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転生したら俺以外インキャの世界だった件 〜絶世の美形に生まれ変わった元いじめられっ子、神プロデューサーになる〜  作者: 葉山 乃愛


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第3話 砂場のカリスマと、前髪で目を隠した幼馴染

あれから三年。




俺は三歳になり、自分の足で歩き、流暢に言葉を話せるようになっていた。




前世の記憶があるため、三歳児とは思えない語彙力を持っていたが、この世界では少しハキハキと喋るだけで「神童」「奇跡の御子」として周囲の大人が平伏してしまうため、特に怪しまれることはない。




むしろ、俺が言葉を発するたびに、両親は「ありがたや……」と手を合わせる始末だった。




今日は、母親に連れられて近所の公園にやってきている。




「あ、あの……太陽くん。眩しい日差しを浴びさせてしまって、本当に申し訳ありません……。でも、お医者様が、少しは外の空気を吸った方がいいと……」




「うん、ありがとう、お母さん。外、気持ちいいね」




俺が極上の笑顔で微笑みかけると、母親は「ひぐっ……!」と息を呑み、感極まってハンカチで目頭を押さえた。




相変わらず自己評価が地の底にある母親だが、俺が毎日「大好きだよ」と肯定し続けた結果、以前のように俺に触れることすら怯えるような状況は抜け出し、狂信的なまでの愛情を注いでくれるようになった。




公園の景色は、前世の記憶にあるものとは全く異なっていた。




子供たちが走り回り、親たちが立ち話に花を咲かせる……そんな賑やかな光景は一切ない。




十人ほどの子供たちがいるのに、公園は水を打ったように静まり返っている。




全員が遊具の陰や砂場の隅に陣取り、お互いに一切目を合わせず、黙々と一人遊びをしているのだ。




親たちもまた、ベンチの端と端に座り、スマホの画面すら見ず、ただひたすらに下を向いて地面の石ころを見つめている。




(……見事なまでのインキャ空間だな。息が詰まりそうだ)




だが、俺にとってはここが最初のステージだ。




俺はトテトテと短い足で歩き出し、砂場の隅で背中を丸めている一人の少女に近づいた。




彼女は、目元が完全に隠れるほど長い前髪をしており、ボロボロのウサギのぬいぐるみを抱えながら、小さなスコップで砂を掘っていた。




ただ砂を掘っているのではない。




よく見ると、彼女の足元には、三歳児が作ったとは到底思えない、緻密で美しい砂のお城が完成しつつあった。




壁の模様や、塔のバランス。それは明らかに非凡な『空間把握能力と芸術の才能』だった。




しかし、彼女は誰に見せるわけでもなく、完成した端から自分の手でサクサクと崩し始めている。




「……どうして、壊しちゃうの?」




俺が声をかけると、少女はビクゥッ! と肩を大きく跳ねさせ、持っていたスコップを落とした。




「ひっ……! ご、ごめんなさい……! わたしなんかが、砂場の場所をとって、目障りなものを作って、ごめんなさい……っ。すぐ、どきます……っ」




前髪の奥から、怯えきった声が震えて聞こえる。




これが、この世界のデフォルトなのだ。自分の才能をひけらかすこと、他人の視界に入ること自体が罪悪だと本能で思い込んでいる。




前世の俺なら、彼女の気持ちが痛いほどわかっただろう。目立てば打たれる。標的にされる。だから、自分で自分を壊すのだ。




でも、今の俺は違う。




「すごく、綺麗だったよ」




俺はしゃがみ込み、少女の目線に合わせて真っ直ぐに顔を覗き込んだ。




「え……?」




「君が作ったお城、すごくかっこよかった。壊しちゃうなんてもったいないよ。俺、もっと見たいな」




この世界には存在しない、他者からの『直接的な肯定』。




しかもそれを口にしているのは、この世界において圧倒的な美貌とカリスマを持つ(と勝手に周囲が錯覚している)俺だ。




少女はゆっくりと顔を上げ、前髪の隙間から、大きな、本当に綺麗な琥珀色の瞳で俺を見た。




その瞳には、信じられないものを見るような驚きと、生まれて初めて自分の生み出したものを認められたという、強烈な歓喜の光が宿っていた。




「あ、う……あ……」




少女の顔が、みるみるうちに林檎のように真っ赤に染まっていく。




「お城の続き、一緒に作ってもいいかな?」




俺が極上の笑顔で小首を傾げると、少女はボフゥッ! と頭から湯気が出そうなほど赤面し、コクコクコクコクッ! と千切れるほどの勢いで何度も頷いた。




「わ、わたし……美桜みお……」




「美桜ちゃん。いい名前だね。俺は太陽たいよう。よろしくね」




俺が差し出した小さな手を、美桜は震える両手で、まるで宝物でも扱うかのようにそっと握り返した。




その手の温もりと、前髪の奥で見せた照れくさそうな、でも弾けるような笑顔。




(……ああ、間違いない)




俺は直感した。




この極度に自信のない、だけど圧倒的な才能を秘めた原石。




彼女こそが、十数年後、俺のプロデュースによって数千万人のファンを熱狂させ、そして俺と秘密の同棲生活を送ることになる『国民的トップアイドル』の幼き日の姿だった。




俺の、初めてのファンであり、初めての『推し』。




静寂に包まれたインキャだらけの公園で、俺と美桜だけが、小さな笑い声を響かせていた。




周囲の親や子供たちが、俺たちを「神話の光景」でも見るかのような畏敬の眼差しで見つめていることなど、この時の俺は知る由もなかった。


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