私達のポリシー
読みやすく、面白いラノベを目指して書いてます。
※本連載は横書きに特化して書いています。
その少女が放つ威圧感は桁違いだった。
姿を見るだけで息が苦しくなる。
まるで重力が増したように体が重い。
「あ、貴方は⋯何者なの」
何とか体を起こさないと。
彼女は敵だ。
それも今までのどれよりも強力な。
「名を尋ねるなら、まずは名乗るが礼儀よな、下女が」
そう言って彼女は軽く腕を振る。
それだけで私はいきなり数メートルも吹き飛ばされた。
何?
風圧?
念力?
予想すらつかない“力”だ。
「あぐっ」
そのままもんどりうって地面を転がる。
「香澄っ!」
晴人が駆け寄り私を抱いて庇う。
「ば、バカ、逃げなよ⋯」
駄目だ。晴人ではあの力に耐えられない。
「んな事できるわけ無いだろ!」
晴人は更に強く私を抱き締めた。
こんな時なのに少し嬉しい。
でもこれじゃやられる!
思わず目を閉じた。
「姫、陸の人間を傷付けるのは禁忌」
校門の所から聞き慣れた声がした。
長い銀髪、白い制服、深紅の瞳の少女が立っていた。
「七海!?」
「話を聞いて、急いで戻って来た」
言いながら七海は私の傍らまで来ると、黒い少女に向き合う。
目に見えないが、七海と黒い少女は互いに結界の様な物を展開している様だ。
さっきまでの重圧が幾分収まった。
「姫、久しぶり」
「七、話は聞き及んでおる。陸の男に懸想して名を貰ったとね」
「姫こそ、いつの間に軛から逃れた?」
「ふん、そこの男がな」
黒い少女はチラリと細田を見た。
七海も合点が行った様に頷いた。
「なるほど⋯馬鹿なことを」
私は隣から七海にひそひそと尋ねた。
「あのさ⋯姫って?」
「こっちの名前だと⋯乙姫⋯かな」
「え? 浦島太郎に出てくる、あの?」
「まぁ、大体そう」
七海は黒い少女を睨みながら頷いた。
「だって乙姫って、竜宮城で歓迎してくれるんじゃ?」
「それは嘘。幻覚」
「え?」
「海の中で人間が暮らせるはず無い」
「それは、そうだけど⋯」
だとすると、浦島太郎は乙姫と何をしたの⋯?
確か最後に陸へ帰る時、浦島は⋯。
「え、待って、それ」
微かに声が震えた。
「玉手箱を開けたら何が起こったか分かる?」
「それは⋯一気に年寄りになって⋯まさか⋯」
「そう、それで幻覚が解ける。用済みになった男の末路」
「乙姫って⋯人の命を吸い取る⋯の?」
七海は頷いて倒れた細田に目線を送る。
カサカサに干からびてミイラのように成った男がそこに倒れていた。
「それは⋯私達も同じだけど」
「え?」
言われて気が付いた。
七海は父親の命を食べると言った。
私は晴人から力を貰った。
それは間違いない。
「待ってよ、同類って、私も?」
七海に言われた言葉が蘇る。
“香澄は人間じゃない”
私があの化け物と同じ?
その一言に、まるで地面が無くなったような絶望に襲われる。
あれと⋯同じ?
ブワッ!
そこへ、漆黒の風刃が私達の間を切り裂いた。
「⋯眷属の礼はさせて貰わねば⋯の」
乙姫はゆっくりとこちらに向かって歩む。
同時に多数の風刃が私達を襲う。
動揺していた私は、一瞬反応が遅れた。
パキパキッ!
七海が無数の氷の壁を瞬時に生成し、風刃を食い止めた。
しかし、次々と繰り出される風刃に、幾重にも重ねた氷壁がみるみる削り取られる。
「愚かな。惚れた男の為に全力を使わぬのかえ?」
乙姫は氷壁越しに七海を睨む。
2人は互いに相手の実力を知っているようだ。
「私、あなたと違って身持ちが固いから」
「くっ! この⋯無礼者がっ」
乙姫は七海を氷壁ごと力任せに吹き飛ばした。
飛ばされた七海は、まるで猫の様に空中で半回転、体勢を整え着地。
すかさず無数の氷の矢を生成して乙姫に撃ち込む。
ガキキキキン!
繰り出される無数の氷の矢だが、乙姫の目前で砕かれて届かない。
見えない障壁がそこにあるらしい。
「私は、律斗と繋がった事、後悔してない。香澄は違うの?」
七海は複雑に移動しながら次々と氷の矢を撃ち込む。
「それは⋯私だって」
「なら、私達には違う答えがあるはず」
「!?」
七海は父親の命を守る為に力を抑えてる。
私だって晴人を傷つける事なんて絶対にしない。
乙姫と私達はその在り方が違う。
そうか。
どうするかじゃない。
どう守るか、なんだ。
躊躇わないで良いんだ。
「晴人っ! 力、ちょうだい」
「! 分かった!」
聞くやいなや、晴人は唇を重ねてきた。
いや、違うって!
ここじゃなくて!
離れないと乙姫に攻撃される!
攻撃される⋯!
され⋯⋯あれ?
されない?
唇を離して見てみると、乙姫は真っ赤な顔で震えていた。
「せ、接吻⋯接吻をこんな、こんな所で? 人目もはばからずに?」
言いながらわなわなと震える。
「え?」
「こ、こんな人前で⋯恥知らずな⋯でも⋯」
そう言いながら両手で真っ赤になった顔を覆った。
しかし指の隙間からチラチラとこちらの様子を伺っている。
あれ??
試しにもう一度、軽く晴人と唇を重ねた。
「きゃっ、駄目っ!」
乙姫が黄色い声を上げる。
えーーと? これは??
「あのさ、晴人⋯」
私は晴人にある事を耳打ちした。
「え、そんなの効果ある?」
戸惑う晴人。
「良いから、やってみて」
晴人は乙姫の前に進み出ると、じっと乙姫を見つめた。
「そ、そなたは⋯?」
「僕は須藤晴人」
「は、晴人⋯殿?」
乙姫の瞳が潤んでいた。
「話を聞いてくれる?」
乙姫はコクコクと頷く。
「と、殿方がこんなにこんなに近くに! 私はっ⋯」
うわ言の様に呟く乙姫。
晴人は乙姫に近づくと顎に軽く手を添えた。
乙姫は抵抗しない。
「乙姫、僕は人を傷付けるひとは嫌いなんだ」
「は、はい、はい⋯」
とろんとした表情で晴人を見つめる乙姫。
⋯やっぱり。
七海が父親に惚れたのなら、晴人の魅了も女性の魔物に効くはず。
その考えは正解だった。
晴人は乙姫の髪を優しく撫で、耳元に囁いた。
「ほら、良い子だから力を抜いて⋯」
「は、はいぃ」
だらんと力を抜いて棒立ちの乙姫。
もはや晴人の言いなりだ。
⋯ちょっと癪に障るけど。
その様子を見て、私は七海に目配せをした。
「隙ありっ!」
乙姫の背後に回った七海は、乙姫に飛びつき、鋭い針の様な物を首筋に刺した。
「え? ああっ! 嫌、きゃああ!」
乙姫は悲鳴を上げながら座り込んだ。
モヤモヤと水蒸気の様な、煙の様な気体が噴出し、辺りを取り巻く。
数秒後、気体が晴れた後には小学生ほどの姿に成った乙姫が倒れていた。
「しまった、力が足りなかった」
七海が悔しげに倒れた乙姫を見る。
「どうなったの?」
私も倒れた乙姫を見る。
意識を失っているようだ。
「魔力は封じた。ただ本体を完全に封印するには力が足らなかった」
七海は唇を噛んだ。
「え、どうするの?」
「もう普通の子供と変わりない。放置しても大丈夫」
「放置って。それは流石にまずくない?? 普通の子供なら、なおさら」
七海は溜め息をつくと子供に成った乙姫を抱き上げた。
眠ったその顔を見ながら呟く。
「じゃあ仕方無い⋯乙姫にしようか」
「え、ちょっと、まさか?」
「須藤乙姫」
「名前を付けちゃった」
七海は父親から名前を貰う事で一緒に暮らせる様になったと言う。
つまり⋯。
「妹がまた増えてよかったね、香澄、晴人」
「「嘘ぉーーー??」」
校庭に私と晴人の声が響いた。
作者のやる気は イイね や 感想 で出来てます(笑)
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