皐月
空はまだ若葉色を残し、風は子供の笑い声のように軽やかに草原を渡っていた。
そのただなかに佇む小さな喫茶店は、世界の息づかいをそっと抱きとめる揺りかごのようで、白猫のシロは窓辺で光の移ろいを眺めていた。
夕暮れが金の縁を落としたころ、扉が静かに開き、ひとりの旅人が影を落とした。
旅人の外套には、田に張られた水面の匂いが淡く宿り、まるで遠い村の早苗たちが揺れながらここまで旅してきたかのようだった。
旅人が腰を下ろすと、椅子の影は水鏡となり、店内に希望の気配が静かに満ちていく。
――旅人は微笑む
私は雪代水で淹れた珈琲を差し出した。
立ちのぼる湯気は芽吹きの息吹を宿し、まだ幼い命が未来へ伸びていく気配を、店の隅々にまでそっと染み渡らせる。
その香りの中で水鏡は、早苗の列が風にくすぐったそうに揺れる幻が、淡い光となって漂った。
その根はまだ細く頼りないけれど、触れた土の温度を信じるように、未来へ向かう力をゆっくりと吸い上げていく。
まるで早苗が、風に揺れながらも確かに大地へ根を張るように。
世界が静かに成長をはじめる季節。
旅人が残していった気配は、草原の喫茶店に小さな祝祭のような輝きを落とし、
訪れる者の心に、やわらかな希望の芽をそっと灯していった。
気にかけてくださり、本当にありがとうございます
これまでの物語をゆっくり振り返っていただけますよう、投稿した挿絵を大切に保存しております。
絵を眺めるだけで物語の情景がふっと蘇るような、そんな時間をお届けできれば幸いです。
どうぞ、ごゆっくりご覧ください。
https://x.com/ocarina_quartet
※挿絵は Gemini Nano Banana Pro による生成画像です※




