七海の特訓
能力のことで香澄は七海に特訓を受けます。
「さ、さすがに寒くない?」
私は思わず足をばたつかせた。
早朝の海。
まだ太陽は低く、海は紺色から蒼へと色を変えつつ、静かにたゆっている。
私は七海に叩き起こされて、この場所に連れてこられた。
浅瀬とはいえ、初秋の海に膝まで浸かれば、足先から冷えてくる。
「女の子に冷えは良くない⋯」
そう言いかけて目前の七海を見ると、彼女は太もも近くまで海に浸かっていた。
「寒くないの?」
「別に」
「そ、そう⋯」
実は昨晩、父親から七海に関して一通りの事を聞いた。
出会った状況や予知能力、そして時間の巻き戻しまで⋯。
聞く限りの内容だと、七海は人間どころか神に近い存在とさえ思える。
でもそれと、目前にいる少女の姿がどうしても結び付かない。
「七海って⋯」
思わず尋ねた。
「ん?」
「神様なの?」
「とんでもない。多少、律斗の未来が見えるだけ」
「父親限定?」
「そう。繋がったのが律斗だから」
七海から何度か聞いた、“繋がる”と言う表現。
私が想像するような物じゃない、といわれたけど⋯やはり気になる。
「その、七海って父親の事、好きなの?」
「ん⋯好きではなくて⋯美味しい?」
少し悩みながら七海は言った。
「た、食べるの?」
「霊力的に。お菓子みたいなもの」
「え、霊力を食べられた父親って⋯悪影響とか⋯?」
「ある」
「あるの!?」
思わず声が上がった。
「食べた分だけ、命が薄くなる」
「それはヤバくない?」
「ヤバい。だから律斗が本当に必要な時しか食べない」
「そうなんだ⋯」
七海も父親に悪影響を与える気は無いらしい。
それは少し安心した。
「だから普段は舐めるだけで我慢してる⋯」
「舐める⋯だけ?」
「そう。それくらいなら問題無いから」
言いながら七海は切なそうな表情で指先をチロリと舐めた。
「⋯⋯えと、つまり好物のケーキを一度に食べると無くなっちゃうから、一欠片だけ食べたり、匂いを嗅ぐだけで我慢している様な物?」
「まぁ、そう」
当初、話を聞いた時には父親が七海に取り憑かれているのかと心配したけど⋯⋯これって逆なのでは⋯。
「もう一つ聞くけど⋯」
「ん?」
「父親以外の相手じゃ駄目なの?」
「駄目じゃないけど⋯」
「うん?」
「律斗が一番美味しい。他とは比べ物に成らないくらい」
やっぱり。
少し切なそうな七海の表情を見て私は確信した。
あの父親、人間どころか七海の様な存在まで惹きつけてる⋯。
「ハーレム体質か」
私は呆れながら、こぼした。
「ん?」
「ううん、何でもない」
でもその事を七海に言うのはさすがに気が引けた。
「そう? で、大丈夫?」
七海が海面を見ながら言った。
「え、何が?」
「海、冷たく無いでしょ」
「え、あれ、本当だ!」
言われてみれば、さっきまであれほど冷たいと感じていた海の冷たさを感じない。
正しくは、感じてはいるけれど、それが気にならない。
「私の力を継いでるのだから、当然」
「そうなの? さっきまでは⋯」
「香澄が冷たいと思っていたから、冷たかった」
「暑さ寒さも気の持ちよう、って事?」
「大まかに言えば。例えば⋯」
七海は海水を少し手に汲んで、私に見せた。
目前でその海水が湯気を上げ、沸騰を始める。
「え、こ、これって!」
「熱いと思ったから熱くなる」
「魔法にしか見えないけど⋯」
「香澄にもできるはず」
「嘘ぉ?」
「やってみて」
「え⋯これは無理でしょ」
言いながらも私も試しに海水を少し手に取ってみた。
「これ?」
「そう。それはお湯なの」
真剣な表情で七海は言う。
「海水⋯でしょ?」
「でも、お湯。そう考えて」
「そんなぁ」
「気持ちの問題。目を閉じてそう信じて」
「う、うん⋯」
言われて私は目を閉じた。
これがお湯?
いや、海水だよね?
あ、でもずっと手で触れてるから、その位には温まるかも?
体温って36度位かな⋯?
「うん、温かくなった」
そう言われ、目を開く。
私の手に汲んだ海水から僅かに湯気が出ていた。
「お風呂くらいかな」
そのお湯に指を突っ込んだ七海が言った。
「本当?」
「どう考えた?」
「えと、手で触れてるから、体温程度には成るかなって」
「なるほど。今はそれで良い」
「これ、何の役に立つの?」
「雪山で遭難した時にお風呂が沸かせる⋯とか」
「び、微妙」
「使い方は自分で考えて」
「分かった」
私は手のお湯を海に溢しながら言った。
「効果はどのくらい集中できるか次第」
「周りを気にすると、駄目?」
「そう。だからここが良い」
「なるほど」
つまりは人目が無くて、周りに迷惑をかける心配が無い場所が精神集中できるから良い、と言う事かな?
「これからも練習してみて」
「うん」
「そうすれば電気も、もっと使いこなせる様になる」
「そうなの?」
「自分の事を自分で理解できれば、色々できる」
「それが難しいんですけど⋯」
私は困惑しながら言った。
ここ数日の出来事で余計に自分自身が掴めなくなっている。
自分って何だろう?
「固定概念、邪魔」
七海は溜め息をつきながら言った。
「そうは言われても⋯」
「香澄は香澄。普通はこうとか、他人がどう、とか関係ない」
「言ってる事は分かるけど」
「あえて言えば⋯」
「うん?」
「香澄は人間じゃない」
「あうっ!」
ここ数日、内心悩んでいた事をストレートに言われてしまった。
意外と精神ダメージ大きいんだけど⋯。
「それ、人間失格みたいで嫌ぁ⋯」
「悪い意味じゃない。むしろ良い意味」
「そうかもだけど⋯」
「あ、そか」
突然、七海は手をはたと打った。
「なに?」
「香澄も晴人のこと舐めればいい」
「な、なんで??」
「晴人も結構、美味しいから」
そう言われ、七海と会った初日に私達が舐められた事を思い出した。
「い、意味が⋯」
そう言いかけて気が付いた。
「もしかして、晴人と繋がれ、と?」
七海はニコリと頷いた。
「そしたら香澄も自分の良さが分かる」
え、待って。
舐めるって何処を?
どうやって??
でもそれって、人外確定なのでは。
でもでも晴人なら姉弟だし⋯。
七海の言葉に触発されて晴人との様々なシチュエーションが頭の中を駆け巡った。
だ、駄目だ。
考えすぎて目が回る⋯。
足に力が入らない⋯。
「はにゃ〜」
悩みすぎて思考がオーバーフローした私は、遂に海に倒れ込んでしまった。
ブクブクブク⋯。
「香澄、大丈夫?」
遠くに七海の声が聞こえた⋯気がした。
作者のやる気は イイね や 感想 で出来てます(笑)
ここまで読んだらもうひと手間、評価をポチっと!
宜しくお願いします。
ぜひぜひ御意見、お聞かせ下さいませ。
気に入った部分だけでは無く、ここが“読みにくかった”“分かりにくかった”も、とても参考に成ります。
感想書いて下さる人には本当に感謝です。
また、連載形式で数日ごとアップしますので、読み逃し無いようお気に入り登録も宜しくです。
他にも小説家になろうに色々作品アップしてますので、良かったら見てみて下さい。
ファンタジーからSFまで色々揃えてます。
ちょっと不思議なラブコメ「幼馴染がいろいろおかしい」
https://ncode.syosetu.com/n2628lw/
ドタバタ異世界転生「社畜リタイア求職中が異世界転生でお姫様と出会って結婚する話」
https://ncode.syosetu.com/n2774mh/
ミステリー探偵物語「ファインド・アイズ」
https://ncode.syosetu.com/n3869lm/
ファンタジーラブコメ「ウチの弟が弟じゃない」
https://ncode.syosetu.com/n4758lk/
近未来アイドル「えれくとろんあーく」
https://ncode.syosetu.com/n6524ld/
近未来アイドル第二弾「神崎涼花の逆襲 〜えれくとろんあーく2〜」
https://ncode.syosetu.com/n7959li/
ファンタジーバトル「リサイクルショップで手に入れた杖がとんでもない魔道具だったせいで魔導争奪戦に巻き込まれた(冥界送人改題)」
https://ncode.syosetu.com/n1995lg/




