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狐火の新技。そういえば、どういう技なのかは聞いてなかった。今日一日はずっと事件にかかりきりだったから、タイミングがなかっただけなんだけど。
「もしかして、拘束術? 足止めできるってことは単純に火力が高い術式じゃないよね」
(そうだな……幻術と拘束術の抱き合わせってところだ。当てられればどっちにも使える)
おおっ。思ってたよりずっとハイスペック。流石は九尾の術式。
天狗は持っている術式の都合でもともとあらゆる術体系に強い種族で、霊縛通があるように拘束術も得意。高位妖怪の中でも搦手が通用しにくい相手になる。それを拘束出来るだけでも十分強力なのに。
(だからちょっとだけ、身体を借りる。極彩火輪を撃ったら、一気に突っ込め)
「二つ目の狐火は? 私が表に出てていいの?」
(暴発してもせいぜい身動きが取れないだけだからな。わたしが解除できるからいいんだ)
タマは極彩火輪を私に使わせたことは一度もない。「威力がありすぎて、おまえが妖力の操作を誤ると手元で爆発するかもしれない。そうなったら、手足が吹き飛ぶくらいじゃ済まないぞ」というのだ。
術式を初めて貸してくれたときも、まずはおそるおそるお手本を見せるといったかんじで、危ないことにはすごく厳しい。だから、タマが平気というならきっと大丈夫。
「……おっけー、やろっか。竜巻の中で攻撃されても、私止めないからね」
(当たり前だろ。わたしがそんなの許すと思うか)
軽口を叩いて微笑むタマ。
そのとき、水の中に潜っているときのような、浮遊感がやってきた。身体の主導権が入れ替わると、常に訪れる感覚だった。
私が私の動きを俯瞰しているみたいで、幽体離脱をしたことがある人も、きっとこういう感覚だったんだと思う。
五枚の防御結界が一斉に展開し、私の周囲に傘をつくる。その下で、タマは極彩火輪の術式を発動させた。
「狐火、極彩火輪っ!」
集めた妖力が少量だったせいか、円環は十秒もかからずに完成した。落雷が幾度も結界に降り注ぐ中、間髪入れずに投げつける。横回転の輪はあっという間に風の壁へと潜り込んでいった。
炎がすっぽりと消えたそのとき、轟音と共に爆発の連鎖が起きた。一回目の衝撃で文字通りの風穴が穿たれ、それがどんどん開いていく。最後の特大爆発が終わったとき、竜巻の下部どころか半分ほどが吹き飛んでいた。
(走れっ! 真夏!)
夢から覚めたように、手足の感覚が戻った。
ガラ空きになった開口部を目指し、私は駆けた。徐々に砂嵐がもとの形へ戻っていく。その前に、壁を抜ける。
「……タマっ!」
竜巻の中に入って早々、砂の槍が襲いかかってきた。多重に展開した防御結界が、それを通さない。
頼んだよ、タマ。
私は私の防御結界をひとつ、またひとつと貼り直して、それに飛び移りながら上を目指す。覚えたてでまだ四枚以上は同時に出せないから、上がる度に消さないと足場をつくれない。
雷は竜巻内部でも繰り出せるようで、私をなんとか撃墜しようとびゅんびゅん飛んでくる。砂の槍も風の刃も、さっきまでと違って照準が狭いからか、妖力の消費なんて知らないとばかりにおかまいなしだ。
十メートルほど登って、ようやくカルラくんのお兄さんの姿が見えてきた。手を激しく動かしながら、滞空している。
掌印で神通力を運用してるみたいだ。同じ術式とはいっても、別の効果を同時に扱えるのはふつうに巧い。私だって、火舞羅と焔玉を同時には繰り出せない。
「あと少し……!」
私が近づくほど、攻撃は苛烈になっていく。でも、タマの防御結界はそれを完全に防いでくれていた。妖力の量に差があると、これを貫くのは簡単じゃない。それに、お兄さんはガムシャラに対空攻撃を放っているから、かなり力を使っているはずだ。
パキィン!
嫌な音がした。
私が次の足場にと展開した防御結界が、雷を受け止めて壊れた音だった。
複数枚展開したときにはまだ強度が下がってしまうのだけど、よりによってここでその弱みを突かれるなんて。
(ふん、そうはさせるか)
落下する直前、タマが追加の防御結界を出してくれた。私はそれを踏み締め、一際大きく跳躍する。
タマの妖力が一気に私へ巡ってきた。狐火を使うときは、タマ自身の妖力で運用してるのだけど、今回は一緒にやるから必要なぶんを回してくれたらしい。
ようやく顔が見えるところまで来た。
怒ってるような、苦しそうな、そんな顔だった。私を凝視しながら、歯を剥き出しにしている。
温かな妖力が私の霊力と溶け合い、炎に変わる。
(「狐火、魅縛蛍灯っ!」)
緑色の小さな炎がいくつも飛び交った。不規則な軌道で揺らめきながら、あちらこちらに飛翔していく。
それはまるで、夏の夜の暗闇に明かりを灯す、蛍のように。
炎はお兄さんの周りを囲うように接近すると、頭のあたりで回転を始めた。
すると、お兄さんはそれまで結び続けていた掌印をぱたりとやめてしまった。どこか虚ろな表情でぼうっとしている。
この隙を逃す手はない。
私は最後の防御結界を踏み台にして、空中で一回転した。
「ごめんね、お兄さん」
ガツン、と鈍い音が響く。
逆上がりの要領で、私はお兄さんを地上へ向けて蹴り落とした。




