第22話恐怖の昔話と絶対死刑予告
模擬店エリアの視察を無事に乗り切り、命からがらアグニス派閥の拠点である追放執務室へ戻ってきたスカーレットたち。
しかし、安堵の息を吐く間もなく――。
「あら、懐かしいですわ」
漆黒のドレスの裾を揺らしながら、セレスティーヌが当然のような足取りで部屋の中へと足を踏み入れてきた。
「セ、セレスティーヌ様……!? こちらに何かご用件でも……?」
スカーレットが慌てて頭を下げると、セレスティーヌは室内をぐるりと見渡しながら、優雅にソファーへと腰掛けた。
「少し足を休めたかっただけよ。……ふふ、わたくしが学生だった頃と、調度品の配置はほとんど変わっていないのですわね」
そう言って目を細めるセレスティーヌ。
だが、その口から紡ぎ出される懐古話は、どれも常軌を逸した物騒なものばかりだった。
「あの窓からは、わたくしのドレスにワインをこぼした生意気な伯爵子息を庭の池へ叩き落としましたし……その執務机の上では、反抗的だった二つの巨大貴族派閥の親族一同を、一夜にして僻地へ追い込む書類に署名したものですわ」
(……思い出がことごとく血生臭すぎますわぁあああっ!)
スカーレットは内心で激しく胃を押さえ、ミリアは小さく震え、レムは静かに紅茶を淹れ直している。
ふと、セレスティーヌが部屋の真新しい白木の壁に視線を留めた。
「そういえばスカーレット様。この第一校舎……わたくしたちが入学する前の年に建て替えられたのを知っているかしら?」
「え……? そういえば、なぜ築数百年の学院の中で、この第一校舎だけが新築のように綺麗なのかと、不思議に思っておりましたわ」
スカーレットが答えると、セレスティーヌはふふっと愛らしそうに口元を綻ばせた。
「わたくしの姉が在学していた頃、男性教師にいやらしい目で見られたことに腹を立てましたの。」
「まぁお姉様を…なんという教師でしょう。」
「ええ、ですから姉は第一校舎ごと、広域殲滅魔法で跡形もなく吹き飛ばしたのよ。ふふ、とてもお姉様らしい苛烈さでしょう?」
「………………」
静寂。
スカーレット、ミリア、レムの三人の顔から、一瞬にして一切の血の気が引いた。
(……け、消し炭……!)
今日のバニーカフェの現場。
もし、セレスティーヌの不興を買っていたら。
もし、スカーレットの即興公開処刑が間に合っていなかったら。
自分たちは今頃、吹き飛んだ第三校舎の瓦礫とともに、灰になって王都の風に吹かれていたのだ。
命の綱渡りどころではない。地雷原をタップダンスで駆け抜けていた事実を突きつけられ、三人は完全に凍りついていた。
「……そろそろ失礼しますわ。今日はとても楽しかったですわよ」
セレスティーヌは満足そうに立ち上がり、扉へと歩みを進めた。
そして、部屋を出る直前――ふと足を止め、スカーレットを振り返った。
冷徹で完璧な、だがどこか底知れぬ美貌の笑み。
「それと、スカーレット様。……あなたが提出する定期報告書、毎回とても『楽しく』拝見しておりますわ」
バタン。
重厚な扉が静かに閉ざされ、絶対君主の気配が完全に消え去った。
「――っっっ!!!!」
膝の力が完全に抜け、スカーレットは絨毯の上へと無様に崩れ落ちた。
「ひ、ひぃいいいいいいっ! 『楽しく読んでいる』……!? あのセレスティーヌ様が『楽しく読んでいる』とおっしゃいましたわぁああああっ!?」
床に突っ伏し、頭を抱えて絶叫するスカーレット。
「ス、スカーレット様!? 褒めていただけたのでしたら、喜ばしいことではありませんの!?」
慌てて駆け寄るミリアに対し、スカーレットは白目を剥きながら狂乱の叫びを返した。
「馬鹿をお言いじゃないのミリア! あれは褒め言葉なんかじゃありませんわ! 『楽しく読んでいる=次から少しでもつまらなくなったら即座に一族皆殺し&校舎ごと消滅』という、史上最悪の死刑予告ですわぁあああああっ!!」
「そ、そんなぁああああっ!?」
床の上でのたうち回るスカーレットの胃壁は、もはや跡形もなく焼き尽くされていた。
「だめ……次のレポートのハードルが成層圏まで上がってしまいましたわ……。もう胃薬が一樽あっても足りませんことよ……!」
阿鼻叫喚の執務室の片隅で、レムだけが「……ぱくっ」と静かにマカロンを咀嚼し、嵐のような一日が幕を閉じるのだった。
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スカーレット嬢が恐れる、悪役令嬢セレスティーヌ様の活躍を描く「性悪悪役令嬢の怪獣防衛収支報告書 ~王子を囮にし、萌え(ウサギさん)を害する怪獣は筋肉ワンパンで超黒字ですわ!~」もよろしくお願いします☆




