「キジの親子はオイラたちが必ず助けるから、
キズィンはここぞという時に備えて
力を蓄えておけ」
とサリューが改めて言うと
キズィンも素直に
「ありがとう」
と答え
「あたいら、というより
一寸法師の旦那ね。
当代の旦那はマジでヤバい」
とココが付け加えるので
「どうヤバい?」
とキズィンが聞き返すと
「潜在能力がずば抜けてる、
今まで全部のオニを
一人で退治してるらしいぜ」
とサリューが身震いし
「そうは見えなかったけど。
ガラの悪い大阪人のヤカラみたいな印象だった」
とキズィンは
陀々堂オニのインナースペースで見かけた時の
一寸法師を思い返した。
「それから、
今度の桃太郎さんは一件落着した後に
平気で「キジ鍋が食べたい」とか言い出す人だから、
覚悟しておいてね」
去り際のココにそんなことを言われ、
キズィンはすでにドン引きとなった。
ちょんまげ回し修行はバッチリだと一寸法師こと小次郎が言うので
更なるオニ煽りメニューを桃が考案し
「大人気!
キジ肉ジンギスカン+キジ肉すき焼き御膳!
ライスおかわり無料!」
とまた達筆で半紙にしたため店前へ貼り出すと
若夫婦に
「うちはフランス料理店なんですが」
と困った顔をされたが
「こっちの方が食べたくなるっしょ」
と桃は取り合わず
「体育会の合宿には大人気だろうな」
と竜眼も笑った。
メニューに効果があったのだろうか、
陀々堂オニは二十一時には来た。
蓬莱の枝には
更なる圧力で言うことを聞かせることに成功したらしく
既にちょうどよいくらいの火力で
メラメラと燃えている。
オニの内部から
美月が
「もうあんたらに勝ち目はないよ。
キジもこっち側についたんだ。
観念したらどうだい」
と最後通牒を突きつけてきたので
桃はココたちからの報告を受けているが
知らばっくれて
「何で
うちのキジが
オニのお供をやっているのさ」
と鎌をかけると
斧熊は
「親子キジを捕らえているおかげで
キズィンは俺たちに逆らえないのさ」
と意外にもあっさり暴露し
「おっと、
どこに隠しているかは内緒だがな」
と言って笑うが
桃たちはそれが「燕の子安貝」の中であり
美月が身に付けていると知っている。
桃は
「そんなの許さないよ!」
と怒りを込めて怒鳴り
「今は禁猟期だし、
そもそもメスのキジは捕ってはいけないルールだぞ」
と竜眼が補足すると
「麻酔で眠らせているだけだし、
許可は取っているぞ。
兵庫県の環境部、自然鳥獣共生課、鳥獣保護管理班に言って
「鳥獣捕獲許可申請書」を提出して
受理されてから捕まえたんだから」
と斧熊から得意気に言われてしまい
「ええと、
ルールを守っている、確かに」
と竜眼は怯んでしまい
「悪役なのに
ルールを守ってるんじゃないわよ」
と桃が苦情を言うと
「はあ?
どっちが悪役よ」
と美月がナチュラルに言い返してきたので
竜眼は
(向こうは
自分らが正義だと思っているのか?)
と驚いた。
桃は
「県知事が許しても、
あたしは許さないよ!」
とキリリとした顔で言い放ち、
左手の平に乗せた
お椀に入った一寸法師こと小次郎を高く掲げた。
お椀には水を汲んであり
小次郎は全裸となって
浸かっている状態である。
「ももっこサーブ!
お椀ちゃんごとバージョン!」
と新技の名を叫んで
豪快に水と一寸法師が入ったお椀ごと
右手でぶっ叩くと
お椀は器用に水平を保ったまま
オニ目掛けて飛んで行く。
「続いてこちらも修行の成果!
散水髷結蒸発耐熱防御!」
お椀に満たされていたのは
ハチ高原の澄んだ湧き水であり
日中に桃と竜眼が汲んできたもので、
その水を全裸で飲みながら
一寸法師こと小次郎は
ちょんまげの先からスプリンクラーのように散水し
神気をまとったミストによって
オニたいまつの熱さを中和しながら
進むことができた。
修行の甲斐あって
ちょんまげだけ元気よくクルクルと
一定のペースで回転するのを持続させられている。
「こんな短期間で攻略されるなんて」
と驚きを隠せない斧熊をよそに
小次郎は陀々堂オニのインナースペース内へ
再び侵入することに成功した。
まず
キジ親子を救うべく
「燕の子安貝」を探すと
小次郎は
美月がストラップを付けて
ビキニ下に結んでいる
人の拳ほどの大きさの貝殻を見つける。
丸い貝に
縦に溝が入って
女陰を思わせる縁起物であろう。
「火ネズミの皮衣」製のビキニに結びつけてあるので
霊力が子安貝にもおよび
炎の熱さが無効となっていると
小次郎は見抜いた。
一寸法師のエロい視線を感じた美月は
カッとなり
「お前も吸い込んでやる」
と子安貝を掴み
ゴムのストラップを伸ばして
小次郎へとかざすと
なるほど貝の溝から吸引力抜群の強風が生じて
一寸法師の腕力では
地面にへばりついて抵抗しようとしても
簡単に吸い込まれてしまいそうである。
しかし一寸法師こと小次郎は
「逆にチャンス」とばかりに
自分から子安貝へと飛び込んでいき
様子を見ていた斧熊は
「ええっと、
それはまずいんじゃ?」
と遅いと知りつつ聞くも
美月は
「なんで?」
と意味を分かりかねたが
「前の「仏のお鉢」の時と
同じことにならない?」
という斧熊の誘導に
「あ!」
と今さらながらに気がついた。
子安貝の内部で探索を始めた小次郎は
暗がりにキジの親子を見つけ
子キジを守って羽を広げ威嚇する母キジに
「ははは、
別に食べたりしないよ」
と神通力で通じ
体面を保とうとするが
内面は
おなきんデメリットによる破壊衝動で溢れかえっており
針の剣で内側からぶち抜いてやろうかと発作的に思うも
深呼吸を何度か繰り返し
必死で押さえ込み
両手を子安貝の内壁に付けて念を送ってみると
仏のお鉢と同様に
意思の疎通が可能であった。
『やってられねえです
マジで』
とぶっきらぼうに吐く子安貝に
「分かる分かる、
俺も同じ気持ち」
と小次郎が共感を示すと
『自由意志ではどうもならんもんで、
一寸法師さんの方で召し抱えてくだせえ。
仏のお鉢のように』
と最初から離反するつもりだったらしく
「頼られるのは悪い気はしないな」
と調子付いた小次郎は
「では、俺とキジ親子を吐き出しつつ、
同時に火ネズミの皮衣だけ吸い込んでほしい。
できる?」
と提案すれば
『難しいこと言いますねえ
マジで。
法力をお貸しいただけやすか』
との子安貝の交換条件に
「もちろんだぜ。
それっぽい必殺技の名前を
俺が叫ぶから、
息を合わせてくんな」
と告げると
小次郎は適当に両手で印を組んで
ムムムと念を込め
「強力吸引標的選別吐出波!」
とそれっぽい技の名前を叫んだ。
くぱあ、
とばかりに縦唇がふっくらくつろげられると
溝の下の方から
一寸法師とキジ親子を吐き出しつつ
上端からはズルズルっと
斧熊と美月のビキニのみを狙って吸い込み始める。
一寸法師が吸い込まれてから三十秒も経たない内での
子安貝の裏切りっぷりに
斧熊は
「ほらね!」
と天を仰ぎ
美月は
「もう寝返ったの、子安貝?
早すぎっしょ」
と自らの短慮を嘆く。
斧熊は最後の意地で「火ネズミの皮衣」を吸われるまいと
美月を抱えつつも
すごい握力で
両方のビキニ下を掴むが
この期を待っていたキズィンに
羽毛で脇をくすぐられて
離してしまい
「キジちゃんも裏切るのか?
って、まあ、そうなるよね。
人質とられてだし、
桃太郎のお供なんだし」
と半ば諦めた半笑いで言えば
火ネズミの皮衣も、
これ幸いと抵抗することなく
吸い込まれていく。
「君って人望なさすぎない?」
と斧熊に言われた美月は
「人望というか、
アイテム望っていうのかしら」
などと軽口を叩く暇もなく
インナースペースの外では
たいまつとして燃やされていた「蓬莱の玉の枝」も
ここぞとばかりに激しく燃え上がるので
「そりゃあ怒ってると思うよ。
なんたって
燃やされてるんだから」
と斧熊は言う間に
たちまち内部温度の急上昇が始まり
熱さに悶える二人であった。
「こりゃ無理だ、
いくら筋トレしていても」
と脱出経路を確認しようとした斧熊を尻目に
キズィンは
一寸法師から渡された親子キジを抱えて
飛び立っていき
「なによ、
申し合わせたみたいに共同作業しちゃって。
二重スパイだったってわけ?」
と熱い中で美月が悔しがる。
完全な敗北を認めた斧熊は
美月をお姫さまだっこで抱えて
崩れていく足場を
ぶれない体幹で走り
脱出を開始する。
「こんな形で
一本歯下駄トレーニングが役に立つとは」
と斧熊が皮肉を言えば
「足首は大丈夫なの?」
と美月に心配され
「ちょうど今、治ったところさ」
と笑うと
美月も
「どんどん人間離れしていくわね」
と言って斧熊の肩に顔を寄せた。
我らが一寸法師こと小次郎と
キズィンが
崩れゆく陀々堂オニから
桃らの拍手と喝采を浴びながら
颯爽と飛び出てくると
外は二十一時台で
辺りは真っ暗であった。
キズィンが抱えていたキジ親子を解放すると
夕べ小次郎を拐ったのは父キジだったらしく
迎えに来ており
親子三羽で仲良く走って帰っていくのを
皆で見送ることができた。
斧熊と美月の姿は見えず
竜眼は
「闇夜に紛れてこそこそと逃げたのだろう。
哀れな連中だ」
と高をくくる。
民宿経営の若夫婦からは感謝され
シェフ夫の
「お礼と言ってはなんですが、
明日のお昼ごはんにスペシャリテのジビエをご用意しますので」
との申し出に
桃は
「やったね」
と喜び若女将が
「あ、キジ肉は切らしていますけど」
とオチをつけてくれて
皆で笑った。
「狩猟が解禁になったら
夫婦でエアライフルで
キジ撃ちに行けるんですけどね」
と夫が余計なことを言って
キズィンを凍りつかせた。
若夫婦が店に戻り、
玄関先にいるのが
桃、竜眼、小次郎、ココ、サリュー、そしてキズィンのみとなると
キズィンがやおら土下座し
「あろうことか
桃太郎さまに刃向かってしまいました。
どのような罰もお受けいたします」
と桃に向かって詫びを入れ
ココとサリューも
「どうか寛大な裁きを」
「我々からもお願いします」
と声を揃え
三体並んでの土下座となった。
見かねた竜眼も
「まあまあ、
人質を取られていたという事情もあることだし……」
と収めようとするも
桃は
「ウフフ、
でも、ここで甘やかすと、
つけあがるから」
と無情に言い放ち
「三人ともその姿勢のまま、
動いちゃダメだからね」
と命じると
ビビって身を小さくしているキズィンの前に屈みこみ
「あたしに楯突いた罪により、
うふ、きびだんごの刑に処すー」
と言って
頭を上げさせ
驚いたキズィンの顔に
自分の乳房を押し当てて挟み
両腕でギューっと抱き締める。
脳内で爆発するような快楽物質に翻弄され
「はぁぁ~~!
ナニこれ!
すっごい!
やめて! 死ぬ!
死んじゃうから!」
とキズィンが必死で振りほどこうとしても
桃は離さず
「どうだ?
言うこと聞くか?
もう楯突かないか?」
と、おどけた調子だが
怖くもある言い方をすると
キズィンは腰をカクカクしだして
「何でもしますから!
助けて!」
と叫んでいたが
やがて気を失ってしまった。
桃が凄絶な顔で
「さあ、次はどっちだい?」
と問うと
たまらずココは
「ください!
早く!」
とにじり寄り
サリューは
「おいらが先だい!」
とココの肩を掴む。
桃は笑って
「なかよくしなさい。
よーし、じゃあ二人同時だ」
と言い
左右の乳房に
ココとサリュー
一人ずつ顔を押し当て
それぞれにぎゅーっと腕で抱き締めると
二人は同時に
「ぎゃーー!」
と叫び
手足をバタバタとさせていたが
キズィンと同様に
すぐに気を失った。
竜眼がじっとりした眼差しで見ていると
「三人を運ぶの手伝ってね」
と桃に言われて
我に返り
「後で一緒にお風呂入ろうね」
とウインクされたら
もう虚ろな目になって
「きびだんご……、きびだんご……」
とうわ言のように繰り返すだけとなった。
「いいなあ、女子ばっかり!
俺には何にもないのに!」
急に一寸法師こと小次郎が
イライラとフラストレーションをマックスにして叫んだので
桃はハッとなり
「小次郎さん?」
と振り返って
見たものは
「うおお、ちくしょう!」
と転げ回ったかと思うと
ガバッと起き上がり
天を仰いで
「しこらせろー!」
とすごい形相で絶叫する一寸法師の姿であった。
桃は涙目となり
「もう見てらんないよ、限界だよ」
と訴えると
またどこからともなく大黒天が現れ
『そうじゃな、
あまりに長期間のおなきんにより
精神に変調をきたしておるようじゃ』
と淡々と言った。
桃は地面を転がり続ける
狂乱状態の一寸法師こと小次郎を
優しく拾い上げ、
顔をの覗き込んで
「おなきん、リセットしよ?」
と小首を傾げて語りかけると
小次郎も理性を取り戻し
「俺は情けない男です。
二週間もおなきんを続けられないなんて」
と泣き出す。
同じく理性が戻りつつある竜眼も
「無理に溜めるのはよくないよ。
若いんだし」
と助け船を出すと
身に染みて分かった小次郎は
涙を袖で拭いながら小さく頷き
大黒天は
『個人差はあるが、
若いうちは一週間に一回はリセットせんと
デメリットの方がメリットを上回る懸念があるのう』
とフォローを入れた。
『お供が三体揃ったのは一寸法師のお陰じゃ。
ちょっとくらい戻してやらんと、
かわいそうであるの』
大黒天は渋々と言うと
「打出の小槌」を取りだし
『あくまでも一時的に戻すのだからな。
一時間経ったら強制的にまた一寸法師にするぞい。
桃太郎が真に覚醒して
大オニを封印するまで一寸法師でいる約束じゃ』
と念を押すが
小次郎は
「何でもいいから早くして」
と桃の手の平の上で
ぴょんぴょんしながら急かした。
小槌を桃に渡しながら
『心を込めて「おおきくなあれ」と唱えながら、
振っておくりゃれ』
と言う大国主に
「あたしがお姫様?
よーし、任せておいて!」
と言って桃が受け取ろうとした、
その刹那、
事態が急変する。
辺りに薄い白煙が漂ったのを気づいた竜眼が
不審に思い
周りを見ると
何か嫌な気配を感じた。
(前に
玉手箱で一瞬だけ
時間停止をしたときの感覚に似ている)
次の瞬間、
桃の手から小槌が消えて
「あれ?」
と声を上げ
「どこ行った?」
と桃が大黒天を見ると
何かを頭に被せられ
地面に倒れて動かない。
明らかに時間の流れが不自然に断絶されていた。
桃は柔和な表情を一変させ
「何が起きたの?」
と警告を発するのと同じくして
上空から笑い声と
「ブー、ブー」という謎の音が響いてくる。
桃が見上げると、
赤い胴体に長い首の動物のようで
首の先には赤い獅子舞のような頭部があり
二本のツノも生えている物体が
宙に浮いていた。
斧熊と美月、
さらにホログラムの乙姫を
背中に乗せて飛んでいるのである。
「牛鬼、なのか?」
竜眼も見上げながら
驚愕に口を大きく開けて解説する。
「牛鬼は、
愛媛県の宇和島市で行われる「宇和島牛鬼まつり」で
街に繰り出される山車で
六メートルくらいある。
恐ろしい形相の鬼の面と
牛の胴体、
尻尾は剣らしい。
数十人の若者に担がれて
家々の軒先に首を突っ込んで回って
悪魔を祓う伝統行事だ。
「ブーブー」という音は牛鬼の周りで子どもたちが
竹ボラとかブーヤレなどと呼ばれる楽器を吹いているんだ」
桃が
「飛べるの?」
と聞くと
「さあ」
と竜眼は肩をすくめた。
一寸法師こと小次郎は
「この音は苦手~」
と言いながら
耳を手で塞いでうずくまる。
おなきんデメリットの極み状態なのに追加して
一寸法師よけの音波により
戦闘不能となった。
『玉手箱による時間停止は
浦島太郎だけの専用スキルではない。
むしろ、わらわの方がオーソリティーじゃ』
牛鬼の背中の上から
ホログラムの人影が
勝ち誇った様子で語りかけてきた。
『お初にお目にかかるかの。
わらわは乙姫と申す』
と言うのを聞いた竜眼は
「浦島太郎の関係だったら
私の方が因縁があるのか」
と嫌な顔をし
「三頭身だね。
大黒天さんと同じだ」
と桃が言うので
「時間止めてから
牛鬼の首を伸ばして
打出の小槌を奪ったらしいな」
と分析した。
大黒天を桃が抱き起すと
頭にスッポリと「仏にお鉢」を被せられており
その霊力を用いて無力化されているらしかった。
乙姫は更に
『牛鬼の頭に刺して
玉手箱アンド打出の小槌カスタムなり』
と楽しそうに指をさすと
その通り牛鬼の頭部には
玉手箱と
打出の小槌が
セッティングされている。
「二大アイテムで明らかに強化されている。
これはまずいぞ」
と竜眼が警戒するが
構わず牛鬼が大きな口を開き
桃らに向かうと
口から白い煙の塊を吐き出してきた。
「危ない!
桃太郎さん!」
ココ、サリュー、キズィンの三名は
意識を取り戻したらしく
慌てて駆けつけて
桃を守るように白煙の塊を受け止めようとしたが、
煙が晴れて桃が見たものは
ペット形態で老化した三名の姿であった。
よぼよぼの
マルチーズと
キツネザルと
文鳥が
地面に伏せて
ぐったりしている。
『玉手箱のメイン攻撃である
老化ガスじゃ。
これで吉備野桃は
桃太郎に復活することはできぬぞい』
と乙姫はさらに勝ち誇って笑う。
「お供が三体揃ったら
一寸法師を戻すために
大黒天が打出の小槌を持って現れる、
と読んでいたのさ」
と美月が横から言い
「わざと負けて、あえて揃わせたのだよ」
と斧熊も続き
「本当かな」
と桃は疑った。
美月は
「桃ちゃんよ。
仲間になるなら、
みんなを元に戻してあげるけど?」
と提案してきて
「女木島の「鬼ヶ島大洞窟」で待つから
明日の十六時に来い。
そこで
大オニの復活の儀式を行う」
と斧熊が偉そうに言い
「よく考えることね」
と美月が腰に手を当てて忠告すると
「女木島は
香川県の高松港から
フェリーで二十分だから」
と最後に斧熊が補足した。
桃は
「協力してほしかったのなら
最初からそう言えばいいのに」
と言い
憮然としたところに
牛鬼は三人の高笑いを残して
飛んで去っていく。
「ブー。ブー」という
不快な一寸法師よけ音波も聞こえなくなり
小次郎は身を起こし、
今しがた起きた出来事を振り返って
呆然とする。
おなきんをリセットしようとした直前で
打出の小槌を奪われ
元の身体に戻れない。
リセットできると期待がいっぱいに膨らんでから
「やっぱり無し」と突きつけられた
小次郎の心痛たるや如何ほどであろうや。
「おなきん、つらいな、しんどいなあ〜。
エロが生きがい、だったーのーに〜」
小次郎は歌いながら
盆踊りのような振り付けで
腕を上げたり横に振ったり
「ぱぱんがぱん」と胸の前で拍手したりして
「どうしよう。
無表情で
おなきん音頭を踊り出しちゃった」
と桃が悲嘆にくれ
「完全に使い物にならなくなったな」
と竜眼は腕を組んで
首を振った。
大黒天が
お鉢を頭に乗せたまま起き上がり
小次郎の惨状を見てため息をつき、
会話くらいなら可能らしく
『一時的に人間の身体に戻して
リセットする予定であったが。
やむを得えまい。
一寸法師のままリセットするか』
と言うも
『ただし、全て放出されてしまうぞ。
身体が小さいから
一回の発射でパワーを出し尽くしてしまうじゃろう。
今後、一寸法師のサポートがだいぶ弱くなるが、
小次郎は助かる』
と告げられ桃はジレンマに直面した。
「結局、
あたしは普通の人間なんだな。
格別な逸材なんかじゃなく、
みんなに助けられただけ。
小次郎さんも今まですごくよく頑張ってくれた。
今度はあたしが助ける番だね」
桃が少し考えた末に出した決断は、
小次郎のメンタルを優先する
というものであった。
竜眼も頷いて
「それが桃らしい。
やはり素晴らしい人間性だ」
とほほ笑んだ。
老化した三体のお供たちも
同じ気持ちであるようだった。
桃は意を決して
ジャージのファスナーを限界まで下ろし
乳房の谷間を露わにすると
竜眼からプレイ用のローションを受けとり
「きびだんご、みたらしバージョンだよ」
と宣言して
「へい、カモン」
と親指で
ローションを垂らしヌルヌルとなった
谷間を示す。
小次郎は目を見開き
「飛び込ませていただきます!」
と応えると
一瞬で全裸になり
ピョンと飛んで
ヒポンっと
谷間にきれいにハマると
待ち構えていた桃に
逆さまの体勢で横から手で圧をかけられ
揉まれた。
左右を互い違いに
上下にしたりされる内に
小次郎の身体はゆっくり回転し
頭を上にして
谷間から顔だけ出てきたのだが
まさに恍惚といった表情である。
ちょんまげの根本が
ズンズンと膨らんできて
「あ、出そう。
出ちゃう出ちゃう」
と桃が言うように
小次郎の快感は絶頂へと駆け上り、
やがて競馬場で聞こえるようなファンファーレと共に、
ちょんまげの先端から
虹が出たのである。
比喩ではない。
よく見れば
色とりどりに
小さい一寸法師が満面の笑みで
ハチ高原の夜空へ向かって
解放されていく。
「いっぱい出たねー」
と闇夜に架かった奇跡の虹を
見上げた桃は笑い、
竜眼は眉をひそめた。
「乙姫さんの話を聞いてみたいですね。
話し合いによる解決を模索すべきかと考えます」
と闘争心が完全にオフになっている顔で
小次郎が言うのを
「やば、賢者タイムだ」
と桃は呟いた。
小次郎はそのまま
「発つ鳥の、跡も涼しく、鉢伏山、親子の情に、虹ぞかからん」
と和歌を詠んだ。




