第一話 「少年と少女の出会い」
真っ黒な世界。そして、そこに俺と親父の二人がいた。
「なあ、親父!」
そう呼んでも、一向に振り返る気配がない。自分の声が聞こえていないのだろうか。
俺は親父に向かって歩いていくが、その距離はまったく縮まることがなかった。
むしろ、遠ざかっているようだった。
「レクセ、もうお前は一人だ」
「え、なんだって!?」
ようやく親父の声が聞こえたが、肝心の中身は聞こえなかった。
そして直後、あの忌まわしき魔物が親父の身体を飲み込んだ。
ーーーーー
「………はっ!」
あの絶望が呼び起こされ、そこで俺の意識は目覚めた。
「お、やっと起きた!」
意識が朦朧としている中、視界の外から明るい声が聞こえてきた。
一体、誰だ………?そこには、自分と同い年くらいの少女が俺の顔を覗き込んでいた。
「君さ、いくら上層だからってダンジョンで寝るのは命知らずだよ」
「ど、どういうこと?」
「え、覚えていないの。君、ダンジョン5階層に続く階段で倒れていたんだよ」
なんで、俺は上層にいるんだ。まさか、あの魔物がここまで俺たちを連れ去ったのか。
だったら、近くに親父もいるんじゃないか。
「なあ、俺以外にもう一人倒れている人はいなかった? 腰に剣を付けていて、右目に傷跡がある人」
「そんな人いなかったかな。倒れていたのは、君一人だけだったけど」
「そうか、ありがと」
あの魔物に飲み込まれても、自分の命が無事だった以上、きっと親父もどこかで生きているはずだ。
その可能性があるだけで、ほんの少し気持ちは楽になった。
「君、名前は何て言うの?」
「ミレさん、もうやめておきなさい。これ以上関わったら、変に別れづらくなるわ」
少女の隣に立つ色気あるお姉さんがそう言った。
彼女の後に続くように、若い男性と年季ある男性が口を開いた。
「そうだぞ。俺たちは、あくまで目の前に倒れていた人を助けただけだ。礼を言ってもらえば、それで充分だろ」
「二人の言う通りだ」
「いやいや、ここで会ったのも何かの運命だよ。あと単純に私が名前を知りたいの」
年上の言う事を反対して、自分の我儘を押し通そうとする少女。
まるで親父と自分を見ているみたいだった。結局、少女は三人を無理やり納得させた。
「まず、助けてくれてありがとう。自分はレクセ」
「私はミレさん。よろしくね。そしてこの三人がホーメー、アードさん、ロアンさん」
ミレさんは自分の名前だけでなく、親切に三人の名前まで教えてくれた。
と言っても、彼等はどこか不服そうな顔をしているが。
四人でダンジョンに潜っているってことは、ミレさんたちは冒険者なのだろうか。
それぞれ武器も持っているし、ロアンさんは防具も着ている。たぶん、そうに違いない。
「レクセさんは、一人で地上に帰れそう? 見た所、何の武器も持っていないみたいだけど」
「無理だと思う。そもそも、俺さ、地上への帰り道を知らないんだ。目が覚めたら、なぜかこの場所にいたというか」
彼等の助力なしに、地上に行くのは無理だろう。だから、今の自分の状況を正直に言う事にした。
「そうなんだ。それじゃあ、私たちが地上まで送り届けてあげるよ。ね、三人ともいいでしょ?」
「どうせ、私たちが嫌だって言っても聞かないんでしょ」
「もちろん!」
ミレさんはそう言うと、ホーメーさんは大きくため息を吐いた。
その様子を見ていたアードさんとロアンさんは苦笑いしていた。
そして、俺はミレさんたちに地上に送り届けてもらうことになった。
ーーーーー
「よし、地上に着いたよ」
「ここが地上………」
正直、圧巻の景色で言葉が出なかった。あれが親父の言っていた空か。本当に天井が見えない。
魔石灯がないのに、街全体が照らされている。これはどういう仕組みなんだ?
知らないことだらけすぎて、視点が定まらない。
「ミレさん、あの眩しいものはなに?」
「え、あれって太陽だよ」
太陽。なんて輝きをしているんだ。あんな頭上にあるのに、眩しすぎて直視できない。
地上の人たちは、あんなものがあるのに平然としていることに驚きを隠せなかった。
「レクセさん、太陽知らないの?」
「うん。それに空も初めて見た。地上ってこんなに凄いんだな」
自分の反応に、他四人はお互いに顔を合わせていた。
「レクセ、お前は地上が初めてなのか?」
ロアンさんが自分の肩に手を置き、そう聞いてきた。
自分が何と答えるのか、気になっているのか他三人はこちらをじっと見つめる。
「はい。自分アイシュゲル出身なんで」
「………ちょっと待て。もう一回、お前の出身を言ってくれ?」
「アイシュゲルっす」
その言葉を言うと、ロアンさんは大きく動揺していた。
ホーメーさんもアードさんも同様の反応をしている。そんなに驚くようなことなのか。
「ねえ、アイシュゲル? ってなに?」
ミレさんからの問いに、ロアンさんから信じられない言葉が出るのだった。
「アイシュゲルは500年前、シャララによって滅ぼされた最下層にあった街のことだ」




