第23話:ピースラットと薬草の見分け方
赤ちゃん育児中ですがちょこちょこ更新できるように頑張ります
ピースラットたちはちょこちょこと草原をすすんでいく。時折風のにおいをかいで何かを確認しているみたいだ。2匹は仲良く同じ方向に進んでいく。兄弟なのかな? それともカップルなのかな?
数十メートルほど進んだところでラットたちは立ち止まった。
2匹とも僕になにか言いたげに鼻をフスフス鳴らしている。
え? もう見つけたのかな? はやい!
「もうモヨギ草見つけたの?」
僕はピースラットに話しかけてみる。キュキュキューッと鳴き声があがり2匹は鼻先で草をつんつんしている。
……これがモヨギ草かな?
僕はピースラットが草を食べてしまう前に一本だけ草をささっと採取する。
ピースラットたちは僕を少し見上げた後、同じ草をもぐもぐ食べ始めた。よかった、草をとったことは気にしてないみたい。まあたくさん生えてるから一本くらい大丈夫か。
思ったよりもあっさり見つかってうれしい。これなら薬草採取で生活していけそうじゃない?
いやいや、まだ気が早い。これが本当にモヨギ草なのかまず確かめなくちゃ。間違いがあるかもしれないし。
しっかり観察して確認しよう。どれどれ?
僕はレインリアさんからもらったモヨギ草を取り出して比べてみる。
「……え? あれ?」
僕は何度も手元を確認する。それから、ピースラットたちが食べている草ものぞきこんで確認する。
ピースラットたちは不思議そうに僕を一目見た後もぐもぐ食べ続けている。
……おかしい!
「どうしたの? タイチ」
後ろで見守ってくれていたチロルが僕に聞く。
僕はレインリアさんのモヨギ草をしまって、ギルドでもらったニセモヨギ草の方を取り出してみる。
いま摘んだ草とそれをよく見比べる。
……やっぱり!
「チロル! このピースラットたちモヨギ草じゃなくてニセモヨギ草食べてるよ!
毒があるのに、ヤバいよね? 間違えたのかな!?」
僕は大あわてでチロルに叫んだ。でも、チロルは怪訝な顔だ。
「ええ? そんな馬鹿な。平和鼠たちはよく見かけるし契約魔法も何度かしたことあるけど、そんなマヌケな子たちは見たことないよ?
そもそも魔獣は動物より餌の質に敏感だから間違えるなんてまずありえないよ。餌付き罠とか、毒餌で駆除とかしようとしても全然成功しないもん。
だから魔獣に特化した専門の冒険者に高額報酬の依頼が来るんだし。
王立学園では魔獣に気づかれにくい魔法睡眠薬の開発が進んでいるとは聞くけど……」
「えー? いやでも……。間違いなくニセモヨギ草の方を食べてるよ?
ギルドでもらった方とおんなじだもの! ほら!」
僕は両手に持ったニセモヨギ草をチロルに差し出す。どう見たって同じものだ。
レインリアさんにもらったモヨギ草とは明らかに違う。
けれどチロルは余計に首をかしげてしまった。
「ほらって言われても……。わたしには正直どれも全部同じ草にしか見えないし……。
ていうか、なんでそんなに自信たっぷりに言えるの?
来る前にも話したけど、老練者の冒険者でも見分けが難しいんだよ?
こういっちゃ悪いんだけど、普通にタイチの勘違いじゃない?」
「いやいや! 見分け方めちゃくちゃ簡単だよ!?
たぶん、ベテランの人たちは秘密にしてるだけだと思う!」
「ええ? わたしが知ってるのはそんな人たちじゃないんだけど……」
「ウソぉ? だって葉のつき方が全然違うんだよ!?
モヨギ草は対生で、ニセモヨギ草は互生なんだよ!
そもそも、すんごい初歩的な違いなのになんで図鑑に載ってなかったの!?」
僕はチロルにわかってほしくてモヨギ草とニセモヨギ草の違いを力説する。
「……えーっと? ごめん、そのタイセイとかゴセイとかってなんのこと?」
チロルは困惑顔だ。
チロルは植物に興味があまりないみたいだから知らなくても当然か。
それかこっちの世界では呼び方が違うのかな?
僕は両方の草を地面においてチロルに説明する。
「えっとね、これがレインリアさんからもらったモヨギ草。それで真ん中がギルドからもらったニセモヨギ草。それでこっちのは今ピースラットが見つけてくれた草ね。
……どう? 葉っぱのつき方が違うでしょう?」
「はあ、葉っぱのつき方……」
チロルはぽかんとした顔で草を見つめる。
僕は指差しながら詳しく説明していく。
「ほら、モヨギ草の方は茎の同じ位置から2枚の葉っぱが出てるでしょう? こういうのを僕の国では葉が対生についているっていうんだ。葉っぱが対になってるって意味。
それで、こっちのニセモヨギ草の方は交互に別の位置から葉っぱがでているでしょう? これは互生っていう葉っぱのつき方なんだよ。
で、ピースラットが食べてるのはこれ! 葉っぱが互い違いに出ているから互生。
つまりニセモヨギ草ってこと!
確かにぱっと見の葉っぱの形は似てるけど、決定的に違うんだよ!」
「ふ、ふぅん。そうなんだ……。
タイチの国って植物についての研究が進んでるのね。そんな話、初めて聞いたわ。
……葉っぱのつき方に規則性なんてあるのね。たまたまその時の環境でテキトウに変わると思ってた」
「ええ!? そんな認識なの!?
葉っぱのつき方が変わっちゃったらそれはもう別の植物だよ!
風でちぎれたとか、動物や虫に食べられて、葉のつき方が変わって見えることはあるかもだけど……」
僕はあまりの違いに呆然とする。
呼び方が違うとかじゃなくて葉序の概念自体がないんだ……。もしかしたら、花のつくりとか、花粉の媒介方法とかも知られてないのかな……?
いやでも、この世界でも農業とか園芸はあるはずだよね? 王立学園って研究がさかんみたいだし。
じゃあ、やっぱり秘密にされてるだけ……?
「ねぇ、タイチ……! これってきっとすっごい大・大・大発見よ!」
さっきまで僕の力説に若干引いていたチロルが急に声を上げる。僕はぐるぐる悩んでいた考えがはっと途切れる。
チロルの長い耳がしきりにぴんぴん動いていて興奮しているようだ。
「だってさ! 曖昧なよくわかんない匂いとか、ビミョーな色の違いとかじゃなくって、葉っぱの生えてる位置で見分けられるって、すごいことよ!
わたしでもわかったくらいだし、これってとっても画期的だよ!」
チロルは両手をぶんぶん振りながら言う。
今度は僕の方がその勢いに押されてしまう。視界の端でピースラットたちがビクッと跳ねたのが見えた。
「う、うーん。そうかなぁ……。僕の国では普通に図鑑に載ってる当たり前のことなんだけど……」
本当はベテラン冒険者とか専門家の人たちはみんな知ってるんじゃ……。
僕は急に自信がなくなってくる。
「タイチの国って魔獣もあんまりいないすごく遠くの異国なんでしょ? だから知識とか文化が違うんだと思う!
モヨギ草とニセモヨギ草の簡単な見分け方ってみんなが知りたいすごい発見だもん!
グラス副支長に報告しよ! きっとすごく褒めてくれるし、もしかしたら等級飛び級であがっちゃうかもよ!?」
「そ、そうかなぁ」
「そうよ! はやくギルドに戻って報告しよう!」
「え!? いや、待ってよチロル。
確かに、見分け方を報告したらほめてもらえるかもしれないけど、僕まだ肝心のモヨギ草は見つけられてないんだよ。
このまま帰ったら依頼失敗だよ!」
「あ……、そういえば、そうだね。ゴメン。興奮しすぎて忘れてた。
それに見分け方わかったなら、たくさんモヨギ草持って帰った方が説得力あるし、報酬も高くなるんだから、たくさん採取しなきゃだね」
「うん……。って、そういえば、ピースラットたちは結局ニセモヨギ草食べてるよね?」
見分け方談義に夢中になって忘れていた2匹の方を見る。
ピースラットたちは僕たちの大声が嫌だったのか少し離れたところに移動してこちらをチラチラうかがっている。
「あ、その謎があったね! むしろ、テイマーとしてはそっちの方が興味あるわ!
普通に考えて、平和鼠が間違えて食べるはずないんだけど……」
「うーん、だよね……。でもおいしそうにモリモリ食べてるし……。この2匹だけ特別とか?」
「いや~……。食性が変わるような突然変異だったら、もっとわかりやすく見た目に変化が出るものよ。どう見てもこの2匹は普通の平和鼠よ」
「とすると、元からピースラットのエサはニセモヨギ草……?」
「そう考える方が自然ね……! ちょっと待って、これも、ものすごい発見じゃない!?
平和鼠って毒以外は無害だし、見た目もかわいいから愛好家が多くて愛玩要望が多い魔獣なんだけど、どうしても人工繁殖に成功しなかったの! 最大の原因は採取されたモヨギ草をどんな風に与えてみても食べなくて、自然下でしか餌を食べないんだと思われてたんだけど……!」
「そもそも、ニセモヨギ草の方を食べるんだったら、エサ自体が間違ってたってこと?」
「そうよ! えー!? これって王立学園の研究論文レベルの発見じゃない!?
すごいすごい! 本当に飛び級できちゃうかもよ!?」
チロルは飛び跳ねて喜ぶ。肝心のピースラットたちは驚いてさらに少し奥に移動してしまった。
……騒がしくてごめんよ。
チロルは気づかずに夢中で話し続ける。
「今まで考えもしなかったわ……! 内臓に毒があることを除けば動物にも劣る弱さの平和鼠よ!
それが毒草を食べてもへっちゃらだったなんて、完全に盲点だわ……!
そんなに胃腸が強かったのね。それとも、内臓の毒でニセモヨギ草の毒性を打ち消せるのかしら?」
チロルの言葉を聞いて、僕はふと毒のある蝶のことを思い出す。
「もしかしたら、ピースラットたちは、ニセモヨギ草の毒を内蔵に蓄積してるんじゃない?」
「え? 毒を蓄積?」
「そう。魔獣じゃなくて、昆虫の話なんだけど……。僕の国には、植物の毒を体にため込んで天敵の鳥から身を守る蝶がいるんだ。もしかしたらピースラットもそうなんじゃないかなぁと思って……」
アサギマダラ蝶やオオゴマダラ蝶のことを思い出しながら話してみる。毒のある蝶だけど、それは幼虫の時にキジョランとかホウライカガミなんかの毒性のある葉をあえて食べて体内に毒を蓄積したもので、自分で作るわけじゃない。
翅が派手できれいだけど、毒があることを意味する警戒色でもあったはず。
ピースラットのきれいな水色の体も毒があることのアピールなのかもしれない。
そんな話をかいつまんで説明すると、チロルはものすごく真剣に考え始めた。
「なるほどね……。それはとても面白い説だわ。
自分で毒を合成するより、植物の毒を取り込んでためておく方が効率的だものね。
平和鼠が生存戦略でそういう進化をしたっていうのも十分あり得るわ……」
うんうんとチロルはうなずいて急にぱっと僕を見る。
「タイチ! ちょっとこの平和鼠の話、本当に真剣に発表した方がいいと思う!
ギルドに戻ったら、リンジュさんに相談して一緒に研究しよ! でも、信頼できる人以外に勝手に話しちゃダメよ!
成果を盗まれるかもしれないから内緒にして! 約束よ!」
「う、うん。わかった」
「さあ、そうと決まればさっさとモヨギ草集めまくりましょ!
早くギルドに帰りたいわ!」
「それはいいけど……。チロルも薬草採取するの? 受けてた依頼は?」
「そんなの後回しでいいわよ!
初めて薬草がしっかり見分けられるようになったんだもの! わたしだって薬草採取に挑戦してみたいの!」
「あはは! じゃあ一緒に頑張ろ!」
腕まくりして張り切っているチロルに釣られて僕は思わず笑った。
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