第15話 偶像破壊のシンフォニーと、魔女の失墜
「……それでは、本日の特別講師、天王寺サキ様によるご講演です」
校長の震えるような紹介とともに、真っ白なスーツを着たサキが壇上へと上がった。
彼女は教壇に立つなり、会場を見渡して「フッ」と鼻で笑った。
「皆さん、夢を持っていますか? 暗い顔をして俯いているだけでは、何も掴めません。私のように、常に光の中に立ち、世界を照らす太陽になりなさい」
サキが放つ傲慢なまでの『陽』のオーラ。
それに当てられ、生徒たちがさらに体を縮こまらせたその時――。
パツンッ、と校内のすべての照明が落ちた。
「な、何事ですか!? 停電!?」
慌てふためく校長の声。
だが、暗闇の中で響いたのは、重厚なドラムのリズムだった。
ドッ、ドッ、ドッ、ドッ……。
颯太が刻む、心臓の鼓動を増幅させたようなビート。
それに呼応するように、ステージ上の巨大なスクリーンに映像が映し出された。
それは影山先輩がジャックして流した、サンシャイン・エージェンシーの裏側。
無理やり笑顔を強制され、泣きながらダンスの練習を強いられる子供たちの、隠し撮り映像だった。
「……っ! 誰よ、こんな悪趣味な悪戯を!」
サキが叫ぶ。
しかし、その声をかき消すように、小春の歌声が体育館を揺らした。
「――♪ すべてを、奪った……光の、独裁者……」
歌詞は、月乃の母親がかつて書き、サキに盗まれた幻の曲。
それを小春の圧倒的な声量と、美桜が仕掛けた音響増幅装置が、逃げ場のない音の濁流に変えていく。
そして舞台中央。
スポットライトが、血のように赤いドレスを纏った月乃を照らし出した。
月乃はサキの目の前まで歩み寄り、一ミリも目を逸らさずに言い放った。
「『夢を持て』ですって? 私の母さんの夢を、台本を、人生を……ゴミのように踏みにじったあなたが、よくそんなことが言えるわね」
「……あんた、まさかあの時の女の娘……!?」
サキの顔が、恐怖で引き攣る。
そこに俺と、仮面を脱ぎ捨てた陽菜が寄り添うように現れた。
「サキさん。これが、あなたが作り上げた『光』の正体ですよ」
俺が冷たく微笑むと、客席の生徒たちが初めて自発的に顔を上げた。
彼らの瞳には恐怖ではなく、権力者が子供に追い詰められる様を見る『解放感』が宿っていた。
「ふ、ふざけないで! 私がこの国のエンタメを作っているのよ! 私を敵に回して生きていけると思って――」
「……それはどうかしら」
美桜が、いつの間にかサキの背後に立ち、手に持った黒い封筒をちらつかせた。
「これ、あなたの事務所の脱税と、過去の不祥事の全記録。今、影山先輩が全校生徒の親たちのスマホに一斉送信したところよ」
美桜の笑顔は、完膚なきまでに獲物を仕留めた、漆黒の死神そのものだった。
サキのスマホが、鳴り止まない通知音で狂ったように震え出す。
来賓席にいた親たち、そして教職員たちの視線が、一瞬にして『軽蔑』へと変わった。
「……あ、あ、ああああああああっ!」
絶叫し、その場に崩れ落ちるサキ。
真っ白なスーツは、月乃の赤いドレスの影に飲み込まれ、惨めに汚れていった。
俺たちは一言も発さず、ただ静かに一礼して舞台を降りた。
熱狂的な拍手も、歓声もない。
ただ、静まり返った体育館に、生徒たちが自分の意志で『前を向く』という、小さな、だが確実な変革の音が満ちていた。
放課後、旧校舎の屋上。
「……たいようくん。これで全部終わったの?」
月乃が、元の控えめな少女の目に戻って尋ねる。
俺は赤く染まった夕陽を見つめながら、首を振った。
「いや。これはプロローグに過ぎない。俺たちが本当の『芸能界』で戦うのは、もっと先の話だ」
俺の手を、美桜が独占するように強く握りしめる。
反対側では、陽菜と月乃、そして颯太と小春が、俺を囲むように立っていた。
伏線は、サキが崩れ落ちた際に床に落とした一枚のカード。
そこにはサンシャイン・エージェンシーを裏で操る真の黒幕、――『中央芸能教育連盟』の文字があった。
俺が大学生になり、この腐りきった業界を完全に再定義するまで、あと十数年。
「……さあ、次のステージへ行こう。俺たちの青春は、まだ始まったばかりだ」
俺の声は風に乗って、静かな街へと溶けていった。
二度目の人生。
俺という太陽は、これからもっと多くの『星』を従え、漆黒の夜空を支配していくことになる。




