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長月

 満月の光は、まるで野原をそっと撫でる手のように、すすきの波を白く揺らしていた。

 その揺らぎの中に、焙煎した珈琲の香りがふわりと混じり、夜の静けさをやさしく染めていく。


 テラスの小さな丸いテーブルには、今日だけの特別なお団子。

 誰もいないはずの席に、白猫のシロは静かに腰をおろし、気付かないふりで珈琲を味わう。


――風は知っている。


 見えない旅人が、月の道をたどってここへ来ることを。


 はしゃぐ気配が、すすきの影を跳ねるように近づき、お団子が一つ、また一つと消えていく。

 あまりに夢中で頬張ったのか、シロのカップがふるりと揺れ、琥珀色の珈琲が静かに減る。


 そして、喉を潤した旅人は、再びお団子を楽しみ、

 気付けば皿は空になり、気配は月の光へと溶けていく。


――旅人は、月の使い。


 去り際にそっと触れた風は、シロの頬にやさしい温度を残した。

 満月の夜、白猫の喫茶店には、見えない旅人が置いていった幸福が温かく残る。


挿絵(By みてみん)

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