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×1アラサーダメンズメーカーが幸せになるまで 〜魔法使い予備軍の奥手男子に溺愛されて幸せです〜  作者: 佐藤真白


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新生活

「共有財産」

共有財産とは、婚姻期間中に夫婦が協力して築き、名義を問わず離婚時の財産分与の対象となる財産を指します。預貯金や不動産、車、保険解約返戻金などが典型例で、婚前の財産や相続・贈与で得た個人の財産は通常含まれません。


「ミニマリスト」

ミニマリストとは、*持ち物や情報、人間関係などを自分にとって必要最低限に絞り込み、本当に大切なことに時間とお金を集中させて暮らすライフスタイル*を指します。大量消費を前提とせず、身軽さと心の余裕を重視する生き方です。



「不労所得」

不労所得とは、*自分が継続的に働かなくても、資産や仕組みから定期的に得られる収入(家賃収入・配当・利息・著作権料など)*を指し、多くは初期の資金・時間・知識が必要で、リスクや税金にも注意が要ります。




働きたく無い。誰だって一度は考えるだろう。

必要な物だけでするシンプルな生活。それも自分にあった生活ならば素敵なライフスタイルだ。

でもそれを強制強要されたものだとしたら?納得していない生活だったなら…


そして共有財産だからとお金を管理される生活は想像出来ますか?



少し駆け足だけれど、私の身に起きた理不尽をお見せしましょう。






結婚してから少し経った。新生活の為に私達はお互いの賃貸から中間の距離の部屋を借りた。家賃は彼の会社からの補助で半額程である。


「俺はさ、一般人で終わる器の男じゃないんだ!」

彼は常々そう言っていた。夢があると本当に少年のような無邪気な顔で笑いながら語る。



ある休日のことだった。

「俺は雇われのサラリーマンなんて馬鹿のやる事だと思ってる。俺は不労所得で働かなくていい生活をしたいんだ!

まずどうしたらいいと思う?」


私は真面目に働いて稼ぐ事程堅実な生き方しか無いと思っていた。農家なんて家業の元で育った私は天候次第で収入の変わるのはなんともギャンブルのように感じていたのだ。豊作でも価格が下がって収入は減るし、凶作や台風被害などで負債が増える事もあった。だから一定金額を確実に手に入れられるならそれ以外なんて考えた事もなかった。



「副業…とか?」

「あやは、本当に素直なおバカさんだよね」

彼は呆れたように笑って私の頭を撫でる。


「そんな事したら余計に仕事するだけじゃん。答えは簡単。生活の質を下げればいいんだよ。そして余剰金を使って運用して生活する。食料は自給自足でなんとかしながら株とか家賃収入で暮らすのが俺の夢なんだ」


正直、この人は何言ってんだ?と思った。賃貸経営するのには物件がいる。今住んでいるここですら賃貸なのに何を言っているんだと本気で考えた。生活の質だってどうやって落とせばいいと言うのだ。TVだって入籍前にゲームをするために大っきいのが欲しいと言って買い替えたばかりだし、若いうちしか出来ない最高の俺のファッションがきっとあるんだと言って散財していたのは裕祐だ。私はそこまで自分にお金をかけてはいない。

多趣味な彼に付き合って「やった事のない事をやらないのは人生損してる。やってから後悔がしたい!」との彼の言葉に従って色々と趣味のものを買い込んだくらいだ。


因みに買い込んだものはスノーボード用品、サーフボード用品、テニス用品、ランニング用品、登山用品、キャンプ用品、ゲーム用のパソコン、カメラ、バーベキュー用品、サバイバルゲーム用品、コスプレ用品、メイク用品、釣り具、画材、バイク用品(免許込み)にダイビング用品等々…あとは小型船舶の免許を取るための資料なんかも取り寄せていた。


あれ…あげだすと馬鹿みたいに沢山あったな…


それもやるからには妥協したくないといって良いものを買わされた。しかも自分の分もしれっと新調していた。


付き合っている時から増えに増えたそれらはかなりの荷物で引っ越した新居の2部屋を占拠する程あった。

それらの金は私の独身時代の持ち出しだ。でもそれを不思議に思いつつも私は言い出せなかった。

「いつかは夫婦になるんだし、そうしたら俺が養ってやるんだからさ」

口癖のように言う彼。出さない私がさも悪いように言われ続けて感覚が麻痺していた。


「具体的にはどんな生活がしたいの?」

彼は私の質問に待ってましたと言わんばかりに答えた。


「断捨離をしてミニマリストになるんだよ!」


…何を言っているんだコイツは?そんな風にポカンとする私を彼は話を聞くためにあえて何も言わないと勘違いしたのか語りだす。


「まず、キャンプ用品を毎日使わないのは勿体無い。キャンプに行く時間も無いから毎日家でキャンプをする。そうすればキャンプ用品は不要じゃないからね!」


⁈何を言っている?私は理解が出来ない。


「冷蔵庫だってもっとシンプルにするべきだ。こんなにでかいのは電気代がかさむし、必要無い。電子レンジだってオーブン機能とかは要らない!キャンプ用品でダッチオーブンとかあるしね。あと炊飯器も要らないな。飯盒もあるから」


今言われた家電は私が独身時代から愛用していた物達だった。だって私の趣味は料理だったのだ。現在はサラダチキンに茹で野菜、豆腐と鶏胸肉のハンバーグ、豆腐ステーキなどをローテーションで食べているけれど、その前までオーブンでケーキを焼いたり、ローストビーフを作ったり…最近は出来ていないけれどダイエットが終わればと思っていたのに…


「キャンプ用品の寝袋とマットレス使えば布団も要らないよね。俺のベットは捨てよう!あやが使ってた羽毛布団も要らないよね?この前買った寝袋高かったけどその分真冬の氷点下仕様だし。この際だから床のラグも人工芝に切り替えよう!それでテントも家の中に常設したら楽しいよ。あやが使ってたコタツテーブルはそうなると雰囲気に合わないから処分して、その分キャンプテーブルのローテーブルになるやつを買い直そうか」



私の頭は混乱し続け言葉を発することが出来ない。





「服も要らないね。長袖と半袖がそれぞれ3着もあれば大丈夫でしょ?洗濯の時間が勿体無いから、時間を買う為にドラム式の洗濯乾燥は買おうか。そういうところにお金かけてこそ一流の漢だとおもうんだよね」


私の家から持ってきた縦型の洗濯機は処分されることがもう決まった。私が趣味で買っていた甘めのフリルの付いた服達ともさよならをしなければこの生活は出来ないらしい。


そもそも生活が一変するのだ…


それから彼は嬉しそうに今後の構想について話していく。


「無理だよ!そんな生活したくて結婚したわけじゃないし、そもそもそんな生活私は望んでない!好きな服だって着たいし、料理だってしたい。柔らかい布団でだって寝たい!私はお気に入りの家具に囲まれて生活したい」


私が反論すれば途端に不機嫌になった。


「あや?どうしてそんな聞き分けのない事言うの?そんなんだからあやの心は満たされ無いんだよ?子供みたいに物に執着して、心の豊かさを蔑ろにして自分に正直になれないなんて人生損してる。俺が今、あやが変わるためのきっかけを与えてあげてるのになんで喜んでくれないの?それにキャンプ用品だって俺にとったらお気に入りの家具だよ。最高じゃん」


何で私が責められているのかが分からない。

その後何度抗議してもおかしいのは私だと責め立てられる。


「せっかく物を減らすんだから、その分家に置くものは最高のものにしよう!そうすれば少ない物でも自分を高めてくれるよ!あっ、購入資金はあやの実家から貰ったご祝儀から出せよな。せっかくあやのじーちゃんばーちゃんがあやの為にって用意してくれた金なんだからこう言う時に使ってやらないとな!」


祖父母から貰ったご祝儀は婚姻届を提出する前に渡された物だ。金額も300万も入っていた。両親からも貰っていたけれど、此方は裕祐が受け取っていて金額を聞いても教えてはくれない。因みにだけれど、彼の家からのご祝儀は無かった。二回目の結婚だからと夫婦箸と夫婦茶碗を貰っただけで他は何も無かった。

少なくないご祝儀だったので私は祖父母へ花嫁姿を見せる事で返したいと考えていたのに…


「ちょっとまって?どうしてまだ使える物ばかりなのに買い替えるのよ!それに何で私のお祖父ちゃんたちからのお祝いを使わなきゃいけないの?私はこのお金で小さくてもいいから結婚式を挙げたいって思ってたのに!」


「あや、結婚式なんてたった一日の為に何日も費やしてお金だけが飛んでいくただの無駄なイベントだよ?そんな無駄なものに金をかけるくらいなら日々の生活にお金をかけるべきだ。あやは本当におバカさんだよね。だからあやは俺の意見だけ聞いてれば幸せにしてあげるよ」


結婚式も拒否された。大きな披露宴なんて考えていない。ただ両親や祖父母に感謝を示したかった。その想いすら踏み躙られた。それに望んでいない一方的な生活の変更に対する意見は平行線を辿った。


最後に彼は言った。

「あやに新生活準備は難しそうだから俺がやっておくよ。それに、俺はやってみた先で後悔して納得したい。だから一度だけで良い。俺のやりたいようにやらせてくれ。俺は本当は馬鹿だから、やってみないとわかんないんだよ!頼む」


疲れ果ててその日は私は物置部屋で眠った。



翌朝、既に彼は家には居なかった。

宣言通りリビングの中央にはキャンプテントが建てられていた。

冷蔵庫の中身は出され、電源は抜かれていた。入れられていた調味料はゴミ箱に投げ捨てられていた。友人からのお祝いで貰った少しお高い特注の冷凍ケーキもその中に入っていた。

どうせダイエット中で食べないから無駄だとでも思ったのかもしれない…


私は何を間違えたのか分からない。拒絶も反対意見も全て出したのに私の意見は聞き入れて貰えない…。感覚が麻痺する。彼の言う通りにしなければ捨てられる…新婚早々に捨てられる惨めな女になんてなりたくない…

また私の目の前から不誠実に逃げられたくない…


私は涙を溢しながら冷蔵庫の結露を拭った。



そうして少ししたら玄関扉が開いた音がした。

帰ってきた…心は少しばかり沈む。


「おっ、片付け手伝ってくれてたんだな。良い子だな。やれば出来るじゃん」


「どこ行ってたの?」


「えっゴミ出しだけど?それにしても、あやもちゃんと分かってくれて俺は嬉しいよ。最高の生活をしような!あの後考えたんだけど、結婚式も挙げてやるよ。それであの金は俺たちのものなんだろ?予算は五十万もあれば十分だろ?それ以外を新生活に回すぞ」



「えっ、本当?結婚式やってくれるの…?」


彼はニコニコと微笑んだ。

私は結婚式を彼が受け入れてくれた事が嬉しくてそれ以外が正直どうでも良くなった。

これで両親や祖父母を安心させてあげられる…


良かったと思うと何故か泣けてきた。


その日は和解のお祝いにと彼の奢りで外食をした。久々に食べるチェーン店のカツ丼の温かさに涙ぐむ。人が作ってくれたご飯って美味しいな…揚げられたカツもご飯も久しぶり…。


「結婚式あげるならさ、もっともーっと痩せなきゃな!あやはデブだからあと7キロは落とさないとドレスなんか着られないぞ。ああ言うドレスって細ければ細い程綺麗だから」


えっ?何をいってるの?

私だってダイエット開始から4キロ近く痩せた。最近はジムにも通って走ったりしている。

何よりドレスを着た人を身近でみた事があるような言い草だ。彼には男兄弟しか居ないから姉や妹という可能性はないし…もしかして…


「それって前の奥さんと比較してる?」

思いの外低い声が出た。彼は途端にしまったと言ったら顔になり、目を泳がせた後に不機嫌になる。


「そうだよ。前の奥さんだった澪はめっちゃ細かった。だからドレスもめっちゃ似合ってた。でもあやはデブだからそもそもドレスなんて似合わないだろ?だから結婚式なんてやりたくないんだよ。隣に立つ俺まで品性疑われたくないから。だから今より最低5キロは痩せないと結婚式は無しだからな」


私はギュッと自分の拳を握り込む


「前の奥さんとは結婚式したんだね。知らなかった」

「写真だけだよ。今回はお前の我儘に付き合って家族呼ぶんだぞ?何が不満なんだよ」


これ以上彼を不機嫌にしたくなくて私は「ごめん、何でもない」と言葉を飲み込んだ。



家に帰れば、断捨離を迫られた。ジュエリーケースにはメモ貼りで処分と貼られていた。

服も既にゴミ袋に詰められていた。似合う服は俺が選んどいたと豪語された。こうなっては私の着たい服など残す事は出来ないだろう。

私が寝ていた物置部屋に残されていた趣味のもの達と共にそれらを積み込んでリサイクルショップへと行った。

金額は大した金額にはならなくてちょっと笑えた。ここまで揃えるのに総額で100万以上はかかっているのに、手元に戻ってきたのはたったの数万円だった。


私が一つ一つ荷物を見て、ゴミ袋へと放り込む間に彼は目当てのの家電を買いに行った。




私は彼に逆らえない…だって惨めな女になりたくないから…

愛しているからじゃない…結局私は周りの目が怖かったのかもしれない。




翌日は体のあちこちが悲鳴を上げるほど痛んだ。

裕祐の性欲はとても強い。私が生理だろうと喧嘩中だろうとお構いなしで組み敷かれる。それも今までは布団の上だから耐えられたんだなぁとぼんやり思う。


昨夜から布団は封印された。次の粗大ゴミの日に出される事だろう。

私はキャンプ用の薄い敷物の上で彼の欲を受け止めた。

流石に彼も体が強張ったのか「いいエアマット買うか!」と自分の理想に近づいた部屋で嬉しそうに語っていた。



私はそんな彼を横目に出社の支度を始める。結婚を期に部署が変わった。今までは本社だったけれど今日からは新居から1番近い支店の営業だ。月替わりで週替わりの今日が移動先の支店への初出社日となる。気合いを入れる為にお気に入りのブラウスを取ろうとクローゼットを開けて、そのすっからかんな中身に現実に引き戻される。

残されていた私の好みとは少し違うサーモンピンクのブラウスにジャケットを羽織る。


しっくりこない。でも彼はそんな私をみて上機嫌だ。

「やっぱりピンク系の色っていいよな!三割り増しで可愛く見える。やっぱ俺のセンスはいいよな!」


曖昧に笑って私は仕事へと向かった。



「おはよう御座います。本日からお世話になります、葛山綾音です。以前は本社のデザイン企画部におりました。対面販売の現場は初めてですのでどうぞよろしくお願いします」


「うん、大丈夫そうだね。葛山くんはじゃぁ、徳丸に付いて学んで。彼も本社からこっちに学び組だから。徳丸よろしくな」


店長に言われて徳丸と呼ばれた人を見る。年齢はぱっと見不詳のヒョロっとした体型に、黒縁メガネ、清潔感はあるけれど少しとっつきにくそうな男性だった。


「初めまして、徳丸樹です。以前は製造設計にいました。よろしくお願いします」

「初めましてじゃないですよ。畑中常務の送別会の時にご一緒しました。改めてよろしくお願いします」


少し驚きつつも徳丸さんは対応してくれた。


私の仕事は家具メーカーで今日から店頭販売員となる。

先週までは家具の配色や店頭配置のコーディネートを担当していた。でも残業が多い部署であった為に定時で帰れる部署へと希望を出しだ結果の移動だった。


その日から始まった仕事は存外悪いものではなかった。


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