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第24話:薬草の査定と窃盗の濡れ衣①

赤ちゃん育児中ですがちょこちょこ更新できるように頑張ります

「はぁ~、なんだかなぁ」


 カゴを抱えて横を歩くチロルが大きくため息をつく。


「どうしたの?」


「どうしたもこうしたもないよ!

 せっかくタイチが教えてくれたから薬草採取できると思ったのにさぁ。

 いざ挑戦したら全然難しくて、ちょっとしか見つけられなかったもん!

 結局わたしのカゴの中身もほとんどタイチが集めたんじゃん!」


 チロルが不満げにカゴの側面を叩く。

 はずみで中身がはねてモヨギ草がこぼれ落ちそうだ。

 僕はどうどうとチロルをなだめる。


「まあ、あのさ、僕は元々植物が好きで、いろいろ教わったり育てたりしてたからさ。

 チロルは植物の観察に慣れてないもん。わかんなくてもしょうがないよ」


「好きだからってそんなに簡単に見分けがつくものなの?

 そりゃ、私だって両方を目の前に並べられてさあどっちが本物?って聞かれたらわかるわ。タイチが特徴をわかりやすく教えてくれたからね。

 でも実際は関係ない雑草もいっぱい生えてる草原から見つけ出すでしょ? それじゃ結局めちゃくちゃ難しいのよ。どれも緑一色だしさ。

 草原全体をパッと見渡してどうして、あそこに生えてる!ってわかるの? そんなの反則じゃない?

 わたしが探しても雑草ばっかり目について、見つけたと思ったらニセモヨギの方だったり。肝心のモヨギ草は見逃してばかりだったわ」


 チロルは納得いかないようだ。

 周りに聞こえないようヒソヒソ声だが、ぷりぷり怒っている。

 僕も声をひそめて返事をする。


「うーん。でもさ、チロルだって魔獣の種類ならひと目見ただけで細かい違いまで分かるでしょう?」


「……確かに。それはわかる」


「でしょ? それと一緒だよ」


「……そうね。それに、モヨギ草とニセモヨギ草を見分けられるようになっただけでも十分すごいものね。はやくグラス副支長に報告したいわ。いらっしゃるといいんだけど」


「そうだね。リンジュさんは、ピースラットのこと話そうとしたけど別のお仕事中で会えなかったもんね」


「仕方ないわ。リンジュさんもいそがしいもの。

 でも、ジェダを返すついでに別の職員さんに魔法契約(テイム)した平和鼠(ピースラット)たちを預けてきたから、何かしたいことがあるってことは伝わるはずよ」


「そういえば、あの職員さんにはすごく変な顔されたね」


「無理もないわ。平和鼠(ピースラット)は最低等級(ランク)の魔獣で、戦闘力も機動力も積載力もない。かわいいけど、例の(えさ)の問題があるから愛玩魔獣(ペット)にもならない。

 見習いテイマーの訓練や捕獲依頼があったわけでもないのに平和鼠(ピースラット)をわざわざ魔法契約(テイム)して、しかもギルドにお金を払って管理依頼をするなんてこと普通しないからね」


「なるほど。そうなんだ」


 そんな話をしていると査定セクションが見えてくる。あいかわらず、大勢の冒険者たちでガヤガヤとにぎわっている。

 チロルは案内係らしき職員さんに尋ねる。


「C級テイマーのチロルです。グラス副支長はいらっしゃいますか」


「少々お待ちください」


 職員さんはさっと一礼すると奥に確認しに行ってくれる。

 しばらく待つとアウェイアさんではなくて、狐の獣人のお姉さんが出てきた。

 あれ、この人は、登録の時にガロンさんが声をかけてたような……。確かセレネさんだったっけ?


「お待たせしました、チロル様、タイチ様。副支長はただいま会議のため席をはずしております。後日また改めてお二人とはお話させていただきたいとのことでした。

 本日は代理としてわたくしがお二人の査定を任されております。セレネと申します。

 どうぞよろしくお願いいたします」


 ペコリとセレネさんが頭を下げる。アウェイアさんに負けず劣らずとても丁寧な物腰だ。金色がかったベージュの毛並みがとてもきれいでつやつやだ。思わずじっと眺めてしまう。


「そうなんですね。それはどうも、ご丁寧にありがとうございます。こちらこそよろしくお願いします」


「あっ、よろしくお願いします」


 はっと我にかえって僕もチロルにあわせて頭を下げる。


「それでは、お二方ともこちらの査定区画(セクション)へどうぞ」


 僕らはセレネさんについていく。

 僕は小声でチロルに言う。


「アウェイアさんもお仕事で残念だったね」


「まあね。でも後で時間とってくれるみたいだし。

 それにわざわざセレネさんを代理にしてくれるなんて手厚すぎるくらいだわ。

 タイチのこと本当に気にかけてくれてるのね」


「そうなの? セレネさんってそんなにすごい人なんだ?」


「すごく仕事ができる職員さんよ。まあ、ギルドの職員さんはみんな仕事できるけどさ。セレネさんは中でもさらに別格かな。頭あがらない冒険者も多くてみんなの憧れの的よ。美人さんだしね。

 噂ではギルド支長が王都から貴族の秘書だったのを引き抜いて連れてきたとかって聞くわ。ほんとかどうかは知らないけどね」


 ほうほうと僕は説明を聞く。

 そんな話をしているとセレネさんから声がかかる。


「お待たせしました。こちらの仕切席(ブース)にて査定いたします。成果物をお預かりいたしますね。どちらから(うけたまわ)りましょうか」


「あっ、じゃあ、わたしの方の依頼からお願いします。野ねずみと一角兎(バニコーン)の角です。野ねずみは麻酔薬で眠らせてあります」


 チロルは上に重ねていたモヨギ草のカゴを脇に置くと、野ねずみと角が入った下のカゴをセレネさんに渡す。それからギルドカードを取り出して提示する。

 セレネさんがカードにスマホ的な板をかざして読み取ったようだ。ジジジッとレシートみたいなものが発行される。セレネさんはレシートを切り取ると、立ててあるたくさんのファイルの中からすっとひとつとってパラパラとめくっていく。

 受注セクションにもあった、依頼書のファイルかな?

 セレネさんは書類を慣れた手付きでさらさらと記入するとバインダーに綴じて、チロルのカゴを大きな体重計のような機械の上に移動させた。


「依頼を確認いたしました。

 まずは愛玩(ペット)用野ねずみ、5匹の捕獲ですね。鑑定いたします」


 セレネさんが言うやいなや、ブンッと体重計が光ってなにかが浮かび上がる。

 ……これって魔法陣!?

 僕は驚きをぐっと飲み込む。

 落ち着いて。平常心、平常心。

 セレネさんもチロルも当たり前の顔だ。魔法はこの世界では普通のことだから驚いたら変に思われる。気をつけなくっちゃ。


「……はい、問題ございません。ヒラノネズミのオスが2匹、メスが3匹ですね。健康状態も良好です。

 どの個体も欠損がなく毛づやも良いので、少し加点いたしますね。さすがです。依頼者も大変満足されるでしょう」


 セレネさんがタブレットをスイスイと操作しながら説明してくれる。

 どうやらさっきの魔法陣は鑑定するためのものだったようだ。こんな一瞬で動物の健康診断までできるなんてすごい。

 次にセレネさんはバニコーンの角も同じように査定してくれる。こちらも一瞬だ。


「では、チロル様。こちらの査定証書に署名(サイン)を。報酬区画(セクション)にてギルドカードと控えをご提示ください」


「はい、ありがとうございます」


 チロルは慣れた手つきでサラサラとサインをすると、セレネさんから書類を受けとる。

 なるほど。これを報酬セクションに出したらお金がもらえるのか。ふむふむ。


「次はこちらをお願いします。タイチが受けたモヨギ草の依頼です。

 タイチも自分のカゴを出してね」


「あ、うん!」


「それではお預かりいたします。

 タイチ様はゲストカード発行中でいらっしゃいましたね。手首帯(リストバンド)の番号を確認させていただきますね」

 

「あ、お願いします!」


 僕は袖を少しまくって番号を見せる。

 セレネさんがタブレットになにか入力していく。


「はい、確認いたしました。

 ……初めて受けた依頼ですのに、随分(ずいぶん)とたくさん採っていらしたのですね。お疲れ様でございました」


「ふふっ、鑑定したら驚く結果になると思いますよ」


 (ねぎら)ってくれるセレネさんにチロルがいたずらっぽく答える。


「まあ、それは楽しみです」


 セレネさんがふんわり笑う。うーん、確かに美人さん。

 そんなことを思っていると、セレネさんがさっきの体重計の上に別の箱をセットする。箱の底に3股に別れたパイプがくっついていて、そのパイプの出口に白、赤、黒のからっぽのカゴが置かれていく。


「あれ、さっきと同じように鑑定するんじゃないんですか?」


「ああ、さすがにこれほどたくさんの薬草ですと一度に鑑定機にかけても結果が複雑になりすぎて効率が悪いのです。ですので、こちらの振り分け機能付きの補助具を使用いたします。

 上の箱に鑑定物をいれて起動させますと白いカゴに依頼に合致する物が抽出されます。

 同様に、黒いカゴには異物が、鑑定保留となった物は赤いカゴに排出される仕組みとなっております。

 動物や魔獣の生体には使用できませんが、薬草や鉱石、魔獣の素材などはこのような自動振り分け式の鑑定を採用しております」


「なるほど、便利ですね!」


 ほうほうと僕はうなずきながら説明を聞く。


「では鑑定いたしますね」


 セレネさんの声と同時に今度は箱がブンッと光って側面に魔法陣が浮かび上がる。カタカタと箱が()れて中で撹拌(かくはん)しているような音がする。

 

 ……モヨギ草はどれくらい採れてるかなぁ。

 ニセモヨギ草はしっかり確認して弾いたから、たぶんほとんど混ざってないと思うんだけど……。

 

 しばらく光ながらゴトゴト()れていた箱がブーンと振動したかと思うと、パイプからぽとぽとと草が落ちはじめた。

 もっとゆっくり出てくるかと思ったけど案外リズミカルに出てくる。一瞬で鑑定されているみたいだ。 

 今のところ、薬草は全部白いカゴに振り分けられている。良かった、モヨギ草ばかりってことだ。

 あ、でもいま2つ赤いカゴに落ちた。

 ……葉っぱに()が入ってるからかな? はずしとけば良かったかな。

 僕はハラハラしながら見守る。

 そうこうしているうちに白いカゴがいっぱいになってくる。もう少しであふれそう。


「失礼しますね」


 セレネさんがピッとボタンを押して鑑定機を止める。いっぱいになった白いカゴが脇にさげられて新しい白いカゴがセットされる。


「……あの、大変恐れ入りますが、タイチ様は薬草採取のご経験がおありで……?」


 セレネさんが黒いカゴの方をのぞきながら僕に言う。

 あまり表情には出てないけれど、ここまででニセモヨギ草が一株もないことに驚いているみたいだ。

 僕は内心とてもうれしかったけど、あまり得意気に見えないように控えめに答えた。


「いえ、初めてです」


「そう、でございますよね……。洗礼板(ステータスボード)も発行前と伺っておりますし……。

 では、チロル様のご助力があったのでしょうか? それでしたら、チロル様も追加受注の手続きをいたしますが……」


「いやいや、わたしは薬草採取苦手です!

 ちょっとは手伝ったけど、ちゃんとタイチがほとんど集めてますよ! むしろ教わった側です!」


「教わる……。初めて薬草採取された仮登録のタイチ様からC級冒険者のチロル様が教わった、ということでしょうか?」


「えーっと、まあハイ。そうなりますね」

  

「……失礼いたしました。鑑定を再開させていただきますね」


 セレネさんは()に落ちない顔だが、ひとまずは鑑定を進めてくれるようだ。また機械が動き始める。

 ぽとぽとぽとと薬草が白いカゴに落ちていく。黒いカゴはからっぽのままだ。

 またすぐに白いカゴがいっぱいになった。

 セレネさんが先ほどと同じようにカゴを取り替えてる。

 でも最初と違って表情が固く真顔だ。なんだか焦っているようにも見える。

 鑑定機をいじったり、黒いカゴを何度ものぞいたりして、タブレットをしきりに操作している。

 ……大丈夫かな?

 僕は横にいるチロルにそろっと近寄って小声で尋ねる。


「ねぇ、チロル。セレネさん困ってない?」


「まあ、そりゃね。完全に初心者のはずのタイチがこんなにたくさんモヨギ草だけ持ち込んだんだもん。当たり前の反応よ。

 たぶん、鑑定機の不具合を疑われてると思うよ。

 さっきわたしの依頼を鑑定したばかりだから、動作不良(エラー)じゃないことは確かなんだけどね」


「え? それならちゃんと説明した方がよくない? 見分け方見つけたってこと……」


「うーん。でもわたしとしては、この大発見はグラス副支長に直接報告した方がいいと思うんだよね。平和鼠(ピースラット)の件もあることだし。

 ていうかセレネさんの反応見てますますそう思った。いつも冷静な()()セレネさんがオロオロしてるんだもの。他の職員さんにバレて変に話が広がっちゃったら騒ぎになってややこしくなりそう」


「じゃあ、セレネさんにはなんて説明するの?」


「とりあえず、内緒でいいんじゃない? 別に悪いことは何もしてないもん。たくさん依頼達成したって、ギルドから感謝されることはあっても怒られることはないよ」


「それはそうかもだけど……。それで納得してくれるかな?」


「セレネさんなら大丈夫だと思う。詳しいことはグラス副支長に直接話しますって伝えておけば余計な詮索(せんさく)はされないと思う。

 ……たぶんね。」


「そっか、了解」


 チロルとそんなやり取りをしていると、セレネさんから声がかかる。


「お話し中に申し訳ございません。

 大変失礼ながら、再鑑定を行ってもよろしいでしょうか? お時間をいただいてしまい恐縮ですが……」


「あ、はい。いいですよ」


「セレネさんが納得できるまでしっかり鑑定しちゃってください」


「恐れ入ります」


 頭を下げるセレネさんにこっちの方が申し訳なくなる。

 チロルは気にしてない……というよりむしろ得意げだけど。

 箱に入れ直された薬草がまた一定の速度でぽとぽとと薬草がパイプから落ちてくる。

 少し赤のカゴに落ちるけど後は全部白いカゴだ。白いカゴだけが新しく交換されていっぱいになったモヨギ草が脇にたまっていく。

 黒いカゴはあいかわらず空っぽだ。

 セレネさんは何度も何度も機械やタブレットを確認する。


「あの、大変申し訳ございませんが、もう一度再鑑定しても……?」


「もちろんです」


「何度でも!」


 ぽとぽとぽと……。

 薬草が出てくるけど結果は同じだ。

 セレネさんは一度きつく目を閉じるとふーっと深く息を吐いた。そしてくっとこちらに向き直る。

 キリッと切れ長のきれいな目にまっすぐ見つめられて思わずシャキッと背筋が伸びる。

 な、なんだろう?


「お二人とも、大変恐れ入りますが、別室へご同行願えますか?」 

 

お読みいただきありがとうございました。

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