10:発信機
(ビーコン、発信機ですか?)
「あぁ、全部ぶっ壊したが一応、な?」
(ふむ……。)
砂賊の襲撃から翌日。
体を『私』に受け渡し、私は今後の店舗経営や、まだ帰っていないドロ猫含めた今日の食事メニューについて考えていたのですが……。急に声をかけられ、視界を共有します。そして語られる、発信機の存在。
どうやら私達が撃破したドレッドや車両たちすべてに埋め込まれていた可能性が高く、破壊される直前まで起動していた可能性が高いとのこと。既に全て破損状態だったようですが、念を入れて木っ端みじんに爆砕させておいてくれたようです。しかしこれは……、ちょっとまずいですね。
(砂賊に自分の装備に発信機を付ける意味はないでしょう。賊にしては装備がいいと思っていましたが、何かしらの提供を受けていたのでしょうね。そしてその提供者は、賊を信じ切らずその現在位置を常に知ろうとしていた。)
「あー、もしかしてコレ回収したらまずかった奴?」
(いえいえ、どちらにせよあの場で撃破すべきでしたし、物資は物資です。回収する以外ないでしょう。)
よく言うでしょう? その悪事に使った道具が悪いのではなく、その人物が悪いと。
賊が使っていた物でもまだ使い道があるのなら活用すべきです。
しかし……、発信機が付いていたとなれば、この付近で奴らが消えたという事実は既に露見していると考えるべきですね。私達の拠点である『給油所』に被害がいかないよう多少離れて戦っていましたが、そう遠くない距離です。私達が何かしら関与しているというのは、確実にバレてしまうでしょう。
(これが単なる賊相手であればそこまで警戒せずとも済むのですが……。)
発信機をわざわざつけていたということは、あの砂賊には“スポンサー”がいたのでしょう。
おつむの弱い砂賊ですが、多少の整備は出来る事でしょう。けれどその発信機の存在を知らず、もしくは知っていたとしても取り外せなかったということは、相当に力を持つ存在と言うわけです。現在地を常に確認する必要があり、逆らえない程の力を持つ可能性。
そして“軍”のドレッドを持っていたということは……。
(軍そのものか、この辺りを牛耳る『商会』か。)
「マジか~、めんど。」
(ですねぇ、ちょっと不味いかも。)
これらが相手だとすると、かなり頭を使う必要が出てきます。
無論、他の可能性もあるでしょうが、同等レベルの力の持ち主であることは変わりないでしょう。単純な殺し合い、ドレッド戦に於いてであれば、だれ相手でもそう簡単に負けるとは言いませんが……。真っ向からぶつかれば、かなりの被害が予想されます。
(……どう動くのが正解ですかね?)
この星の法は、権力者によって好き勝手変えられてしまうものではありますが……。以前の判例を参考にしようとする動きは昔と同じです。
以前少し気になって調べたのですが、既に『盗品の所有権はその盗賊を撃破した者に移る』という判決が下されているのは確認しています。そしてその判決を『商会』や『軍』が利用した形跡も。ここだけ考えれば、私達が襲って来た賊を退治しその持ち物を自分のモノにするのは、そう咎められるものではありません。
しかし軍は法を生み出す側の存在ですし、『商会』は金で幾らでも捻じ曲げて来るでしょう。つまり、馬鹿正直に申告するのはやはりアウト。軍の誰かが金欲しさに横流ししたのか、商会の誰かが砂賊を利用しようとしたのか。どちらかは解りませんが……、“隠す”方針で行った方が良さそうです。
流石の彼らも何の証拠もなしに“襲い掛かって来る”のは……。
な、無いと良いんですけどねぇ?
「……なぁ『アタシ』。コレどっかに垂れ込んだら金にならねぇか? 軍も商会も、何かと敵多かっただろ?」
(えぇその通りですが……、難しいでしょうねぇ。そもそも伝手がありませんし、真面に取り合ってくれるかもわかりません。“お礼”に支払う対価もないことですし。)
やっぱそうなるかぁ、と口にする彼女。
砂賊団を裏から支援していたとなれば、格好の的として叩き出す存在は色々とあるでしょう。今回の敵が軍であろうと、商会であろうと、そこは同じです。ですが何処に情報を売ろうにも、何かしらの対価を要求してくるはずです。『情報はありがたいけど、つまりお前を守れってことだよな? んじゃ金払え。』ってやつです。
私達に頼りに出来る後援者とかがいればまた違う対応が出来たんでしょうが……。
こちらにはコアのこともありますし、必要以上の注目を受けるのは避けるべきでしょう。かなり厄介な相手になるでしょうが、いつも通り私達2人で力を合わせ、何とかしていくしかありません。
「だな。ん~、車はまだ誤魔化せるだろうけど、ドレッドそのままってのは不味いよな?」
(そうですね。いずれ処分するか、売り払うかは解りませんが、隠した方がいいかと。)
砂賊たちが乗っていた車や戦車は、ある意味どこでも手に入る様なものばかりです。
此方は一般にも軍の払い下げが流れて来ることがありますし、砂賊が扱っていても問題ないものばかり。“今回対処した賊とは別”が持っていた装備と言えばそのままスルーされる程度のモノです。
しかしながらドレッド、超高級品と呼べるこれは別。
破損した軽装ドレッドも、コックピットが無い重装ドレッドも。どちらも一般人、そしてただの砂賊ではそうそう手に入れることの出来ない品です。私たちの愛機である『鐵山改』は色々と届け出を出しているので問題ないですが、今回入手したものは早急に何とかした方が良いでしょう。
まぁかといって、流石の『私』でも1日2日でこのドレッドたちの修理、もしくは売りに出せるレベルの改造を施せるのは不可能な訳で……。
「あ~、じゃあとりあえず冷凍庫に突っ込むってのはどうだ? ミミズ肉入れてあるところの。」
(成程、悪くないですね。早速行動に移しましょう。)
精神内でそう返し、彼女から体の操作権を一部譲り受け、ドロイドたちに指示を飛ばしていきます。
何故かこの前同様一緒にドロ猫が作業し始めてますが……。まぁ放置でいいでしょう。
移動するのは、私達が保有する施設の一つ。全長数百メートルを誇る巨大なミミズを保管するための冷凍庫です。それ相応の大きさを誇っており、先日討伐した巨大ミミズの肉体がずらり。カモフラージュ用のお肉が大量にあるって寸法です。
(十数トンでは収まりませんからね。出し入れするだけでかなりの時間がかかる事でしょう。)
「だろぉ?」
倉庫の中央にドレッドたちを置き、ミミズ肉でぐるっと囲む。
後は天井から覗けないようにとぐろを組ませれば完璧。
正直に言えば、子供だましな隠し方でかなり心配ですが……。ミミズ肉の重量が重量です。出入り口から見た時倉庫パンパンに肉が詰まっているように見せれば少なくとも時間が稼げます。より詳しい内部を見せてくれと言われた際は、それに応じながら“別口”の出入り口からドレッドを移動させる。
ウチの子のドロイドたちとの連携が必須ですが、すぐにバレる様なことには成らないはず。
(ま、最悪怪しんだ人を“冷凍”してあげれば良いのです。後ろから脳天を叩いて、ね? この地は郊外で、現住生物も多い。道中食われてしまったことにすれば万事解決ですから。)
「おぉ怖い怖い。でもそれ、繰り返し使えねぇけどな~?」
えぇ、ですので最後の手段ですね。
いつ砂賊の背後にいる人物や軍がやって来るかは解りませんが、バレそうになれば消して、バレなさそうならそのままに。商会がどう動くかは流石に解りませんが、軍の方々は基本的にやる気がありません。警察の役目も果たしているそうなのですが、真面に仕事をしているのは見たことないですからね。一般市民からすれば不安しかありませんが……、こういう時は便利です。
あぁそうだ『私』、ドロイドたちの記憶データの改竄もお願いできますか? 今回の戦闘を見られるとごまかしが効かないので。
「りょーかい。とりあえず該当部分のログは差し替えとくわ。細かい所はそっちで直してもらっていいか?」
(もちろん。ではお願いしますね。)
おう、と軽い返事と供に、タブレット片手に処理を始めていく彼女。
どこがどうなっているのかは解りませんが、『私』の指が動くたびに、様々なデータたちがどんどんと消えていきます。どうやらあのカタパルト使用時にドロ猫が手伝ってくれていたようでしたが……、そのデータも消えてしまいました。
ま、ドロイドたちの記憶領域を証拠品として持っていかれれば困るのはこっちですからね。仕方のない犠牲ということです。
私が死ねば彼らもスクラップにされるでしょうし、申し訳ないですが彼らにはコレで納得してもらうことにしましょう。後ドロ猫は……、まぁ口開かないように指示しとけば何とかなりますかね? 既に忘れてる可能性がありそうですけど。
そんなことを考えていると、何処か遠慮がちに『私』が口を開きます。
「……あのさ、お願いがあるんだけど。いいか?」
(お願いですか? えぇ構いませんよ。)
内容にはよりますが、私と貴女の仲です。可能な限り頑張りますとも。
「砂賊のトップが使ってたドレッドあっただろ? 重装のやつ。あれさ、アタシらのにしちゃダメかな? ほ、ほら色々改造して出元が解らないようにするからさ!」
(あぁ、アレ。……。気に入ったので?)
「うん。軽く調べてみたが、原型はオルド・セレスター社の『アヴァランス』だと思う。」
彼女の解説に耳を傾けてみると、どうやら80年前くらいにロールアウトした第十四世代機とのこと。
最新鋭というわけではありませんが、キャタピラタイプの中では上から数えた方が早い傑作機。
そもそものフレームが頑強で、キャタピラ周りの整備性が良く、現地改修を前提に設計されているので改造するのに打って付け。既に施されている防塵処理と追加装甲のせいでその正体に辿り着くまで時間がかかったそうですが……。
『私』の手に掛かれば全くの別物、そしてかなりの上物に改造することが出来るようです。
「『鐵山』改には劣るが……、使える。なぁ『アタシ』! 高く売れるのは解ってるし、処分した方がいいんだろうが……。手元に置いておいた方が利になると思うんだ! いいだろ?」
(…………ふふ、えぇ勿論。『私』がそこまで言うのなら、何も問題もありません。)
貴女がそこまで言うのは珍しいですし、それだけ良いものなのでしょう。
確かに今回の弾薬代などを考えると、今回鹵獲したもう片方の軽装ドレッドや、その下半身は纏めて売り払ってしまいたいもの。色々と危険な品なので手元に長く置いておきたくは無いのですが……。私もサブのドレッドが欲しいと思っていたのです。
多少、私の仕事が増えるくらい。
貴女が必要と言うのであれば、そうしましょう。
「ほんとか! やりぃ!」
嬉しそうに声をあげ、腕を振り回す彼女。
うんうん、私は前世含めればかなりの年齢になってしまいますが、彼女は純粋な15歳です。これぐらい元気な方が安心できるというもの。
さ、私も作業に……。
「にぎゃぁぁ! 冷たいにゃ! こおるにゃ! かきごおりにゃー!!!」
(……の前にドロ猫に防寒着着せましょうか。)
「だな。」
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