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転生したら俺以外インキャの世界だった件 〜絶世の美形に生まれ変わった元いじめられっ子、神プロデューサーになる〜  作者: 葉山 乃愛


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第2話 初めての『プロデュース』と、隠された原石

退院の日、俺は生まれて初めて『外の世界』を見た。




車を運転する父親は、まるで爆発物を運ぶかのようにガチガチに緊張し、時速十キロという自転車にも抜かれる速度で道路を這うように進んでいた。




助手席で俺を抱く母親の腕も、心臓の鼓動が直接伝わってくるほどに震えている。




前世の記憶を持つ俺からすれば、生後間もない赤ん坊の体は不自由極まりない。




だが、それ以上に厄介なのは、この両親の極度な『自信のなさ』だった。




「あ、あの……あなた。揺れ、大丈夫でしょうか。私の抱き方が悪くて、この子のお顔に傷でもついたら……万死に値します……っ」




「だ、大丈夫だ、雫。お前のせいじゃない。俺の運転が……俺みたいな底辺の人間が、こんな神聖な命を乗せてハンドルを握っていること自体が、世界への冒涜なんだ……」




(いや、どんな夫婦の会話だよ)




俺は心の中で盛大にツッコミを入れた。




自宅であるこぢんまりとした一軒家に到着すると、両親は俺をベビーベッドに寝かせ、なぜかそこから三メートルほど距離を取って正座した。




まるで御神体を拝むような顔で、俺を遠巻きに見つめている。




(……このままじゃ、ミルクもろくに貰えないぞ)




俺は前世の過酷な環境を生き抜いてきた。




いじめっ子の顔色を窺い、機嫌を取る術だけは嫌というほど身についている。




今の両親に必要なのは、崇拝の対象ではなく『自分たちはこの子に触れてもいいのだ』という圧倒的な肯定感だ。




俺は短い腕を精一杯伸ばし、三メートル先で震える母親に向けて、柔らかく声を上げた。




「あー、うー」




ピクッと、母親の肩が跳ねる。




「い、今……私を、呼んでくださった……? いえ、そんなはずありません。私のような日陰者に、こんな光の結晶のような子が……」




(いいから来い!)




俺はさらに腕を伸ばし、母親の目を真っ直ぐに見つめた。




この世界の人間は、決して人と目を合わせようとしない。だからこそ、相手を直視する行為自体が、強烈なメッセージになるはずだ。




俺の視線に射抜かれた母親は、おずおずと、這うようにしてベビーベッドに近づいてきた。




その手が、恐る恐る俺の小さな頬に触れる。




冷たかった前世の記憶とは違う、体温の通った、震えるほど優しい手だった。




俺は、その手に自分の頬をすり寄せ、前世から今世を通じて『最高の笑顔』を作った。




計算なんかじゃない。ただ、誰かに触れてもらえる喜びが、自然と顔を綻ばせたのだ。




「あっ……ああ……っ!」




その瞬間、母親の大きな瞳から、ぽろぽろと大粒の涙が溢れ出した。




「笑って、くれた……。私なんかに、触れられて……こんなに、嬉しそうに……っ」




母親は俺をそっと抱き上げ、その胸に強く、けれど壊さないように優しく抱きしめた。




父親も這うように近づいてきて、母親ごと俺を不器用な腕で包み込み、ボロボロと声を上げて泣き始めた。




前世では、誰にも抱きしめられたことなんてなかった。




親にすら見放され、冷たいコンクリートの上で丸まっていた俺が、今、温かい涙と腕の中にいる。




(……なんだ。俺自身も、救われてるじゃないか)




俺の小さな目からも、一滴だけ涙がこぼれ落ちた。




泣き疲れた俺を寝かしつけるため、母親が小さな声で子守唄を歌い始めた。




――その歌声を聴いた瞬間、俺の全身に鳥肌が立った。




(なんだ、この声は……!?)




震えるようなウィスパーボイス。だが、その根底にある信じられないほどの表現力と、心を直接揺さぶるような透明感。




前世で数え切れないほどの音楽を聴いてきた俺の耳が、はっきりと理解した。




テレビで見たあの覇気のないトップアイドルなんか問題にならない。目の前にいる、自信を持てず俯いてばかりの俺の母親は、間違いなく『天才』だ。




その時、俺は一つの真実に気がついた。




この世界の人間は、極度のインキャゆえに自己評価が低く、前に出ることを恐れている。




だから、才能があってもそれを隠し、目立たないように押し殺して生きているのだ。




(なるほど……テレビのアイドルも、あの医者も、この世界には『磨かれずに捨てられている原石』が山のように眠っているのか)




前世で日の目を見なかった俺だからこそ、その痛みがわかる。




光の当て方がわからない彼らを、俺なら、俺の『肯定』というプロデュースで、世界一輝かせることができる。




ベビーベッドの中で、俺は母親の美しい子守唄を聴きながら、自分の進むべき道を確信していた。




これは、単なる俺一人の無双劇じゃない。




この自信のない優しい世界を、俺の手で、最高に眩しいステージに変えてやるのだ。


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