第12話 暴かれた『光』の正体と、静かなる宣戦布告
「天道太陽くん。……君、本当は『こちら側』の人間じゃないよね?」
放課後の図書室。静寂が支配するその場所で、俺は一人の上級生に呼び出されていた。
名前は、影山。六年生で新聞部の部長を務める男だ。
度の強いレンズの奥で、濁った瞳が俺を値踏みするように見つめている。
彼の足元には、数枚の写真が散らばっていた。
お遊戯会での仮面劇、フェスタでの日食パフォーマンス、そして今朝、美桜と陽菜が俺を挟んで火花を散らしていた教室の風景。
「この世界では、目立つことは罪だ。誰もが影に潜み、息を殺して生きている。……なのに、君の周りだけは、まるで別の重力が働いているみたいに歪んでいるんだよ」
影山が、震える指先で俺の胸元を指差した。
「君がやっていることは、救済じゃない。……『毒』の散布だ。君の光に当てられた人間は、もう二度と、静かな暗闇の中では生きていけなくなる」
(……なるほどな。こいつは、この世界の『秩序』を守ろうとしている側か)
前世では、俺をいじめていた奴らは「目立つ強者」だった。
だが、この世界では「目立たない弱者」こそが正義であり、多数派だ。
影山は、俺という異物を排除することで、この静かな絶望に満ちた平穏を守ろうとしている。
「この写真を新聞に載せて、全校生徒にアンケートを取るつもりだ。……『天道太陽は、私たちの平穏を壊す侵略者ではないか』とね。そうなれば、君も、君の取り巻きたちも、この学校にはいられなくなる」
影山の言葉は、冷徹だった。
普通の小学生なら泣き出すような脅しだが、俺はふっと口角を上げた。
「……影山先輩。先輩は、本当にその『平穏』が心地いいんですか?」
「……何?」
「先輩がいつも図書室の隅で、誰とも目を合わせずに写真を撮っているのは、自分を守るためじゃない。……本当は、誰かに自分の存在を『見つけて』欲しくて、シャッターを切ってるんじゃないんですか?」
影山の顔が、一瞬で土色に変わった。
前世で、教室の隅で「誰か、俺を助けてくれ」と叫んでいた時の自分と、今の彼の瞳が重なって見えた。
「……黙れ! 自分の顔が綺麗だからって、何でも見通せると思うなよ!」
影山が激昂し、机を叩こうとした、その時。
図書室の重い扉が、音もなく開いた。
「……そこまでだよ、先輩」
現れたのは、美桜だった。
彼女の背後には、颯太と小春、そして陽菜までもが控えている。
美桜の手には、小さなボイスレコーダーが握られていた。
彼女は俺に近づくと、その細い指で俺の肩に触れ、影山を冷たく射抜いた。
「たいようくんを脅すなんて、いい度胸ね。……先輩が、女子更衣室の裏で隠れて写真を撮っていた証拠、こっちも押さえてるんだけど?」
「なっ……!? それは、新聞のネタ探しで……!」
「言い訳は、先生に言えばいいよ。……でも、たいようくんは優しいから。先輩が『協力』してくれるなら、全部なかったことにしてあげてもいいって」
美桜の笑顔は、この世のものとは思えないほど美しく、そして残酷だった。
彼女は、俺に仇なす存在を、徹底的に「潰す」のではなく「飼う」ことを選んだのだ。
(……美桜、いつの間にそんな調査を……)
俺の知らないところで、彼女の『プロデュース(管理)』は、もはや学校全体に及び始めていた。
「……ひっ……あ、ああ……」
影山は力なく膝をつき、バラバラになった写真を必死にかき集めた。
彼はもう、俺たちの敵ではない。……俺たちの『情報源』として、影から支える忠実な下僕へと作り替えられたのだ。
影山が逃げるように去った後、俺は美桜に向き合った。
「美桜。やりすぎだよ」
「……たいようくん。わたしは、あなたを守るためなら、何にだってなるよ。……たとえ、この世界の誰もがわたしを嫌ったとしても」
美桜は、俺の胸に顔を埋め、陶酔したように呟いた。
その瞳には、かつての「砂場の少女」の面影はなく、俺を独占するためなら世界を敵に回すことも厭わない、若き女帝の片鱗が見えた。
「……太陽くん。私も、美桜さんには賛成できないけど……あなたを守りたい気持ちは、同じよ」
陽菜が、一歩前に出て俺の手を握る。
その反対側の手は、美桜ががっしりと掴んで離さない。
(……一難去って、また一難か)
俺は、大学生になってプロデューサーになる前に、この「美しき独裁者」と「救われた歌姫」の間の均衡を保つ、という超難易度のミッションを強いられることになった。
ふと、窓の外に目をやると、夕闇が迫っていた。
影山が言った「光に当てられた人間は、もう二度と暗闇では生きられない」という言葉が、胸に刺さる。
俺が作ろうとしている未来は、彼女たちにとって本当に幸福なのだろうか。
だが、俺の手を握る二人の熱い温度が、迷いをかき消した。
前世の泥水に比べれば、この愛憎渦巻く贅沢な悩みすら、最高の青春のスパイスだ。
「……よし。まずは、今度の全校集会で、ちょっとした『サプライズ』を仕掛けようか」
俺の言葉に、四人の目が一斉に輝く。
伏線は、影山が落としていった一枚の「心霊写真」のようなボケたカット。
そこに写っていたのは、小学校の旧校舎に潜む、もう一人の『原石』の影だった。
二度目の人生、小学校編。
物語は、新たな仲間と、さらなる深い闇へと突き進んでいく。




