第三話 「決意」
本を読み終え、俺はミレさんたちが座る席に着いた。
いつの間にか、机の上には大量の料理が並べられていた。この半分は、ミレさんが注文したものらしい。
「いただきまーす!」
ミレさんは肉、魚、パスタと食合わせなんて気にせず、食べたい料理をただ口に運んでいく。
相当、お腹が空いていたのだろう。どれも美味しそうなものばかりだが生憎、今の俺に食欲はなかった。
ついさっき、故郷が滅んだ事実を知ったばがりに、目の前の食事を楽しむ気にはなれなかった。
アードさんに「食べないのか?」と聞いてくれたが、俺は静かに首を縦に振った。
「お前は、これからどうするんだ?」
こういう場面で、いつも最初に口を開くのは、ロアンさんだった。
「分かんないっす。自分がどうするべきか………」
五百年前にアイシャゲルは滅亡。
自分の帰る故郷がなくなり、親父も行方不明。
その親父を探そうにも、何の手掛かりもない以上、どうすればいいのか分からなかった。
「アイシャゲルに行けば、お前が探している人が見つかるかもな」
「どうやって行くんですか? 俺は魔物と戦ったことがないのに」
その考えは、すでに頭に浮かんでいた。
でも、現実的に不可能に近いことだった。
一度も剣を握っていない人間が、危険な魔物が棲みつく最深部に向かうなんて、ただの自殺行為にすぎない。
「だったら、戦いの経験を積んでいけばいい」
本当に、俺の話を聞いていたのか。
それが難しいから、こっちは悩んでいるんだよ。
他人事のように、安易な発言をしてくるロアンさんに腹を立てる。
「だから、それが無理なんだよ!」
思わず、感情的になってしまい、机を叩いてしまった。
「できるかどうかは聞いていない。お前の本心は、どうしたいと言っている?」
ロアンさんに言われて、ようやく気が付いた。
俺は、最初から無理だと決めつけていた。
アイシャゲルは滅ぼされ、親父もいなくなった。
何もかもが分からなくなって、いつの間にか弱気になっていたんだ。
………それがどうしたっていうんだ。
今までだって、知らないものを見つければ、後先考えずに飛びついてきた。
未知の場所に足を踏み入れることが、怖いと思ったことなんてなかったはずだ。今度だって、同じだ。
親父を見つけたい。その気持ちに偽りはなかった。
「………親父を見つける。そのために、アイシャゲルに向かいたい」
自分の素直な思いを告げる。
するとーーー
「そうか、お前が探していたのは父親だったか」
「なーんだ、そんな大事なこと最初から言えよ」
「だけど、五百年前に滅びた街にレクセの父親が生きているとは可能性として低いわね」
「ホーメーさん、そんなこと言わないの。せっかく、レクセさんが正直に話してくれたんだから」
その言葉を待っていたと言わんばかりに、四人は口を開き始めた。
今日が初対面なはずなのに、仲間のような安心感。
本当に、自分を助けてくれたのが彼等で良かった。
張り詰めた糸が切れたせいか、お腹の音が鳴る。
俺は後頭部を手で押さえ、照れ笑いを見せた。
「よし、みんなで一緒に食べよう!」
一段落着き、ミレさんはそうみんなに声を掛けた。
地上の料理はどれも美味しく、手が止まらなかった。
大量の料理を食べ終わると、辺りはすっかり暗くなり、太陽とは別の輝きを持つ球体が空に浮かんでいた。
その場の感じから、もう四人と離れることは気づいていた。だから、その前に自分の気持ちを赤裸々に伝えることにした。
「本当に、今日は助けてくれてありがとう。こんな事を言うのは我儘だって分かってる。でも、最後に一つだけお願いを聞いて欲しい」
今日会ったばかりなのに、不思議と居心地がよかった。
俺の話を親身に聞いてくれて、俺の問題を真剣に受け止めてくれた。
だから、別れたくなかった。もう少しだけ、この人たちと一緒にいたかった。
「お、俺をあなたたちの仲間に入れてください!」
俺は深々と頭を下げた。
突然のお願いに、四人は顔を見合わせた。
そして最初に口を開いたのは、ミレさんだった。
「えーコホン。いいでしょう!」
「……ほ、本当に!?」
あまりにもあっさりした返事に、思わず顔を上げる。
「実はね、私たちも訳あって最下層を目指しているんだ。だから、行き先は同じってこと!」
「まあ、そういうことだ。それにお前を、ここで放っておくのも後味が悪いしな」
アードさんはそう言って、肩をすくめた。
「仲間は多いに越したことはないけど、あなたは戦闘において素人だから、足手纏いにはならないように」
ホーメーさんはそう付け加え、俺の顔を見た。
「もちろんだ!」
俺はすぐに頷いた。
「じゃあ、決まりだね!」
ミレさんは満面の笑みを浮かべた。
こうして俺は、地上で初めての仲間を得た。
個性豊かな人たちだけれど、この人たちとなら、うまくやっていけそうな気がした。
そして、いつか必ず最下層にたどり着く。
そのときの俺は、まだ知らなかった。
この出会いが、自分の運命を大きく変えることになるなんて。




