表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生したら俺以外インキャの世界だった件 〜絶世の美形に生まれ変わった元いじめられっ子、神プロデューサーになる〜  作者: 葉山 乃愛


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/19

第6話 控えめすぎるお遊戯会と、仮面のプロデュース

幼稚園生活最大の試練、お遊戯会の季節がやってきた。




だが、この世界の「お遊戯会」は、前世の俺が知るものとは似ても似つかない。




「……はい、今年の年中組の演目は『石ころの気持ち』に決まりました。みなさん、舞台の上ではできるだけ動かず、観客席の保護者様と目を合わせないよう、静かに丸まっていてくださいね」




佐藤先生の言葉に、園児たちは「よかった……」「目立たなくて済むんだ……」と安堵の吐息を漏らす。




舞台に上がって数分間、全員で石のフリをして沈黙を守る。それがこの世界の「完璧な演技」なのだ。




(……んなわけあるか! そんなの誰が喜ぶんだよ!)




俺は、保護者席でビデオカメラを構えながら「うちの子が一番地味でありますように」と祈るであろう両親たちの姿を想像し、頭を抱えた。




このままでは、せっかく見出した原石たちが、ただの「石ころ」として埋もれてしまう。




俺は隣に座る三人に視線を送った。




美桜は俺の指を弄びながら、虚空を見つめている。颯太は大きな体を折り曲げて、床の模様を数えている。小春は自分の口を両手で塞ぎ、歌いたい衝動を必死に抑え込んでいた。




「みんな、ちょっといいかな」




俺の声に、三人が弾かれたように顔を上げる。




「……たいようくん。石ころになる練習、する……?」




美桜が不安げに尋ねる。俺は首を振った。




「ううん。俺たちは石ころじゃない。このお遊戯会で、みんなに『光』を見せよう」




「ひ、光……? 目立っちゃうよ。みんなに怒られちゃうよ……」




颯太が怯えたように肩を震わせる。この世界の人間にとって、注目を浴びることは最大の恐怖であり、恥辱なのだ。




「大丈夫。正攻法じゃなくていい。……みんな、『仮面』を作ろう」




俺の提案に、三人は首を傾げた。




俺が考えた作戦はこうだ。この世界の住人は「自分」を見られるのを極端に恐れる。ならば、自分ではない「何者か」になりきれる装置があればいい。




俺は、砂場の芸術家である美桜に、全員分の「仮面」と「衣装」の制作を依頼した。




「……たいようくんが、望むなら。わたし、最高のものを作る。たいようくんを、誰よりも美しく飾るために」




美桜の目が、工芸家のそれへと変わる。彼女はどこからか集めてきた色紙や布の端切れを、三歳児とは思えない精密さで加工し始めた。




それは単なるお面ではなかった。見る者の視線を奪い、かつ着けている者の心を「守る」ための、鎧のような美しさを持った仮面だった。




そしてお遊戯会当日。




遊戯室には、暗幕が引かれたような重苦しい沈黙が流れていた。他のクラスの「石ころ」の演技が終わり、観客席からは「控えめで素晴らしかった」という、およそお祝いとは思えない低い拍手が送られている。




「次は、太陽くんたちのグループです……。演目は……『内緒の光』。あ、あの、タイトルからして少し不穏ですが、どうかお許しを……っ」




佐藤先生の震えるアナウンス。




幕が上がると、舞台の上には四人の、仮面を被った子供たちが立っていた。




客席から「ひっ」という短い悲鳴が上がる。自分たちを直視してくる「仮面の瞳」に、インキャな親たちが気圧されたのだ。




だが、次の瞬間。




ドッ、ドッ、ドッ――。




颯太が、舞台の床を力強く踏み鳴らした。




前世のダンスミュージックを彷彿とさせる、重厚で正確なリズム。逃げ出したくなるような静寂を、彼のステップが切り裂いていく。




「……っ!」




客席の親たちが、あまりの衝撃に椅子から転げ落ちそうになる。しかし、仮面を被った颯太の動きは止まらない。顔を見られていないという安心感が、彼の巨体に宿るリズムを解放していた。




そこに、小春の声が重なる。




「――♪」




歌詞はない。ただのハミングだ。だが、美桜が作った「声を響かせる構造の仮面」を通したその歌声は、怪物のような音量ではなく、教会のパイプオルガンのような、神々しいまでの広がりを持って会場を包み込んだ。




美桜がデザインした衣装が、舞台の照明を反射してキラキラと輝く。彼女自身も、俺の隣で、誰にも邪魔されない「自分の世界」を表現するように、優雅に舞っていた。




そして、中心に立つ俺は、ただ真っ直ぐに、客席の両親たちを見つめた。




怯え、震え、俯いている大人たち。




(見てろ。これが、お前たちが押し殺してきた『才能』の姿だ)




舞台が終わったとき、会場は静まり返っていた。




あまりの衝撃に、拍手すら起きない。親たちは、自分たちの子供が「光り輝いてしまった」という事実に、恐怖と、それ以上の「得体の知れない感動」で涙を流していた。




幕が降りる直前、俺は仮面の奥で美桜と目が合った。




彼女の琥珀色の瞳は、かつてないほど妖しく、熱く燃えていた。




「……たいようくん。わたし、わかっちゃった」




美桜が、俺の耳元で小さく囁く。




「みんなに見られるのは、怖くない。みんなが、たいようくんに見惚れるのを……わたしが隣で見てるのが、一番気持ちいいんだね」




その言葉には、プロデューサーとしての俺を喜ばせる「覚醒」と、一人の女としての「歪な独占欲」が混じり合っていた。




この日、この小さな幼稚園から、伝説は始まった。




お遊戯会の様子を、物陰からじっと見つめている一人の男がいた。




度の強い眼鏡を指で押し上げ、ノートに狂ったようにメモを取るその男の胸ポケットには、『芸能事務所・モブプロモーション』という控えめすぎる社名の名刺が入っていた。




俺たちの才能が、ついに「大人たちの世界」に見つかってしまった瞬間だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ