私と通学電車とほのか
いつもより早く起きたおかげで、余裕を持って準備ができた。
家族が起きてくると混んでしまう洗面台も、今日は私1人でゆっくり使ってやった。
お母さん手作りの朝ご飯をよく味わって食べた。
家族の誰よりも早く家のドアを開けた。
「おーはよ」
駅のホームで声をかけてきたのはほのかだった。
相変わらずふわふわした笑顔を浮かべている。
「うん、おはよ」
(ほのかに言わなきゃ)
私が祐兎くんを好きだと知ってからずっと応援してくれた唯一の友達。
まあ、他の子に私が言わなかっただけなんだけど・・・。
それは今はおいておこう。
とにかく、大切な友達であるほのかには言っておかなきゃ。
昨日祐兎くんと話をしようと思ったときに、ほのかにも言おうと決めたんだ。
駅員のアナウンスとともにホームに電車が入ってくる。
「行こ」
「あ、うん」
ほのかに言わなきゃと思っていたら電車に乗るのを忘れていた。
電車に乗り込んですぐに、ドアが閉まった。
ほっとして胸をなで下ろす。
電車の中はいつも通り、通勤するサラリーマンやら大学生やら高校生やらでごった返している。
座れる席はもちろん空いていない。
ほのかと一緒にドアに寄りかかる。
「どうかした?」
心配そうに顔をのぞき込んでくるほのか。
私の方が少し身長が高いから、自然とほのかは上目使いになる。
(かわいいなぁ)
ほのかのマイナスイオンで緊張がほぐれた。
そして勢いで、昨日の放課後のできごとを洗いざらい話した。
電車の中であることも忘れて、ほのかに全てを話した。
祐兎くんにすごく優しくしてもらったこと。
放課後に2人で勉強をしたこと。
そして、告白したこと。
ふられたこと。
そこまで聞くと、ほのかはすごく驚いたようだった。
「ふられた!?」
いつもだったら絶対出さない程大きな声が出た。
私は必死に「しーっ」とほのかを止めた。
私の制止で我に返ったほのかは赤面して、周りに軽く頭を下げた。
「ふられたって・・・それほんと?」
どうやら信じられないらしい。
わたしだって信じたくはないけど、ふられたのは真実だった。
「・・・ほんと」
私とほのかの間に静寂が流れる。
車内のアナウンスによれば、次が私たちが降りる駅らしい。
ということは30分近く昨日の話をしていたのだろうか。
それこそ信じられない・・・。
「凛ちゃんは、それでいいの?」
「・・・よくないです」
ほのかの真剣なまなざしに思わず敬語になってしまう。
「じゃあ、どうするの?」
「ちゃんと、祐兎くんと話する。
あんな理由じゃ納得いかないし」
「どんな理由?」
そうだ、まだふられた理由を言ってなかった。
「心の病気だから、って、言われた」
「心の?祐兎くんって病気なの?」
「見えないよね」
「うん」
「だから、ちゃんと話そうと思ってる。
どんな病気なのかも分かんないんじゃ、全然受け入れられなくて」
「そうだね」
不思議だ。
昨日はあんなに憂鬱で、本当に言うのかという思いもあったのに。
今はこんなに話せている。
全部話してしまった。
昨日あったことも、私の思いも。
「よおし。凛ちゃん、がんばろ」
私の手をきゅっと握ってくれた。
この子の可愛さに、本当に救われた気がする。
電車が止まり、人の波に流されて私たちもホームに降りた。
そのあとほのかは他愛もない話をしてくれた。
昨日のテレビのこととか、自分の弟のこととか。
気を遣ってくれているのだろう。
おかげで学校に着く頃には余計な緊張は消えていた。
ほのかに感謝の思いを寄せながら、生徒玄関へと向かう。




