番外編 彼女はよその子と戦うようです
Twitterで募集した企画によるの短編です。
僕のオーバーラップズの誰かと、よその子を戦わせる企画で描いたお話となっています!
相手の子はTwitter@InuSeifuさんの「天城才香」ちゃんです。
越神は気づいている。この世界を見ている、あなたに。
「今日は、そうね。この話を聞かせてあげる」
彼女は「観察日記」を手に取り、ページを開く。
「他の世界へ飛んでしまった絢音ちゃんの話よ」
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私は混乱していた。
いつものように目を覚ましたら、寝た場所と違うところにいたのだ。
気づけば自身の格好も寝巻きではなくいつもの制服となっていた。
「どこ…ここ?」
辺り一面真っ暗闇。立ち上がって見渡してみて理解する。
ここはだだっ広い真っ暗闇の中にある、白く大きな柱の上だ。
直径は100mほどあるだろうか。
例えるならゲームのチュートリアルのような場所である。
自分自身はゲームをやらない絢音でも、桃音に携帯ゲームを押し付けられるのと小説好きなのが混ざってその辺りの知識は潤沢にあった。
特にすることもなかったので、外周を落ちないよう気をつけながら歩く。
「ん……?あれは……」
外側を歩いていると、階段のようなものが浮き出てきた。その先には今いるものと同じような足場がある。
これは桃音に教わったことあるパターン…有体に言えばボス戦前、というやつに似ている。
知識にある物どおりならこの階段を登り、あちらの足場に移動したら何かが起こるのだろう。今の足場にいても何かが起こる可能性はゼロだと、直感はすでにさじを投げていた。
「行くしか、ないか……はあ」
訳も分からずこんな場所に来て、何が哀しくてボスが出るであろう場所へ移動しなくては行けないのだろうか。
ため息をついてグチグチと文句を呟きながら階段を登るのだが……
「――ぅ!?」
絢音は
咄嗟にその場で音もなく伏せた。少しだけ顔を上げながら、足場の様子を伺う。
足場にはすでに一人、女性がいた。一人だけだが。
敵か味方か分からないうちは、見つからない方がいいに決まっている。
どうしてこんなところにいるのかもよく分かっていないのだから。
彼女はかなり大胆な格好をしている。身長は私よりかなり高めでその手には薙刀が握られている。一瞬目を奪われたのはその胸元だ。かなりでかいうえ、胸元が開いた格好をしているためその存在感たるや……。
思わず自身の胸元に手を引き寄せるも、その存在を確認するには手をかなり内側に曲げる必要があった。つまり、薄いのである。
若干自分の行為で傷をえぐりながらも観察を続けて気づいた。
「あれが……ボス?」
桃音が言っていた知識にもそのパターンは存在する。
その言葉を私は鮮明に思い出せた。
『……大体は部屋に入ると召喚されるやつとかだけど、もともと存在しているボスに近づくと戦闘になる奴とかもあるの。あとアイテム使うと出てくるボスとかもいるね!……』
実際彼女はその場から一切動いていない。
アレは桃音が言うところの「ポップ地点」なのだろう。
生まれた場所からイベント発生まで動かず、戦闘開始後はぐいぐい動くというやつだ。
そこまで考えたところで絢音は思考をやめた。
時間の無駄だと悟ったから。
「行かなきゃ」
ようは倒せばいいのだ。彼女も言ってたじゃないか。
「ダンジョンで詰んだら皆殺しで何とかなることが多い」って。(物騒だけど)
「気が引ける……けど、やるよ」
気を取り直して、私は階段を一気に駆け上がる。
足場に降り立った瞬間、階段は鈴のような音を鳴らしながら消えていった。
これでもう、後戻りはできなくなった。
「後戻りなんて……しない――《展開》」
私は先手を打って、自身の周囲に剣を出す。
これは視認した敵に、飛ぶ。
そして彼女も動き出していた。走るたびに胸が上下しているのが非常に非常に気に障るが、それで冷静さを欠くのだけは避ける。もげてしまえ。
半径、20m。それは私の射程圏内を意味する。
彼女が私から見てその範囲に踏み込んだその直後、周囲に展開した6本の剣は狙いたがわず彼女へ飛来する。
「!!」
彼女は身をひねり二本を回避し、そのまま回転して三本目を斬り払い、続く三本のことごとくをなぎなたを振り回し弾く。
どうやら彼女には音速で飛ぶ私の剣は防がれるようだ。
だが・・・
「後ろががら空き…!」
無詠唱で魔法を追加発動する。Fクラス内で私だけができる特技だ。
その瞬間彼女が先ほどかわした2本の剣は向きをその場で変え彼女に後ろから襲いかかる。
それでも彼女は獣のような反射神経で直撃を避けた。
しかし、かすり傷だが一撃入れることはできた。後方へ飛んだ彼女は宙返りと同時に薙刀を振り上げる。
薙刀を包み込む薄ピンクの光がコチラにまっすぐ撃ちだされた。
咄嗟に前転して、その下を潜り抜けて回避したが彼女はすでに二撃目を放っている。
体勢が悪く今度は回避できずに直撃を食らう。強い衝撃と熱を感じそのままふっとばされた。打ち所が悪く、少し頭が揺れている。
「い、痛……い……?」
夢にしてはリアルな痛みを感じた。これはまさか夢ではないのか?
私はそもそもあまり夢を見ない。夢は痛みを感じないと言う私の考えが間違っている?
…しかし、今はどちらでもよかった。
「痛いなら……避けるだけ。かわされるのなら……避けられない数だけ、撃つ」
私は立ち上がり、再び魔法を発動する。行なうのは武器の召喚だ。
召喚召喚、また召喚。
またたく間に私の周りの剣は増えていく。召喚しながら私は彼女を射程に留めるよう動き続ける。彼女は迫りくる剣のことごとくを斬り払っているがさすがに無傷とはいかず、少しずつだがその体に傷は増えていった。
だが、それは私も同じである。自身の剣は自分をすり抜けるのだが彼女の薙刀は非常に鋭く速く正確に人体の急所めがけて繰り出されるため、一撃でももらうわけにはいかない。運動はさほど得意ではない私が、達人レベルである死の一撃の回避を続けている状態だ。
そんなギリギリの綱渡りがずっと続けられる訳はなく、急所以外への傷はだんだん増えている。痛い。
気づけば数十本あった剣の全てが斬り払われていた。
それに見合うだけのダメージは与えられたが、自身のダメージを鑑みるとむしろマイナスといえる。
「ちっ……え?」
彼女の薙刀を持っていない方の手にはいつの間にか、お札が握られている。
彼女はそのお札をこちらへ向けて投げ捨てた。
反射的に後ろに飛んだが宙に浮かんだそれから放たれた光の弾は狙いたがわず私に当たる。
直線状に避けるのはどうも悪手だったようだ。
腕を焼くような痛みを歯を食いしばって耐えながら、私は空中で身をひねり地面に手をつけて受身をとる。
すかさず魔法を発動。剣を射出し空中に設置されていたお札を切り裂いた。
その間にも彼女は目の前まで迫っている。とんでもない膂力だ。
「くっ……」
そのまま薙刀が振り上げられ私の右半身を大きく切り裂いた。
傷は浅めだが、広い。全体的にじくじく痛む。どうしてこんな事になった。
私は倒れこんだまま、ほんの少しだけ絶望を感じていた。
相手はどう見ても殺しにかかっている攻撃をしている。
だが私はどうだ?無意識のうちに急所を狙わずに、戦闘力を奪うことだけに固執していたのではないか。
思えば最初からだ。私は相手の腕と足ばかりを狙っていた。
だが相手は全て人体の弱点を狙う攻撃を繰り出している。どちらが有利になるのかは火を見るより明らかだ。
殺すつもりで戦ってる相手に、手加減して勝てる道理など、もともとなかったのだ。
「私は……」
ゆっくりと立ち上がり、切り替える。
相手はこちらへ薙刀を振りかぶりながら走ってきている。
それを視界に捉えながらも、思考は遠くに隔離していた。
以前からそれの存在を感じてはいた。
「仕方ないよね……?……ゴメンね」
私は小さく呟き、魔法を発動する。
「《空想上書き》」
私にドス黒い意志が流れ込むのが分かる。もう二度と会う事は無いだろうと思っていたそれは、今の私にはとてつもなく頼りに思えた。
「バトンタッチ……よろしくね」
それは私の差し出した手に答えた……気がした。
「任せて」
その言葉と同時に、私は体を失ったような感覚に襲われる。
意識だけははっきりしていて、体は動かせない。体の感覚はあり、確かにあるのは分かる。
それでも私の体は私の想像以上の動きをして敵の攻撃を全て紙一重でかわすほどの戦闘力を手にしている。
「遅いよ」
私の口をついてでたそれは挑発だ。しかし決して驕りでは無い。
手元に素早く剣を召喚し、音速で振り上げる。
彼女はさすがの反射神経で後退し、皮膚をわずかに斬る程度で済ませた。
しかし、私の攻撃は止まらない。
「貫け」
彼女を取り囲むように瞬時に剣が召喚され、音速で撃ち出された。
彼女は迎撃を試みているも、ことごとく外している。
今の私の攻撃はただの音速攻撃では無い。
相手の薙刀に触れる瞬間、避けているのだ。あれはそういうものだ。
私の生み出した剣は次々と相手の体に突き刺さる。
自分が攻撃された時は気にしていなかったが、私は見ていて気づいたことがあった。
(傷……出血しないんだ)
あれだけの数の剣が体を貫いたというのに、血の一滴も流れていない。
ここはやはり、現実世界とは違うところなのだろう。
「消え去れ」
そして全ての剣は消滅する。相手の体には剣の刺さった傷こそあれどやはり血の痕はどこにもなかった。
彼女はとうとう膝をついた。私はゆっくりと近寄り、その手の剣を振り上げる。
「さよなら」
私は剣を振り下ろした。
◆
戦いが終わったしばらく後。あれを使った事で疲れきった私は大の字になって上を見ていた。
「このまま……戻れたら……桃音にお礼、言っておこうかな……」
落ちていく意識の中、朦朧とした頭で私はそんな事を考えていた。
彼女に色々聞いていなかったらこんな現象はありえないと切り捨てて自暴自棄になっていただろう。
戦う選択をしたのは彼女のおかげだ。
それから数分もしないうちに、私は意識を手放していた。
◆
私は安心した。
目を覚ましたら、いつもの場所――つまり自分の部屋にいたのだ。
当然私は寝巻きである。制服ではない。
やはりアレは夢……だったのだろうか?
休日なので遅刻などの心配は無い。
「桃音……どんな顔するかな?」
私は無性に桃音を驚かせてみたくなって、彼女の部屋へと向かった。
たった数時間の、冒険のお話を聞かせるために……




