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転生したら俺以外インキャの世界だった件 〜絶世の美形に生まれ変わった元いじめられっ子、神プロデューサーになる〜  作者: 葉山 乃愛


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第5話 怪物と呼ばれた歌声と、三人の約束

幼稚園での生活が始まって一ヶ月。



俺の周りには、いつも不思議な輪ができていた。



砂場の天才、美桜。リズムの申し子、颯太。



この世界の基準では「目立ちすぎてはいけない」はずの俺たちが、なぜか寄り添って過ごしている。



それは、俺という「太陽」の光が、彼女たちの自己否定という影を一時的に忘れさせているからに他ならなかった。



そんなある日の音楽の時間。



「は、はい……みなさん。今日は、みんなで『チューリップ』を歌いましょう……。で、できるだけ、隣の人に迷惑がかからないような……小さな声で……」



佐藤先生が、消え入るような声でピアノの前に座る。



この世界の合唱は、歌というよりは「囁き」に近い。



みんなが俯き、自分の足元に向かってボソボソと旋律を漏らす。それはまるで、何かの儀式のような暗い響きだった。



だが、その中で一人だけ、口を真一文字に結んで震えている女の子がいた。



彼女の名前は、小春こはる



ポニーテールを高く結んだ、この世界では珍しく意思の強そうな瞳をした女の子だ。



彼女は歌い出そうとするたびに、自分の口を手で押さえ、必死に声を殺していた。



「……っ、ふぅ……っ」



小春の喉が、何かに耐えるように激しく動いている。



俺はその様子をじっと見つめていた。前世で「空気を読む」ことだけに特化した俺の感覚が、彼女の中に渦巻く巨大なエネルギーを察知していた。



「あ、あの……小春ちゃん? どうかしましたか……?」



佐藤先生が恐る恐る声をかける。



その瞬間、小春の限界が訪れた。



「……だって! 小さく歌うなんて、できないもん!」



叫びのような声。



次の瞬間、彼女の口から放たれたのは、この世界の常識を根底から覆すような、圧倒的な「声量」だった。



咲いた、咲いた――。



それは、囁きではなく、咆哮だった。



突き抜けるような高音。空気を震わせる声の圧力。



前世の世界なら「歌のうまい子」で済んだだろう。だが、全員がインキャで、目立つことを悪とするこの世界において、彼女の歌声は文字通り「怪物」の咆哮に等しかった。



「ひっ……!」



園児たちが一斉に耳を塞ぎ、床に伏せる。



佐藤先生に至っては、ピアノの椅子から転げ落ちて白目を剥いていた。



「ご、ごめんなさい……! また、大きな声、出しちゃった……っ」



小春は泣きながら、教室を飛び出していった。



彼女の背中には、周囲からの「怖い」「うるさい」「乱暴だ」という無言の拒絶が突き刺さっていた。



(……なるほどな。才能が、そのまま『毒』になる世界か)



俺は迷わず、彼女の後を追った。



美桜が「たいようくん……!」と不安げに袖を引いたが、俺は短く「すぐ戻る」と言って、中庭へと駆け出した。



木陰で一人、膝を抱えて泣いている小春を見つけた。



「あっち行って……! わたし、みんなに嫌われる怪物だもん。声が出ちゃうんだもん……っ」



「怪物なんかじゃないよ」



俺は彼女の隣に座り、あえて大きな声で答えた。



「すごく、いい声だった。胸の奥まで、スカッとするような綺麗な歌声」



小春が、涙で濡れた顔を上げた。



「……嘘。だってみんな、耳を塞いでたよ? 先生だって、気絶しちゃったんだよ?」



「それは、みんながその声を受け止める準備ができてなかっただけ。君が悪いんじゃない」



俺は彼女の真っ直ぐな瞳を、一歩も引かずに見つめ返した。



「小春ちゃん。その声、俺がいつか、世界で一番大きなステージに届けてあげる。何万人の人が君に耳を塞ぐんじゃなくて、君に拍手を送る場所を、俺が作るから」



三歳の赤ん坊が言うセリフではない。



だが、俺の瞳に宿る本気の輝きに、小春は毒気を抜かれたように呆然とした。



「……本当に?」



「ああ。約束だ」



俺が右手の小指を差し出すと、小春はおずおずと、でもしっかりと指を絡めてきた。



その時だった。



「……たいようくん、ずるい」



低く、冷ややかな声がした。



振り返ると、そこには美桜と颯太が立っていた。



美桜の瞳は、これまでに見たことがないほど暗く、深い。彼女は俺と小春が指を絡めている様子を、まるで獲物を狙う猛獣のような冷徹さで見つめていた。



「たいようくんの隣は、わたしの場所なのに……」



美桜がゆっくりと歩み寄り、小春の手を解くようにして、俺の右手を両手で奪い取った。



「わたしも……たいようくんが、プロデューサー(ぷろでゅーさー)? してくれるなら、なんでもする。だから、よそ見しないで」



美桜の中に芽生えていたのは、単なる友情ではない。



俺という「唯一の理解者」を独占しようとする、狂気に似た執着心だった。



颯太も後ろで、「ぼ、ぼくも……太陽の隣なら、踊れる気がするんだ」と、大きな体を震わせながら頷いている。



(……おっと。これは、思っていたより早く『グループ』の雛形ができちまったな)



砂場の芸術家、美桜。リズムの天才、颯太。そして、怪物と呼ばれた歌姫、小春。



この三人の歪な原石たちが、俺という太陽を中心に、少しずつ形を成していく。



いつかこの三人が、世界を絶望させるほどの輝きを放つ「アイドル」になることを、俺だけが確信していた。



だが、美桜の俺に対する異常なまでの執着は、後に大きな波乱を呼ぶことになるのだが……。



今の俺は、ただ三人で交わした幼い約束を、大切に胸に刻むことしかできなかった。


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