9:商会
「何!? バースト団が全滅!?」
キッチンに立ちながら『私』の方のセファが今日の夕食はどうしようと考えていたころ。
彼女達の拠点から一番近い町の一角で、一人の男が悲鳴に近い声をあげていた。
「ほ、ほんとうなのか!? 戦車装甲車合わせて30以上、ドレッドも三機に、しかもその中の一つは軍の横流し品だぞ!? それが、文字通り、全て……!?」
「え、えぇ。ビーコン反応がすべてがほぼ同時刻に消失。撃破されたものかと思われます……。」
「ば、ばかな。」
そう言いながら、椅子から転げ落ちる彼。
この惑星ザイオラにおける最大の商会。『サンドライン商会』の支部長を務めるその存在は、みっともないほどにうろたえていた。
何せセファたちの拠点を襲った砂賊こそ、彼が極秘裏に支援していた砂賊団『バースト団』である。支配下にある武力集団の中でもかなり規模であり、構成員の質はともかくその親玉のパイロットとしての腕は、彼から見てもそう悪くない。
それが一瞬にして、消し飛んだのだ。
そもドレッドとは巨大兵器であり、戦車や戦闘機よりも強大な存在である。購入費も維持費も比べ物にならないが、その戦力と威圧感は半端ではない。それが3機も用意され、戦車や装甲車もある。無力な市民はそもそも反発できないし、弱体化し規律の無い軍では手出しできず、現住生物でもその数の多さから近寄って来ることはそうそうない。
「そ、それが。消えた? ……そ、そうだ! どこかから何か! 何か来ていないのか!」
「い、一切なにもありません。軍からも市民からも『何もなかった』と。」
幾ら雇い主である支部長であろうとも、盗賊を完全に掌握することは難しい。
故にその機体コックピットなどにビーコンを設置して居場所を解るようにし、用があるまで好きにさせる。後はサンドライン商会の関係者だけは襲わせないようにさせるのが、支部長の策であった。
その規模から損耗を嫌う軍が手出しできない盗賊団。しかしサンドライン商会に組していれば襲われない。何か気が付くものがいたとしても……、その盗賊団に命じて消してしまえばいい。自身の手を汚さずに利益を取る。支部長がその支配を確固たるものにした基本戦術だった。
しかも、相手は賊。こちらの意に反する動きをすれば“自分の手”で滅ぼせばいいだけだ。そうすれば周囲を困らせていた賊を排除したということで、名声が手に入る。
まさに“最後”まで使い道が決まっている重要な手駒だったのだが……。
「な、何もない!? そんなわけが……!」
唯一対抗できそうな武力を持っている軍。そこに潜ませている諜報員から上がって来る情報も、町中に散りばめている市民からの情報も0。ドレッドの戦闘どころか、砂賊を見たという報告すら上がって来ていない。
聞いても何もないし、市民からも砂賊を見たという話は一切上がってきていない。
つまり、町の外。
軍や市民の目が届かない“外”で、大きな力によって破壊されたということ。
考えられる可能性は、3つ。
一つ目は、この惑星のシェアを奪い合うライバル大企業。幾つかの星をその経済力で手中に収めている『イプシロン=ゼクス』、この支部長がいる町は“惑星ザイオラ”の中でも小規模で、価値が薄い地区ではあるが……、切り取りに来た可能性がある。
二つ目、市民団体『ベアフット』。企業や現地政府からの支配脱却を掲げる団体で、若干宗教が入っている。支部長の彼からしても何をするか解らない集団であり、同時に通常の市民に紛れているため非常に厄介。
三つ目、まだ一番安心できるが、現住生物。巨大ミミズのような危険生物の集団に襲われ、全滅した。町から離れ砂漠で暮らすからこそ、その辺りの詳しい知識を保有している砂賊が現住生物に全滅させられるとは考えにくいが、可能性がないわけではない。
(三つ目、三つ目はまだいい。まだ“替えの利く駒”が無くなっただけだ!)
椅子から転げ落ちた体を何とか立て直しながらも、そう脳内で考える支部長。
しかしながら思考を回せば回すほどに、嫌な可能性ばかり思いついて行く。
(だが残り二つは不味い! 『イプシロン』が本腰を入れて侵攻しに来ればこの支部など吹き飛ぶ! 本部の応援が来るまで持ちこたえられるはずがない! かといって『ベアフット』の奴らは最悪市民全員を洗脳して自爆テロだ!)
星の利権をとりあう三つの勢力、その一つに所属し町一つを纏める支部長である彼の力は、一般人と比べれば天と地の差がある。
しかしながらソレは、残り2つが本腰を入れてきた場合、反転する。支部一つの力で堪えることは不可能だろうし、今まで彼は“その予兆”すら把握することが出来なかった。つまり先手を取られており、次どのような手を打たれるのかも不明。
(……不味いぞコレはッ!)
バースト団という砂賊を飼える程度には力のある彼だ。打てる手というのは幾つもあるが、より強大な相手に出来ることなどない。すぐに本部へと救援を求めるため、手元にデバイスに手を伸ばす支部長だったが……。
その手が、止まる。
なにせ救援を求めるということは、任された支部の面倒を見切れなかったという証だ。
つまりこれは、自身の能力不足や、その采配をした人物の顔に泥を塗ることになる。彼の所属する『サンドライン商会』はこの星のほぼすべての産業に入り込んでいる超巨大商会だが……、元々は単なる暴力団であり他商会の販路の護衛や土地問題の解決から始まっている。
まぁ早い話、面子を重んじるのだ。
もし支部長の失策で、完全に商会の影響下にあるこの町を失ったとなれば……
「ぐ、ぐぅぅぅ! 安易に助けは求められんッ!!!」
指どころか、首で収まるかすら解らない。
商会長から笑顔で『ケジメつけろ♡』と言われれば、末路は1つしかないのだから。
確かに本部に助けを求めれば戦力は送られてくるだろうが、彼の想定が正しければ既に“初手”を奪われていることになる。救援が間に合うか解らないし、間に合ったとしても勝てる見込みは低くなる。そうなれば待っているのは破滅しかない。
しかしこのまま何もしないのも、破滅が待っている。
武力に頼って支配していた者が、その武力を失えばどうなるか。支部長も対抗手段は色々と持っているが、企業が本腰を入れてきたり、善良な市民の皮を被ったテロリストが集団でやってくれば取れる手段もなくなる。
(残された手段は一つ。つまり単身での解決ッ!)
どんな相手だろうと打ち倒し、“事後報告”だけ上げる。
星間企業や、怪しげな市民団体。これらが攻めてきたが、支部の総力をあげて撃退に成功。今後の商売に何の問題もなし。そう報告すれば叱責どころかお褒めの言葉が降りて来る。どのみち破滅しか待っていないのであれば……。一抹の望みを掛けて突き進むしかない。
そしてそれは、彼に付き従ってきた部下たちも同じ。
「し、支部長! ここはもう一度ビーコンの反応を辿るべきかと愚考しますッ! まだ原因は不明ですが、それさえ分かればまだ動けることがあるかもしれません!」
「よく言ったッ! 金は好きなだけ使え! 何としてでも原因を突き止めるのだ! それと軍に通信を繋げ! 役には立たんが金さえ渡せば手駒の代わりにはなる! それと“裏マーケット”の情報も搔き集めろ! 何か痕跡が残ってるかもしれんッ!」
「はッ!!!」
〇惑星ザイオラにおける言語
現代(西暦2000年代)より2000年後の時代(西暦4000年代)であるため、原型が欠片も残らない程に変化している。人類の生活星系の広範囲化や、統一政府の影響力の低下、各惑星での独自文化の形成などが起きたため発音やニュアンスはもちろん、同じ文章でも惑星事に違う意味を取ったりすることが多々ある。
そのため毎年地球を拠点とした統一政府が『統一語』を発表し、企業や人にそれを使用することを求めている。実際ドレッドのマニュアルや、星系間貿易なども全て統一語で書かれているため、自分たちの惑星から外に出たり、外と取引するには習得必須の言語になっている。
ただそんな『統一語』でも各惑星に根付いてしまった言語を取り除くことは出来ず、それぞれの惑星どころか酷い所では島ごとに使用する言語が違うという状態に陥っている(現代の地球と同じ多種多様な言語を使用)。主人公たちが住むザイオラも例外ではなく、初期入植者が使っていた英語・スペイン語・日本語が千年単位で熟成し入り混じったものを使用している。
なお『アタシ』の方のセファが取得している言語が統一語、ザイオラ語、4000年代の日本語であり、日常会話とドレッド周りの技術書や研究資料を読むために学習している。対して『私』の方のセファは統一語とザイオラ語しか使用できない。2000年代の日本語に慣れ親しんだ『私』からすると、4000年代の日本語は意味が解らな過ぎて習得を諦めたようだ。
(ちなみに『私』はこの時代における唯一の2000年代日本語話者であるため、歴史学や考古学研究者からすればもう途轍もない存在。現代人の感覚からすれば、邪馬台国の位置知ってる上に当時の文化や言語にも慣れ親しんだ人が地方のさびれたガソスタでバイトしてる感じ。何が何でも確保しろ!!!)
感想、評価、ブックマークの方よろしくお願いいたします。




