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「どうするの?」
竜巻から飛び出してきた砂の槍をサイドステップで避けながら、尋ねた。風に指向性を与えることで、こういうことも出来るらしい。器用だな、と思う。
(縦回転の極彩火輪で竜巻ごとブチ抜くんだ。上手いこと術者に当たれば儲けもの、当たらなかったとしても面倒な渦巻きを消せる)
「いい案だけど……それ、お兄さんに直撃したら死んじゃうんじゃない?」
(ああ。当たりどころによっては、そのまま倒せる。他に選択肢も少ないしな)
極彩火輪の破壊力は、私もよく知っている。
それに、二本目の尾を取り戻したことで、タマの妖力は以前よりずっと多くなった。たとえ防御結界で守られたとしても、余裕で大ダメージを与えられるはず。
───でも。
「……ねえ、タマ。お願いがあるの」
(なんだ? 突然)
「カルラくんのお兄さんを、なんとか死なせずに無力化できない? タマの尻尾だけ取り除くとか」
(……まさかとは思うが、あいつの頼みを本気にしてるんじゃないだろうな)
小さく頷き、私はタマの疑問を肯定した。
校舎から出る前、カルラくんがタマに怒られるのを承知の上で、私に縋りついてまで頼んだこと。「コガラシ兄ちゃんと、もう一度顔を合わせたい」という願い。
私は、それを叶えてあげたかった。
(冗談じゃない。わたしの尾を使い込んでた天狗の生き残りが、今度はその力でおまえを殺そうとしてるんだぞ。お人よしも大概にしろ)
痛いところを突かれた。
実際問題、落雷の威力はどんどん増してきている。タマの防御結界じゃないと、もう防ぐことは難しい。砂の槍は直接の術式でないぶん、威力はそれほど高くない。けれど、牽制としては十分厄介だし、落ちた砂から次弾をいくらでも作れるから、弾切れは望めない。
それに、さっきからずっと走りっぱなしでそろそろ体力も限界に近い。霊力で心肺機能をアシストしてるからなんとかなっているだけで、素の身体能力ならとっくにやられているところだ。
「でも、カルラくんにはもう家族がいないんだよ? 友達も大勢失って、住んでた場所も無くなって。それでお兄さんまでいなくなったら、本当にひとりぼっちになっちゃう」
(……ふん、知ったことか。天狗どもが鬼に負けたのは、抗うだけの力を持っていなかったからだ。強さがなければ、他のやつにいいようにされるだけだ。それはおまえだって分かってるはずだろ)
「……タマだって、家族がいなくなったら悲しいでしょ? 私がいなくなったら、タマも嫌じゃない? 違う?」
(…………っ)
タマの威勢が一気に消えたことに、私はすぐに気づいた。
私はタマのことが大好きだし、タマだってそれは同じなはず。だったら、これで説得出来るんじゃないかと思った。私もタマがいなくなるだなんて、考えたくもない。
防御結界が複数展開され、雷を遮断する。タマの返事を聞くには、少しだけ時間を要した。
(……分かった。分かったよ、真夏。この案はなしだ。だからもう、それは使わないでくれ……)
「そ、そう? うん、いいよ。ありがとう、タマ」
なんだか想像してたより効果あったみたいだけど、結果オーライ。
(わたしの尾を取り出す手段はある。直接やつに触れて、わたしとの共鳴を利用して引き剥がせばいい。妖力操作と同じだから、これは大した問題じゃない)
「なるほど、それならやっつけなくてもいいね。ガシャドクロのときはどうだったの?」
(あのときは極彩火輪の残滓を使った。爆散したあとに散らばった尾の妖力をかき集めて、そのままわたしに戻したんだ。尾が取り込まれた以上、放っておけば自然に霧散するから、その前にな)
「ありゃ。タマ、そんなことしてたんだ。いつ尻尾を取り戻したのか分からなかったから、気にしてたんだ〜」
(本題はここからだ。やつに近づく必要が出てきたからな。それも、手が届く距離まで)
私は思わず苦い笑みを浮かべてしまった。
撃墜が困難な状況下だと、その条件はとんでもなくハードルが高い。自分でお願いしておいてなんだけど、かなりの無茶ぶりだ。
でも、タマは他に手がないとはひとつも言ってない。
「何か、打てる手立てはあるんでしょ? 教えて、タマ。どうすればいい?」
(……まずは、極彩火輪で風の壁を突破する)
「えっ、でもそれじゃ……」
(横回転でな。どっちにしろ、中に入らないことにはどうにもならない。もちろん、威力は抑える)
良かった。それなら竜巻に穴を開けるだけで済む。
「うん、分かった。それから?」
(あの風は円を描くように指向性を操作されてる。でも、内部の風は比較的弱いはずだ。そうじゃないと、傷ついた翼であの乱気流の中を飛び続けるのは不可能だ。台風の目、といったか? そこに風が弱い場所がある)
言われてみると、その通りだった。
二発目の火舞羅が命中したのは、タマが確認済み。人が飛ばされるような風力が竜巻の内側でも発生しているとは、ちょっと考えにくい。渦は中心まで完全に巻いているわけじゃなくて、真ん中は風が弱い。そう考えたほうが辻褄が合う。
(あとは分かるな? 前に教えた通り、防御結界を使って接近するんだ。当然わたしたちを撃ち落とそうと狙ってくるだろうが、そこはわたしの結界で防ぐ)
「でも、タマ? 中が空洞だとしたら、天井の部分から逃げられちゃうんじゃない? そうなったら流石に追えないし、行方が分からなくなったら、それこそまずいよ」
(まあ、たしかにな)
防御結界を再展開しながら、私の中でタマは腕を組んでいた。もう何度目かの落雷が、広げられた膜に遮断された。
そのときだった。タマは片目を伏せ、腕を解くと、人差し指を立てて得意そうに笑った。
(でも、大丈夫だ。忘れたのか? わたしには新しい狐火があるんだぞ)




