Ep.004「見えないのだから、口論は無駄だ」
小夜がメインです。
越神は気づいている。この世界を見ている、あなたに。
「今日は、そうね。この話を聞かせてあげる」
彼女は「観察日記」を手に取り、ページを開く。
「小夜ちゃんがFクラスになったきっかけの物語よ」
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とある晴れた昼下がり。
「なあ、お前ってなんで何もない場所見るの?」
高校に入りたてのその日。小夜に声をかけてきたのはクラスの男子、峰岡だ。
小夜は時折何もない場所をじっと見ているため気になったのだろう。
もしかしたら仲良くできるかも、という下心もあるのかも知れないが。
小夜だって「何もない場所」を見ているわけではないが、反論が建設的ではない事をとうに知っていたため適当にはぐらかす事にした。
「なんとなく気になっただけだよ。不気味だったか?」
「ぶっちゃければそうだな、不気味っちゃ不気味だわな。俺は別にどうだっていいと思うけどよ。入学早々それだと浮くかも知れないぞ?」
「忠告ありがとう。だが無意識なものなので直すのは難しいんだ。あまり気にしないでもらえるよう吹聴しておいてもらえると助かる」
彼はにっと笑って答える。何か、期待通りの事をしていたのか?
「やっぱそう答えるよな」
彼は教室の窓をあけて、続ける。
「実はそれについてはもう根回し済みだ。皆はそれを『集中している時のクセ』って思ってくれるはず」
この男、どことなく要領がいいな。人の性格を読んで行動するのが早い。
私は荷物を持ち、立ち上がる。
去り際に「ありがとう」とだけ呟き、教室を後にした。
◆
本日は入学式だったため、すでに下校時間は過ぎている。
式後の教室で一人で観察をしていたのだが人が来てしまったのだから仕方ない。
…早めに対処しよう。
小夜は教室から眺めていた場所…もとい『グラウンドの端』まで移動する。
そこには物も置かれておらず、人もいない。
――もっとも、人ではない存在がいるのだが。
そこには黒いもやもやが発生している。
これは『シャドウビースト』と呼ばれる存在だ。
小夜やクラスメート、またはまだ見ぬ魔法保有者が原因だ、と彼女は――夜雲は言っていた。
端的な話、「魔法を使うことで発生する魔物」だ。
こいつらは基本的に私の姉、夜雲が具象化前に悉くを斬り捨てているがそれでも数は多く、たまにこうして湧き出してしまう。最初のうちは「魔法保有者」でなければ視認すらできないが時間が立つとともに姿は見えるようになっていき、1日経ってしまうと誰からもはっきりと見えるようになる。
騒ぎが発生する上に強くもなるため、早期解決が重要だ。
「換装。…奪え、《ミオソティス》」
小夜は装備を制服から戦闘私服に換装し、武器を取り出す。
別の世界で手に入れた能力だが、なぜかどこに行っても使えるのだ。
別に武器を出すだけなら着替えなくとも良いが、着替える事で魔法を持たない人には見えなくなるのでよほど急でもない限りは着替えてから武器を取り出すようにしている。
「む…コイツはもう半分ほど強化済みか」
どうやらこれは発生してから半日ほど経過していたらしい。
朝のうちに気づけなかったことが悔やまれるが、起きてしまった事は仕方ない。
まれにこうした個体もいるのだ。
(うかつに戦うと、そこらの学生に見られるかもしれないな…校舎の裏に誘導するか)
軽く剣で表面をなぞり、伸びてきたモヤによる反撃をバックステップで回避する。それを幾度と繰り返し、校舎裏へと誘導する。
(コイツがみられる可能性がある以上、私が見えないのは不自然だな。しかたない)
戦闘私服を解除して制服へと戻ることにした。見られてしまったらそれはそれでしかたがない。どうにかごまかす事にしよう。
校舎裏へと誘導が終わった時。怒りが限界になったのか、ようやく姿を見せ始めた。
それは瞬く間に形を変えゴーレムのような姿になった。
(スプリング・ゴーレム。腕の射出攻撃に注意、だったかな)
幸い見覚えのある魔物だ。対処も分かるため、処理は簡単そうであった。
本来であれば。
「!!」
視界の隅に、人が映ってしまった。先ほど教室で別れた少年、峰岡だ。
(なぜ彼が、ここに?帰るのではなかったのか。いや、それよりも)
危険だ。彼はゴーレムの後ろ…背後とはいえ射程圏内にいる。
そこで彼もコチラに気づいたらしい。
「うわ、なんだコイツ!?」
声に反応してゴーレムが反射的にそちらへ向き直る。
振るわせながら腕を上げる、その予備動作は――
ゴシュッ!!
煙を吹き出しながら腕が発射され、峰岡へと飛来する。
手には竹刀を持っているようだがゴーレムの前ではおもちゃもいいところだ。
間に合ってくれ…!
「夢幻術――《閃光》!」
魔法を唱えてその体の移動速度を跳ね上げる。その勢いのままゴーレムの腋下を通過し、腕を追い抜き、彼を突き飛ばし射線から追い出す。ゴーレムの腕は剣で両断してかわす。
(峰岡は植え込みにぶつけてしまったが、大きな外傷はなさそうだ)
閃光状態のままゴーレムの足元へ移動し、その両腕両足を瞬時に分断し、そのまま1回転して体を左右に真っ二つする。崩れ落ちたゴーレムはその目の光を失い、音もなく黒い煙となって消えていった。
剣をしまい、峰岡へと向きなおる。彼はいつの間にか起き上がっていて、近くまで来ていた。
「おい、小夜!なんで突然俺を突き飛ばしたんだ!」
「……あぁ、すまなかった」
…忘れていた。魔法を持たないものからみたら、不完全な歪みが見えるだけ。
攻撃された事にも気づいたわけはないだろう。結果がどうあれ、私が突き飛ばしたようにしか見えなかっただろう。
「当然この事は、学校にも報告するからな?『1年C組泣森小夜に突然つき飛ばされて怪我をしました』ってな」
妥当な判断なのだ。これが正常な判断なのだ。『突き飛ばさなければ、死んでいた』といったところで誰も信じる人はいない。見えないのだから当然だ。そして、それを伝えようとしたところで嘘を塗り固めた人としてその悪評は高まるばかり。
「…わかった。申し訳ない事をした」
「謝ってくれってんじゃねぇよ。とりあえず、だ。突き飛ばした理由はなんだ。報告を取り消したりはしないけど聞くだけ聞かせてもらおう」
「『突き飛ばさなければ、死んでいた』んだ。だから」
彼は訝しげな表情をしてにらむ。
「……バカにしてるのか?そんな話、あるわけないだろ」
小夜はため息をついた。
「そう思うだろうな。だから言いたくなかったんだ。皆には見えないのだから。口論は時間の無駄だ」
そう言い残して、その場を後にした。
◆
翌日。彼はあの後すぐに報告したらしく、すぐに小夜にも連絡が来た。
机の中に封筒がはいっていたのだ。
覚悟を決めてから封筒を開く。
内容に目を通して、一つ分かったことがある。
どうやらあの男は過大報告をしたらしい。
(廊下の窓が割られ、消火栓の破壊、体育倉庫の窓破壊、か。状況的には昨日のアイツがやったのだろうが、私に罪を被せる事で問題解決者としてもてはやされたいのだろう)
ここまで来たら、停学処分…下手すると退学させられるだろう。
二枚目の報告書…そこにかかれていたのは、どちらでもなかった。
「転籍……?Fクラス行き?……学生生活において著しく社会性に欠ける生徒、問題があると見られる生徒が送られるクラス、か」
どうやらこの学校は比較的寛容な処置をしてくれるようだ。
(入学早々問題児の仲間入り、か。大変な生活になりそうだな)
こうして小夜はFクラスへ転籍することとなった。
小夜の視線を追ったクラスメイトがシャドウビーストを視認したり、
そのままモデルガンでシャドウビーストを倒してしまったり、また別の生徒に個体名までぴたりと当てられた小夜は、非常に驚きに包まれた1年を過ごす事になった。
2年目以降は新メンバーが加わり更におかしな日々になるのだが、それはまた別の話だ。




