第二話 「五百年前の記憶」
「アイシャゲルは五百年前に滅ぼされた」ーーーロアンさんの口から告げられたのは、にわかに信じがたいことだった。
「冗談言わないでください………!」
無意識に、俺はロアンさんの襟を強く掴んでいた。
子供騙しなら、いい加減にしてほしかった。
あれから五百年も経っているわけがないのだから。
襟を掴まれたことに対し、ロアンさんは何の抵抗も見せない。
「冗談ではない、すべて事実だ。お前がそう思うなら、冒険者PUBで見てくればいい」
強気な態度。そこでようやく実感した。
ロアンさんは嘘をついていない。
ただ事実を述べているだけだ。
だったら、なんで五百年前の記憶が俺にある?
アイシャゲルで親父と過ごしてきた思い出、今もなお脳裏に焼きついている虹色の池。
あれは、一体何だったんだ………。
「レクセさんは、本当にアイシャゲル出身なの?きっと、どこか勘違いしているんじゃない?」
ミレさんがそう考えるのも、無理はなかった。
目を覚ましたとき、俺はダンジョン上層に倒れていた。そして、その経緯をまったく覚えていない。
しかも、地上に来るのも初めて、という人間だ。
彼女たちからすれば、そんなの記憶喪失のように見えても不思議ではなかった。
「分からない。俺に何が起こったんだ、なんで五百年前に滅んだ街の記憶があるんだ………!」
自分が何者なのか分からない。
今まで体験した事は嘘だったのか、それとも事実の部分があるのか、はたまた全部真実なのか。
現状、その謎を明かす手がかりはない。
「おいおい、大丈夫か!?」
「このままだと埒が明かないわね。一度、自分の目で確認した方がいいかも」
俺の深刻そうな様子を見るなり、アードさんは心配そうに駆け寄ってくれた。
それからホーメーさんの提案で、俺は彼女たちと一緒に冒険者PUBという場所へ行くことになった。
その途中、
「ねえ。レクセさんは、まだ信じていない?」
誰も口を開こうとしない中、ミレさんだけは何事もなかったかのように話しかけてきた。
「正直、信じられないんだ。だから、この目でその事実を確認したい」
ロアンさんが言うには、冒険者PUBにアイシャゲルについての情報がある。
冒険者PUBは、地上の街の中央にある石レンガ造りの大きな建物だった。冒険者証を持っていれば誰でも利用でき、ダンジョンに関する情報を調べられるらしい。
早速、冒険者PUBに着くと、ロアンさんが、アイシャゲルについて書かれた本がある場所へ先に向かった。そして一冊の本を手に取り、後ろを付いていた俺に渡した。
「伝説の街、アイシャゲル」の目次を見つけると、該当箇所までページをめくっていく。
『最下層に、独自の文明が築かれていた街、それがアイシャゲル。魔物発生を抑制する塔、魔石を加工して利用していた照明。しかし、その文明も五百年前、シャララによって滅ぼされてしまった』
ロアンさんが言っていたとおりだった。
誤った情報は書かれていないのだが、他の街は、数ページにわたって書かれている。
具体的にダンジョンの何階にあったのか、その街ではこんな生活をしていたとか、詳しく記されている。
しかし、アイシャゲルについて記されていたのは、たった数行だけだった。そのことが少し気になった。
それでも事実として、アイシャゲルが五百年前に滅んだこと。それが確認できただけでも、自分にとって大きな一歩だった。




