10/11
長月
満月の光は、まるで野原をそっと撫でる手のように、すすきの波を白く揺らしていた。
その揺らぎの中に、焙煎した珈琲の香りがふわりと混じり、夜の静けさをやさしく染めていく。
テラスの小さな丸いテーブルには、今日だけの特別なお団子。
誰もいないはずの席に、白猫のシロは静かに腰をおろし、気付かないふりで珈琲を味わう。
――風は知っている。
見えない旅人が、月の道をたどってここへ来ることを。
はしゃぐ気配が、すすきの影を跳ねるように近づき、お団子が一つ、また一つと消えていく。
あまりに夢中で頬張ったのか、シロのカップがふるりと揺れ、琥珀色の珈琲が静かに減る。
そして、喉を潤した旅人は、再びお団子を楽しみ、
気付けば皿は空になり、気配は月の光へと溶けていく。
――旅人は、月の使い。
去り際にそっと触れた風は、シロの頬にやさしい温度を残した。
満月の夜、白猫の喫茶店には、見えない旅人が置いていった幸福が温かく残る。




