香澄、戸惑う
遂に学園祭当日。
香澄達のメイドカフェ、開店です。
ドタバタと準備をしていれば、日にちはあっという間に経ち、今日は学園祭の当日。
学校の正門には看板が取り付けられ、校庭には幾つかの模擬店が開店準備を進めている。
「うえ、まさかこれ全部?」
登校して教室前の廊下を見た私は思わず声を上げた。
私達のメイドカフェ前の廊下には、既に入店待ちの生徒が長蛇の列を作っていた。
「あ、香澄。来たね」
「まだ開店まで30分もあるのに?」
「もっと増えそうだよねぇ」
先に登校していた茜が嘆息しながら答える。
「衣装の事がいつの間にか広まったみたいでさ⋯」
教室に入った私を茜が迎えた。
「まぁ、これだけ可愛ければね〜」
既に着替えを済ませた亜梨沙が、その場でクルッとターンして見せた。
尊とお母さんが作ってくれたメイド服は、確かに出来が良い。
それぞれに合わせて作ってくれたから、サイズもぴったりで綺麗なシルエットを描いている。
「お披露目の後、結構校内で話題になってたからね」
「他校の娘にまで聞かれたよ〜」
目立つのが好きな亜梨沙は嬉しそうに言った。
「いつの間に⋯」
まぁ、女子の噂の足が速いのは今に始まった事じゃないけど。
「他校の生徒とか、もう校門前に並んでるらしいよ」
「マジか⋯」
「それより、食材足りるかな」
茜が人数を確認して言った。
どんなに客が見込めても、飲料や食材の購入は前払い。
高校生の身では用意できる量にも限界がある。
「ワンメニュー、ワンドリンク限定でも厳しそう?」
「まぁ、やる所までやって、食材尽きたら本日閉店だね⋯」
茜が言った所で、壁のスピーカーから放送が流れた。
『学園祭、只今より開始しまーす』
それを聞いて一斉に店内になだれ込もうとする客を、茜が押し留める。
「順番に席にご案内しまーす。入り口前でお待ち下さーい」
慌ててクラスメイト達も列整理を始める。
私も並んだ客に向いた。
「いらっしゃいませ! お席にご案内しまーーす」そう言って、最初の一組を奥のテーブル席へと案内する。
これから大変だぞこれは⋯。
ごった返す廊下を見て気合を入れ直す私だった。
「おいしくなーれ、萌え萌え、キュン」
開店から2時間ほど。
私はもう何度目か分からないポーズをテーブルに向かって決めた。
「えううっ!」
途端、テーブルに座っていた男子生徒は奇妙な声を上げて両手で鼻を押さえた。
その指の間から、ポタポタと数滴の血が落ちる。
「だ、大丈夫ですか、ご主人様?!」
私は慌ててテーブルナプキンを渡す。
男子生徒はそれを鼻にあてて立ち上がった。
「だ、大丈夫です⋯」
言いながら代金をテーブルに置き、そそくさと席から離れる。
そのまま急ぎ足で店を出て行った。
「あ、ご主人⋯行っちゃった」
みるみる遠ざかるその影。
そこへ尊がダスターを持って現れた。
「また一騎撃破か」
そう言いながら赤いバラの造花を一輪、壁に追加する。
壁に飾られたバラはトータル25輪。
「2時間足らずで25騎撃破、見事だ」
「撃破とか人聞きの悪い事言わないでよ⋯」
つまりこのバラは、『私が給仕したら、何故か席を立ってしまった』人の数。
ちなみに反対側の壁には白いバラが9輪。
これは七海が『撃破』した数だった。
「あのさ⋯」
「なんだ?」
「メイドカフェって、客の撃墜数を競う店だっけ?」
「多分ね」
「嘘ぉ」
「まぁ、店としては回転率が上がるのは助かる」
「良いのかなぁ⋯」
私がもう一度壁のバラを見返した。
その私にスマホを持った茜が声をかけた。
「香澄、オムライスあがったって」
「ん、んじゃ、取ってくる」
私はそう言って教室から廊下に出た。
途端に、
「うおおおお?」
「来た!」
「凄え!」
「香澄ちゃーーん」
途端に廊下に集まった男子生徒達が歓声を上げた。
この生徒達は、店に
並ぶのを諦めて時折廊下に出る私達を一目見ようと集まった野次馬だった。
「あ、こんにちは〜」
野次馬に軽く愛想をしてから、ロープで区切られた廊下を早足で歩く。
目指すは3部屋向こうの家庭科室だ。
あまりの野次馬の多さに学園祭の実行委員に相談した結果、廊下をロープで半分に区切り、彼らは教室から離れた窓側に押し込められている。
その前を通って家庭科室に到着した私はドアを開け、中に駆け込んだ。
今度は家庭科室を覗き込む廊下の女生徒達から、黄色い歓声があがった。
「晴人くーん」
「こっち向いて〜」
「こっちもー」
そう、晴人はここ、家庭科室で調理を担当していた。
確かにここならガスも使える。
しかも、まな板や調味料等一通りは揃っている。
もちろん、その間、調理部の顧問の先生の在室が条件だ。
何故か晴人は調理部に話をつけて、家庭科室使用の了解を取りつけていた。
「はい、オムライスっ!」
晴人は 手早くフライパンから皿に盛り付け、目前に置いた。
趣味で料理を嗜むだけあって、見事な出来だ。
「はいよっ」
私は傍らのトレーにオムライスを乗せ、受け取る。
なにせ、店はフル回転の状態だ。
一刻も早く戻らないと⋯。
「うおっ!」
テーブルのトレーに手を伸ばした私を見て、晴人が短く声を上げた。
「え?なに?」
「い、いや、その⋯」
「忙しいんだから、早く」
「迫力あるな⋯と」
言いながら晴人は慌てて私から目を背けた。
まぁ、その態度に思い当るのは一つしかない。
「む⋯⋯スケベ」
腕で胸元を隠すポーズ。
まぁ今更ではあるのだけど。
「いや、そんなもの見たら⋯健全な男子なら誰でも声出る」
「こら、そんなものとは失礼な」
「別に悪い意味じゃない⋯けど」
「なに、じゃ、喜んでるの?」
「微妙⋯」
「なんでよ?」
「他人に見られるのはあまり⋯」
「いっちょまえに嫉妬?」
「そ、そう言う訳じゃ⋯ない⋯と思う」
晴人はだんだん声が小さくなる。
と、いけない、早く店に戻らないと。
晴人をからかうのが面白くてつい⋯。
「余所見してないで、キッチン頑張りなさいよ」
私は言いながらトレーを持ち、ドアに向かった。
「分かってる」
「頑張ったら⋯ご褒美に後でメイド姿位、いくらでも見せてあげるから」
「マジ?」
「頑張ったらね!」
そう言い残して、私は家庭科室を出た。
晴人が戸惑って居るのが目に浮かぶ。
と言っても、実は私も戸惑っていた。
な、なんであんな事言ったんだろ?
キッチンで頑張る晴人を励ましたいって思ったのは確かだけど。
まぁ、メイド姿位で晴人が喜ぶならそれはありだな⋯恥ずかしいけど⋯。
なんか最近、自分自身が分からなく成ってゆく私だった。
作者のやる気は イイね や 感想 で出来てます(笑)
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