Ep.010「二度と見たくなかった顔」
桃音とみくもがメインです
越神は気づいている。この世界を見ている、あなたに。
「今日は、そうね。この話を聞かせてあげる」
彼女は「観察日記」を手に取り、ページを開く。
「桃音ちゃんがFクラスに来たきっかけの話よ」
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時は夏休み最終日。
「今日と言う今日は遊ぶぞーーー!!」
桃音はハイテンションだった。
長い休日においては大半の人はむしろテンションが下がるであろう連休最終日、桃音はむしろテンションの上がるタイプであった。
「いやいやずっと遊んでたよね?佐倉さん」
後ろでそう意見を述べるのは夏休み初日から何度となく顔を合わせている椎名さん。
「まーまー。いいじゃないですかー休みだしー?課題は当に終わらせてるし」
「…それならいいけど」
課題が終わってるから遊ぶ。うん、何もおかしくはなかった。
「…あれ?でも、佐倉さん5日目にはここに来てたよね?」
桃音はコツンとおでこに手を当てる。
「4日に終わったぜ☆てへぺろ」
「参考までに聞くけど、どうやったらそんなに早く処理できるのさ?」
「そもそも課題多くなかったし、一日8時間やれば4日で終わるよ」
…全教科合わせて300ページあるのに、多くなかった…だと?
「よーし、椎名さん!あそこのゲーセンいこーぜ!」
「はいはい、仰せのままに。佐倉さん」
みくもは考える事をやめ、桃音とともにゲームセンターへと入っていった。
◆
私達はVR銃撃対戦ゲームをプレイしていた。
「よっしゃー!!また勝ち!勝ちだよ椎名さん!!」
「やっぱり強い、佐倉さんは…」
まるでゴーストデータ中3年間頂点を降りていない『ももねるねるね』みたいだ…。
本人の操作データを解析して作られるAIのゴーストデータであるくせに一度も勝ったためしがないプレイヤーだ。
しかし彼女の名前は日本全国で見かける。こんな辺鄙な土地にはいないはずだから別人なのだろう。
「おい女どもぁ!!ゲーム機あけろや」
不意にそう声をかけてきたのは痩せ型の茶髪男だ。
みくもは目を凝らす。
魔法を唱える事でしか正確な情報は捉えられないが、簡単な情報ならこれで視えるのだ。
「…ゲームマニア、DQN…か」
誰にも聞こえない声量で呟く。
さて、どうしようかな。
「どうする、佐倉さん。譲っとく?」
「………………」
佐倉さんから返事がない。
どうしたのかと思い振り返ると、青ざめていた。
さっきまでの喜びの色は微塵も見えず崩れ去り、純粋な恐怖の色に塗りつぶされている。
「ぁ……あぁ……ぁぁぁ」
佐倉さんはよたよたとふらつきながら後ろに下がり、体勢を崩し尻もちをついてしまう。
「佐倉?……ああ。お前か……こんな辺鄙な場所でしぶとく生きてたんだなぁ」
ずけずけと近づいてくる男。どうも佐倉さんの事を昔から知っているようだが…言葉の端々から嫌な感じが伝わってくる。
「うわぁぁぁよるなくるな近づくなぁぁぁぁあ!!」
抗議しながらもなんとか離れようとしている。
明らかに様子がおかしい。異常なまでに…恐怖している。
ならば私がするのは一つだ。
佐倉さんと男の間に割り込み、男を見上げる。…背が高いな。
「私の友達に何の用でしょう?彼女は男慣れしていないようなのであまり近づかないで頂きたい」
「俺はゲームで勝負しようってんだよ。昔、ソイツには負けて…いや、俺の勝ちで終わったんだったな、ははは」
「やめろよ…もう関わらないでよ……どっかいって!!」
彼女とコイツに何の関係があったのか、私には分からない…だが、友達がこんなにも怯えるほどの何かがあったに違いない。これは…放っていいわけがない。
胸をはって友達と言えなくなるのだから。
だから私は――
「分かりました。だが、彼女は戦うつもりがない……なので私が受けてたちましょう」
「あぁ?……ふむ。いいぜ、だが条件を追加だ。妥協してやるんだからそのくらいは構わないよなぁ」
「?…ああ、まあ大丈夫です」
「よし。じゃあ、こうしよう。お前が勝ったら俺はおとなしく地元に帰って、もう二度とそいつには関わらない。だが、俺が勝ったら……お前を慰み物にしてやる」
ぶわ、と一瞬で鳥肌が立った。なんてゲス野郎だ……。
「……良いでしょう。万に一つもあなたに負ける事はないでしょうけど」
こちとら佐倉さんと夏休みの間、ほぼ一緒にゲーセンを渡り歩いていたのだ。
彼女にそこそこ焦りを与えられるほどには力をつけてるんだ、私だってそこそこ強いはず。
…だがこれは万が一にも負けられない。念には念を入れておこう。
「…掌握」
彼の思考パターン。戦術、ゲーム知識といった情報を、全て読み取り理解する。
この程度の相手なら・・・・・・数万回戦っても私は負けない。
「さあ、ゲームスタートだ」
卑劣な欲望交じりの開始の合図が告げられ互いの姿は見えなくなり、ゲームの世界へと意識は移動する。
読み取った戦術を元に相手の行動を逆算し、その全ての裏を各ルートを構築。裏をかけなかった場合やかいた後の相手の行動の全てを予測する。
「決めた」
私はジャンプして一発銃弾を撃つ。
これは私の位置を知らせるためだ。
案の定相手は、予想通り障害物を変えながらにまっすぐ来る。
彼が狙いどおりの建物を通行しているのを確認し、
私は構築したルートどおりに走りながら銃弾をばら撒く。
銃弾は建物の壁で反射し、反射した弾に当たり次弾は向きを変え、さらに別の銃弾とも衝突を繰り返し、もはや予測不可能な動きをする弾幕が組み上がった。佐倉さんと戦ってる時に生み出した技…9つの弾丸は龍のごとく、縦横無尽に彼に襲いかかった。
◆
「…認めねぇ」
「は?いや、私の勝ちですよ。立ち退きをお願いします」
私は本来コイツ相手に丁寧語を使う価値もないとは思っていたのだが無駄に煽るのも趣味じゃないのでなるべく丁寧に聞こえるようにお願いする。
しかし、返事は別の形で行なわれた。
「ごふっ!?」
いきなり腹を殴られ、衝撃で吹っ飛んでしまう。
強烈な吐き気とめまいを感じる…なんて腕力だ。
騒ぎに気づいた店員がすぐさまどこかへ連絡を行なっているようで、しばらくすれば止めがくるのだろう。
「やっぱてめぇはいい体してると思うぜ。佐倉は貧相なもんだがなぁ!!」
下卑たことを言いながら飛びかかってきた。
反射的に手が出そうになったのだが私の手が届く事はなかった。
いきなり男は目の前で倒れたのだ。
気づけば男の上には一人の少女がおり、男の頭を踏みつけている。
「あっぶなー。セーフ?あ、怪我はしてるみたいだけど…セーフ?」
私はそう言われて口の端っこに熱を感じた。
軽く出血しているが、この程度はどうってことない。
「佐倉さんは?」
「わ、私は平気…椎名さんこそ、殴られてたよね?大丈夫なの…?」
「よしお二人さん、歩ける?とりあえず、逃げよっか」
こうして里花先導の元三人は店を後にした。
◆
少し離れた公園にて。
「佐倉さん、落ち着いた?」
「…うん」
助けてくれた里花さんはここまでは一緒についてきたのだが、まだ用があると言っていつの間にか消えていた。情報を見る余裕すらなかった。
なので二人だけベンチで休んでいたのだが…
「あのね、椎名さん」
「ん?」
「……ありがとう、守ろうとしてくれて。すごーく嬉しかったよ」
「どういたしまして。あの時はそうするべきだー、ってうちなる私が叫んでたんだ」
「それと・・・私の事は桃音って呼んでほしいな。結構長い付き合いだし……友達、だし」
「桃音…なら私の事も、みくもって呼んでくれる?」
「っ…もちろん!!みくもちゃん!」
――数時間後。
夕方になるまで桃音とゲームについて語り明かした。
名前からして、やはり本人なのではないか…?という疑いが生じたが、無理に詮索することはない。向こうから言うことがあればそれでいい。
そう思いながらみくもは帰路についた。
◆
翌朝、夏休み明け。
朝一番にいきなり、私――みくもと桃音、あと里花さん(同じ高校だったようだ)は教頭に呼ばれていた。
「君達三人。昨日他校の生徒とゲームセンターで暴力沙汰になったそうだな?なんて事をしているんだ!!」
「それは相手の方から――」
「理由などこの際関係ないんだ。他校の生徒と問題を起こしたという事実が問題だ」
いうこともわかる。ごもっともだ。
「それで、処分を決めると…どうなりますか?」
問題を起こしたのだから良くて停学…最悪退学もありえるだろう。
「えー。椎名みくも、佐倉桃音、雨崎里花。諸君ら三名は、本日よりFクラス在籍となる。制服や教材などは今週中に寮の方へ移しておくように。以上だ」
唖然、というべきか。なんと言うか、寛容な処置に思えた。
退学ですらなく、クラスの移動と学生寮への引越しで済むとは…
「…了解しました。失礼します」
「「失礼します」」
私に続いて二人も頭を下げ、三人でFクラスへと向かう。
「初めまして。本日よりFクラスへ入ります、椎名みくもです」
「同じく。佐倉桃音でっす」
「雨崎です」
「夏休み明け早々たくさん来たな……嬉しいか微妙なところだが、少なくとも私は歓迎するよ。私はクラス委員長の泣森小夜だ。何かあったら私に言ってくれ」
Fクラスは問題児の巣窟と聞いていたのだが、正直イメージに合わなかった。
やさしそうな人が多かった。
特に問題なく生活はしていけそうだ……。
およそ半年後にみくもは因縁の相手と相まみえる事になるのだが、それはまた別の話だ。




