私と祐兎くんと朝
玄関に着く前にほのかは他の友達に会ったようで、連れて行かれてしまった。
彼女は他クラスにも友達が多くいる。
あの柔らかい雰囲気が人を引き寄せるのかもしれない。
登校してくる生徒でごった返す玄関で上履きに履き替える。
それと同時に、周りに気を配る。
ここで祐兎くんに会うわけにはいかないからだ。
まだ心の準備ができていない。
たしかにちゃんと話をすると決心はしたが、それとこれとは話が別だ。
心はそんな簡単に私の考えについてきてくれない。
「春川さん」
この声は。
息が止まった。
脳が「早くここから逃げろ」と叫んでいる。
でも全身の筋肉が硬直してその場から身動きが取れない。
「ねえ、春川さんだよね?」
首の筋肉に無理を言って、声のする方に顔を向ける。
そこにいたのはやっぱり祐兎くんだった。
聞き間違えるはずない。
私の大好きな声。
私に「ごめん」って言った声。
「祐兎くん」
「春川さんでしょ?」
「え、うん」
なんか、様子がおかしいような・・・。
昨日振った同級生の顔をもう忘れてしまったかのようだ。
頭を強く打ちつけたのか、それともよほど記憶力がないのか。
「だよね
あのさ、今日の放課後、ちょっと話できる?」
「わ、私も!」
「?」
「・・・私も、話したいことがあります」
「そっか。
じゃあ放課後、教室で」
「うん」
思ってもなかった。
まさか、祐兎くんの方から「話がある」なんて言われるとは。
ふった相手に一体何の話があるというのか。
病気のこと、ちゃんと話してくれるのかな。
自分が心の病気だってことを誰にも言うなって口止めするため?
遠のいていく祐兎くんの背中を目で追う。
彼は、何を考えているんだろう。




