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彼と彼らと私のおはなし  作者: たいやき
17/18

私と祐兎くんとお話

祐兎くんの背中を追いかけて約10分。

その間、彼は一度も後ろを振り向かなかった。

なんの話もせずに彼の背中を見失わないようにだけ気をつけて歩いた。

彼の背中との距離が詰まったのは、全国展開する有名なファミレスのチェーン店だった。

彼の足は完全に止まっている。


「え、ここ?」


私は確認のためにそう声をかけた。

喫茶店って言ったよね?


「うん、ここ」


なんの迷いもなくそう答えた彼は、店のドアを押し開ける。

てっきり、レトロな雰囲気のおしゃれな喫茶店に行くのだと思っていた。

それにここは学校からそう遠くない場所に位置しているため、同じ高校の生徒のたまり場の一つだ。

学校で聞かれたくない話はここでも話せないんじゃ・・・。


「春川さん?大丈夫?」


一足早く店内に入っていた彼が私の様子を確かめるために、ドアの少しの隙間から覗き込んでいる。


「あ、うん、ごめんね」


余計なことは考えないことにして、私は店内に足を踏み入れた。




中は案外空いていた。

パッとみた感じでは、学生は多少いるが同じ学校の制服を着ている人は見当たらない。

彼が店員に人数を告げ、席に案内される。

一番奥の席に通され、机にメニューと水の入ったコップを2つ置き「ご注文お決まりになりましたらお呼びください」と残して、店員は厨房のほうに消えていった。

祐兎くんは奥の席に座って、メニューを広げている。


「何か食べるの?」


祐兎くんの向かい側に座って聞くと、彼は「うん、ちょっとケーキが食べたくなって」。

ケーキなんて可愛い。

ふられたのに、私はやっぱりまだこの人のことが好きらしい。

ケーキのページを開いて「これ美味しそう・・・でもこっちも・・・あ、これ好きなんだよなぁ」と一人でぶつぶつ喋りながら悩む彼の姿がかわいくて仕方ない。

でも今日のお目的は祐兎くんを観察することではない。


「・・・あの、話って」


「ちょっと待って、ケーキ頼むから」


ピンポーン。


この人は本当にマイペースなんだな。

彼は走り寄ってきた店員に「ストロベリーショートケーキ」を注文し、「かしこまりましたー」と言いながら去っていく店員を目で追う。

そして視線を私に移して口を開いた。


「昨日さ」


ドキッ


「告白、してくれたんだよね?」


「え、うん」


なんだか変な会話だな。

彼は昨日の記憶も曖昧なのだろうか。


「やっぱり・・・」


「やっぱり?」


やっぱりって何?


「いや、何でもない。

 ・・・春川さん」


「なに?」


「昨日、僕、自分が病気だって言ったよね」


「うん、そう聞いたよ」


それが理由で振られたし。


「なんの病気かって言った?」


「それは聞いてない

 あの、それを今日聞きたくて」


「・・・あ、春川さんの話ってそれのこと?」


「う、うん」


そう。

私は今日、病気のことを聞こうと決心して来たのだ。


「そう・・・」


「ショートケーキでお待ちのお客様ー」


タイミングを見計らったかのようなナイスタイミング。

店員は小さく手を挙げる祐兎くんの前にかわいらしいショートケーキを置いて、「ごゆっくりどうぞー」と言ってメニューを片付けて再び厨房のほうに戻って行った。


「ケーキ、食べないの?」


「あー、うん

 あとででいいや」


そう言って彼は、せっかく頼んだケーキを壁側に寄せた。

どうしたんだろう。

さっきはあんなに楽しそうに選んでいたのに。


「あ、話の続きなんだけどさ」


もうケーキのことなんて忘れてしまったかのような、対応の変わりよう。


「春川さんは、僕が病気だって信じてるの?」


真剣なまなざし。


「信じてるよ?

 え、嘘なの?」


「いや、本当」


じゃあなんでそんなこと聞くんだ。

私には彼の考えが全く分からない。


「まあ、まだなんの病気かも分からないんじゃ信じるも何もないか」


「だから、病気のこと教えてほしいの」


「そんな簡単には教えられないよ」


「え?」


「病気のことを他の人に教えるかどうかは、僕だけの問題じゃないから」


「どういうこと?」


彼の言っていることがよく分からない。


「ご両親の了承がいるの?」


「・・・両親は関係ない」


突然声がちいさくなる。

絞り出すような苦しそうな。


「ご両親と、何かあったの?」


「・・・」


「ご両親に言うなって言われてるとか?」


彼は何も答えない。

ただ俯いて、動かない。


「祐兎くん?」


きっと、両親との間に何かあったんだ。

私は直感的にそう思った。

そしてそれと同時に地雷を踏んだのかもしれないと思った。

思い出したくない過去に触れてしまったのか。

心配していると、祐兎くんの頭が持ち上がった。


「・・・」


祐兎くんは周りをキョロキョロと見まわしている。

どうかしたのかな。


「ねえ、祐兎くん?」


私の声に、彼の視線が私に刺さる。

そして「春川さん?」と首を傾げた。


「祐兎くん、大丈夫?」


「あー、うん

 ねえ今さ、なんの話してたっけ?」


「え、病気の話でしょ?

 なんで病気のこと、私に言えないのかって」


「・・・あー、そうだったね」


「それで、なんで言えないの?

 やっぱりご両親に口止めされてるとか?」


「両親って。

 ああ、そういうことか。

 いや、病気のことを言えないのと両親は全然関係ないよ」


「え、じゃあ、なんで?」


「それは言えないなー」


彼はなんだか嬉しそうだ。

さっきよりもいきいきとしているように見える。


「わ、私、祐兎くんの病気のこと知りたい

 病気だからって振られちゃったけど、そんな理由じゃ納得いかないよ」


「じゃあちゃんと病気のこと話したらもう金輪際近づかないって誓える?」


「なにそれ・・・」


「誓えるの?誓えないの?」


「それは・・・」


「はっきりしないなぁ

 そんなんじゃ教えらんないから」


「そ、そんな・・・」


「俺の口からききたいならもっとちゃんとはっきりして。

 俺が直接言わなくてもいいなら、自分で考えて」


なんだか、さっきとは全然口調が違うような・・・。


「考えてって言われても、私、医学的な知識とかないし・・・」


「そんなのなくてもインターネットみればいいでしょ

 俺の病気、結構有名どころだし、俺の行動とかをネットで検索かけてみればいいじゃん。

 きっといやっていうほど出てくると思うよ」


彼はそう言って、傍らに置いてあったケーキに視線を向けた。


「このケーキ・・・

 あ、そっか今日アラタの誕生日か」


「アラタ?」


クラスにアラタという名前の人はいないし、少なくとも私は同級生にも聞き覚えのない名前だった。


「いや、こっちの話だから気にしないで」


そう言って、ケーキがのった皿を持って席を立つ。


「か、帰るの!?」


「帰るよ?

 もう用事ないでしょ」


「で、でも祐兎くんも私に話があるって言ってたよね?」


彼は斜め上を見上げて、「んー」と唸ってみせる。

が、すぐに目線を私に落とした。


「忘れちゃったからまた思い出したら話しかけるよー」


彼は「じゃあねー」と言い残して、席を去っていった。

ど、どういうこと・・・。




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