思い出の時代
さてさて、事の真相が明らかに成ります
「変な事を聞くけど⋯香澄、だよね?」
リビングで向かいに立った晴人が私を見て尋ねた。
見慣れた実家のリビング。
月に一度位は何かと来ているから、藍染の家よりむしろ居心地が良い。
そんな場所。
母親も、祖母も、晴人も私の事を奇妙な物でも見るかのように眺めていた。
「突然、何を言っているの?」
「だって、さっきは⋯自分の事ミツキって⋯」
戸惑う晴人。
「んな訳⋯」
と、そこでミツキという名前に思い当たった。
「やだ、それオバケの名前じゃん」
「オバケ?」
「空港で私の前に突然現れて⋯突然消えたんだよね」
「えっ? なにそれ?? 怖っ!」
「あ、でもそんな、“呪ってやる〜”って感じじゃなくて、普通に挨拶してきたよ?」
「余計怖いわ!」
晴人は本気で怖がっているらしい。
コイツは男のくせにこういう心霊系は全く駄目だからなぁ。
「少し、良い?」
その様子を見ていた母親は真剣な表情で私に言った。
「うん」
私も椅子に座り、話を聞く。
「香澄の見たミツキと言うのは、赤青のオッドアイに金髪の17歳くらいの女の子、合ってる?」
「そうだけど⋯え、なんで知ってるの?? 有名な幽霊、とか?」
「ううん、幽霊じゃなくて⋯ミツキと言うのは、私をモデルに生成された世界初のVA⋯というよりAI人格と言った方が正しいかしら」
「似てると思った。VA、なの?」
「ええ。でも今みたいに仮想キャラクターに限定せず、全人格と反応をシミュレーションしようとする野心的なプロジェクトだったわ」
「え、そんな事⋯可能なの?」
つまり、人間そのものを仮想的に生み出す?
詳しくないけど、それには大変な計算処理が必要だよね⋯。
「結果的には失敗したわ。当時のAIには負荷が大きすぎて⋯」
「それがなぜ、私と?」
「プロジェクトが失敗した時、ミツキの人格データは今のグローバルAIのコアに取り込まれたけど、今でも存在していて⋯」
と、母親は私の事を指さした。
「へ?」
「香澄と繋がっている」
「な、なんで?!」
いや、そんな事、初耳なんですけど?
「香澄がまだ子供の頃、ミツキのモニタリングをテストしたら、何故か繋がってしまって」
「な、何故か?」
「原因、分からないのよね⋯」
溜め息をつく母親。
「大体、繋がっているって、どうやって⋯」
言いながら思わず自分の頭を触ってみた。
「あ、そう言う物理的な物は無いのよ? 困った事に」
「なお不安なんですけど⋯」
見知らぬ相手と訳も分からず繋がっている??
不安しか無いんだけど。
「律斗さんは量子もつれが関連してると言ってたわ」
「父親が?」
海外で量子通信とAIの研究をしている父親の姿を思い浮かべた。
「と言っても、今まではミツキは意識が無くて⋯一方的に反応しているだけで、実害は無かったし⋯」
「は、反応って?」
「香澄の喜怒哀楽に同期して同じ反応をするの」
「なんか、イヤだな⋯」
そう言われると、私生活を覗き見られてる様な嫌悪感がある。
「で、でも今回は? ミツキがその、香澄を操って⋯」
晴人が不安げに言った。
「多分、ミツキの意識が覚醒し始めたんだと思うわ。それで香澄が逆に影響を受けた」
「ど、どうにか成らないの? 」
「どうして繋がってるかも分からないから⋯困ったわね⋯」
母親は額に手を当て悩みのポーズ。
何故かそれも決まっているから少し腹が立つ。
「それはこっちのセリフだよ」
私は言った。
「誤解しないであげて欲しいんだけど、ミツキは悪い娘じゃ無いのよ」
「いや、なんでその娘の肩を持つの?! 困っているのは私だよ?」
本当に、生まれた時からこの両親には振り回されっ放しだ。
カンベンして欲しい。
「今は怒っても仕方ないでしょう? 一つの身体を共有しているのだから。これはあなたを守る為でもあるのよ?」
「それは⋯そうだけど」
「恐らく、眠ったりして香澄の意識が途絶えるとミツキが動けるのでしょう。その時に私も話してみるから」
「わ、分かった」
渋々頷いた私だった。
そしてその晩は、物凄く久し振りに母親と同じ部屋で寝ることになった。
もちろん、ミツキが覚醒した時に母親が対応する為だ。
隣同士で寝具を並べ、布団に入る。
部屋の明かりを消し、目を閉じていると、母親がポツポツと話し始めた。
「さっき⋯香澄、どうしてミツキをかばうのかって言ったでしょ?」
「うん⋯」
「ミツキと私と律斗さんは短い間だけど家族みたいに暮らしてたの。一緒に海に行ったり、お祭りを楽しんだり⋯」
「でも⋯VAなんでしょ? 一緒って?」
「そうね、その時のミツキは熊の人形に入ってた。逆に私達が向こうに行ってミツキに会える研究とかもしてて」
「ふう⋯ん」
母親の過去をきちんと聞くのは初めてだった。
私が物心ついた頃にはもう海外を飛び回っていたから、両親がそうして青春を過ごしていた話は、現実感が無い。
「ミツキが消えそうになった時、律斗さんは一緒に向こうに残ろうとまでして」
「え、それじゃ私は⋯もしかすると産まれなかったかもって事?」
「ええ、でも⋯多分、私の為に律斗さんは戻ったの」
「そうなんだ⋯」
「でもね、私も律斗さんもまだ諦めて無いの。それくらい大事な⋯家族だった⋯」
母親の鼻をすする音が聞こえた。
もしかして泣いてる??
普段、あんなにハツラツとしているこの人にもこんな一面があったのか。
「香澄には迷惑かけるけど⋯もう少しだけ時間をちょうだい」
「分かった。ミツキが変な事しないって約束するなら」
「伝えておくわ」
「ん⋯それじゃ寝るね⋯」
そう言って私は再び目を閉じた。
作者のやる気は イイね や 感想 で出来てます(笑)
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