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水無月
色とりどりの葉に、雨がそっと音色を落とす。
しとしとと、葉裏にまで沁み込むような水無月の雨。
その雨の帳の中で、小さな花々が、まるで掌をひらくように色を宿す。
雨の季節にだけ息づく――紫陽花。
雨脚がふっと弱まると、入れ替わるように金色の光が宙に浮かぶ。
ひとつ、またひとつ。
夜気に溶けるように増えていく蛍の灯り。
紫陽花の影を縫いながら、雨上がりを待ちわびていたかのように漂う。
水無月の夜、湿った風が通り抜ける喫茶店のテラス。
旅人は静かに腰を下ろし、シロは湯気の立つ珈琲をそっと差し出す。
「夜はまだ肌寒いですね」
その言葉を受け取った旅人は、微笑みだけで返す。
飲み干したカップの縁に、金色の光がひとつ、そっと宿る。
旅人はそれをシロへと手渡し、シロは小さな蛍の休息を嬉しそうに見つめる。
やがて蛍がふわりと飛び立つと、そこにいたはずの旅人の姿は、水無月の霧のように静かに消えていた。
そして、紫陽花の香りだけが、旅人のいた気配をそっと抱きしめていた。




